食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「かしわ天うどん」。
水天宮前にある讃岐うどん専門店「谷や」を訪れ、つるっとなめらかな讃岐うどんに、外はサクッと中はジューシーなかしわ天を添えた一品を紹介。
自宅でゼロからできる讃岐うどんづくりの方法も紹介する。
水天宮から人形町には多くのおいしい店
「谷や」があるのは、東京・水天宮前。東京メトロ半蔵門線が通る水天宮前駅は、伝統工芸や老舗が多く残る下町で、人形町も歩いてすぐの場所に位置する。
そんな水天宮前のランドマークといえば、安産祈願で有名な神社「水天宮」。
白木を基調とした本殿のほか、芸事をはじめ学業・金運のご利益があると言われる七福神の人柱・寳生辨財天(ほうしょうべんざいてん)が祀られている社もある。
「水天宮から人形町あたりは、いろいろないいお店がある。人形町の方に行くと『たい焼き店柳屋』、僕の大好きな『とんかつ店かつ好』。かつ好さんが出したかつ丼専門店『日本橋蛎殻町さくり』や『洋食店芳味亭』など、いろいろなお店があります」と植野さん。
植野さんは「また、水天宮といえば『T-CAT』、東京シティエアターミナル。そこから成田などに行くリムジンバスが出ていたんです。昔は海外旅行に行く人は、人形町に来て、そこから行ってた人も多かった」と話し、店に向かった。
「谷や」は本格的な讃岐うどんが味わえる
水天宮前駅から徒歩2分の場所にある「讃岐うどん 谷や」。
白を基調とした清潔感あふれる店内はカウンターとテーブル席がある。オープンキッチンのため、うどんを打ったり切ったりする様子が間近に見られる。

営むのは、うどんの本場、香川県出身の谷和幸さん(40)。
「打ちたて」「切りたて」「湯がきたて」の“三たて”が味わえる本場讃岐うどんを提供している。2010年に開店するや、またたく間に讃岐うどんの名店として評価された。

さまざまな食べ方がある讃岐うどんが、「釜揚げ」「釜玉」「ぶっかけ」それぞれで味わい方があるという。
茹でたうどんを釜からそのまま盛り付ける「釜揚げ」はつけ汁につけて。釜揚げに生卵をかけた「釜玉」はだし醤油。
水でしめたうどんにつけ汁をかけて食べるのが「ぶっかけ」と楽しみなのだそう。
そんな本場の讃岐うどんが食べられる名店が「谷や」だ。
家庭でも3つの材料でうどんができる
「谷や」では国産とオーストラリア産の小麦粉をブレンドし、そこに塩水をまぜ機械でこねていく。
ある程度混ざったら、しっかり足で踏みこんだあとに熟成と、それを繰り返す。
家庭でやるにはちょっと大変なため、家で作る方法も教えてもらった。

材料は小麦粉、水、塩のみ。まずは、水95mlに対して塩を12g入れ塩水を作る。続いて、塩水を3分の1ずつ小麦粉に入れ混ぜていく。同じ作業をあと2回繰り返す。

手で抑え、圧力をかけ、うどんが広がったら、折りたたみ、再び手で押す。この作業を5回ほど繰り返すことで層ができ、コシのあるうどんになっていく。
塊になったうどんを袋に入れ、冷蔵庫で30分以上熟成させる。
手作りと価値を守る、店主の思い
「谷や」の店主・谷さんは1984年に香川県で誕生。
幼少期からうどんを食べて育ち、高校3年生の時、うどん店でアルバイトを始める。その店が、多くの職人を全国に輩出する、地元で大人気の名店「もり家」だった。

ある日、社長の森田さんから「人を喜ばせるうどんが打てたら腕一本で食べていけるぞ!」と言われたという。その言葉を受け、谷さんは「そうだ、その手があったか!」と感心したそう。
植野さんは「最初から森田さんのところで(修業して)、さぬきうどんの道に進もうとしたんですか?」と質問。すると、谷さんは「そうですね、そこで8年間やらしていただきました」と答えた。

その後、東京で勝負したい!と思い至り、2010年に「谷や」を開店。本場の讃岐うどんが東京で食べられると話題になり、オープン以来たくさんの客が訪れている。
朝4時30分から仕込みを始め、だしやうどんづくりなど、谷さんは一つ一つ、丁寧に作業していく。
そこには谷さんのこんな思いがある。

「オープンしたときは“挑戦者”のつもりでしたが、今は“讃岐うどんの価値を落としたくない”という思いが一つあります。機械を使って大量に作ることもできますが、手作りを守っていくことが家の役割だと思っています」

本日のお目当て、谷やの「かしわ天うどん」。
一口食べた植野さんは「グッとかみしめると出てくるうどんのうまさと粉の香り、これが讃岐うどん」と絶賛した。
谷や「かしわ天うどん」のレシピも紹介する。