「あっ!音がでるようになった!」子供たちの喜ぶ声が響く。どんなに古くて壊れていても捨てられないおもちゃがある。思い出の詰まった大切なおもちゃを無料で修理してくれる「おもちゃ病院」。修理する‟ドクター”を取材した。
「おもちゃ病院」‟ドクター”の共通点は
9月のある日。福岡市科学館で開かれた「おもちゃ病院」。地域のボランティア団体が福岡市とその近郊のエリアで定期的に開催しているイベントだ。病院にちなみ、おもちゃを"患者"、修理する人を"ドクター"に見たて無料で‟治療”を行っている。
この記事の画像(12枚)この日の担当は6人のドクター。以前の仕事はみんなバラバラだ。電気メーカーの営業をしていたという曽根田雅行さん(75)は、おもちゃドクター13年目のベテラン。特別支援学校で3月まで先生をしていたという大村眞司さん(64)は、ドクターとしては、まだ1年目の新人。2年目の奈良秀光さん(65)は、送電線の土地の管理をしていたとのこと。
まったく異なる経歴のドクターたちだが「機械いじりが好き」ということが共通点だ。
1カ所修理すれば‟治る”ことが多い
早速、治療が必要な患者が現れた。依頼者が持参したのは『音が出る人気キャラクターのおもちゃ』。姉から譲り受けたお気に入りなのだが、電池を入れても音が鳴らないと症状を訴える。
奈良さんが早速、治療を開始。まず、解体する前に電池周りをチェック。すると…『僕、アンパンマン!』と、いきなり音が鳴り出した。奈良さんが施した治療は、電池が接触する端子部分を磨いただけ。あっという間に終わった治療に依頼者も大満足の様子だ。
ドクター歴7年の石内俊治さん(69)は「意外と電源のスイッチとか簡単な所で壊れていることが多い。おもちゃって1か所壊れると子供は遊ばなくなる。大体1か所修理したら治ることが多い」と話す。
壊れたパーツは自分たちで作る
次に持ち込まれた木製のバス。車軸が折れタイヤが取れていた。「同じ太さのシャフトが無いんで、中に1本軸を入れてそれでくっつける」とドクター歴15年のベテラン瀧本博文さん(75)。壊れたおもちゃのパーツは、自分たちで作ることもよくあるという。
今回も臨機応変に対応し見事、治療を終えた。その出来栄えに依頼者は、ただただびっくり。新しく車輪がついたバスは依頼者のもとへ戻された。
隠しネジに注意して‟手術”
次は、音楽が鳴らなくなったのでなんとか修理できないかという依頼。しかし「可能性は厳しいかもしれない」と申し訳なさそうに答える山田昌武さん(72歳)。山田さんははじめてドクターになったばかりとはいえ、大手電機メーカーに40年以上勤めた実績がある。治療には自信があるが、持ち込まれたおもちゃに関しては、どこから開ければいいのか頭を抱えていた。
他のドクターから「隠しネジがあるから、それをわからず開けるとプラスチックがバリっていっちゃう」とのアドバイスを受け格闘すること45分…。ようやく蓋が外れた。故障の原因はスピーカーの断線による接触不良。山田さんがスピーカーを交換すると息を吹き返したように音が出た。依頼者は、拍手しながら「もう完璧です!」と山田さんに何度もをお礼を言った。
おもちゃ病院に持ち込まれるもののうち8割程度は修理可能だが、水に濡れていたり基盤が精密すぎるものは、治せないことも多い。残念ながらその場合は事情を記した手紙を添えて持ち主に返すこともあるという。
スピーカーを交換して音が出るようになったおもちゃの依頼者から、その後に送られてきた動画には、子供がおもちゃから流れる曲に合わせて楽しそうに歌っている様子が映っていた。ドクターたちの苦労が報われる瞬間だ。
修理通じ‟ドクター”も子供も笑顔
この日、最後の診察は、リモコンで動く犬のおもちゃ。足が動かなくなっている。細かい検査のため山田さんの家に‟入院”し治療をすることになった。
中学生の頃から壊れたラジオを直すなど修理が大好きだったという山田さん。おもちゃ病院で活動をはじめた理由は「技術的な事の話が通じる人が周りに誰もいないので、誰かと話し合いたかった」とのこと。そして「お子さんやお母さんたちが嬉しければ、それで私も嬉しくなるし感激をもらっている」と微笑んだ。
山田さんの家に‟入院”していた犬のラジコンは、2日間の治療を経て依頼者のもとへ。持ち主の子供たちだけでなく修理するドクターも生きがいを感じて笑顔にする「おもちゃ病院」。
原則無料のこのボランティア活動は、全国各地で行われている。そこには子供たちの笑顔が溢れていた。
(テレビ西日本)