コロナ禍で感染拡大への懸念から、多くの場所でハンドドライヤーの使用が中止され、メーカーの売り上げが大幅に減少した。
また、コロナ後もその影響は続いているという。
海外では多くの国でハンドドライヤーの使用が継続されており、専門家は感染リスクは低いと指摘している。
コロナ禍で多くの場所で使用禁止に
コロナ禍で、一時使用停止になっていた印象が強いトイレなどに設置されている「ハンドドライヤー」。
今、このハンドドライヤーをめぐり、あるメーカーが危機的な状況に陥っているという。
ハンドドライヤーの在庫や部品が山のように積み上がっていたのは、神奈川・愛川町に本社を置く、「東京エレクトロン」だ。
東京エレクトロン・井上聖一社長は、「白い箱の中にモーターと配線したやつがあるんですが、だいたい1万個近くある。ハンドドライヤーだと、コロナウイルスをまき散らすではないかということを言われてから、そこからもう、一気に売れなくなってしまったんですよね。ショックだった」と悲痛の思いを語った。
ハンカチを使わずに手を乾かすことができ、広く普及していたハンドドライヤーだったが、感染を広げるおそれがあるとして、コロナ禍の2020年5月に、多くの場所で使用中止となった。
そのきっかけとなったのが、新型コロナウイルスの対策について話し合う政府の専門家会議だ。
この会議では、「ハンドドライヤーはやめ、共通のタオルは禁止する」と、レストランやホテルなど、それぞれの業界団体が感染防止のガイドラインを作るうえでの「基本的な考え方や留意点の例」として、ハンドドライヤーの使用中止が挙げられた。
ただ、海外では事情が違った。
アメリカで新型コロナウイルスの対応を中心的に担ったCDC(疾病対策センター)は、手を洗ったら、ペーパータオル、またはハンドドライヤーなどを使用して完全に乾かすことを呼びかけていた。
経団連の調べによると、コロナ禍でも先進国を始めたとした多くの国で、ハンドドライヤーは禁止されていなかった。
アメリカでは、コロナ禍でハンドドライヤーを敬遠する人もいたが、空気を洗浄する最新型も生まれるなど、今はほとんど元通りに使用されている。
日本ではどうして、ハンドドライヤーの使用中止という判断を出したのか、感染症にくわしい専門家に聞いた。
東京歯科大学 市川総合病院 呼吸器内科・寺嶋毅教授は「コロナウイルスが周囲に飛散することを懸念して、使用が控えられたのかと思います。ワクチンであるとか、治療法がはっきりしていなかった段階では、安全な方を優先したのかと思います」と推察している。
そして、コロナの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げられた2023年5月以降、ようやくハンドドライヤーから「使用禁止」の紙がはがされるようになった。
「人材という財産を失った」
街の皆さんに、「日本と海外のハンドドライヤーの扱いの違いを知っていたか」と聞いた。
取材した人からは、「えー!知らなかったです」、「ハンドドライヤーに抵抗感はあるから、タオルがあるときは極力使わないようにはしてます」、「知らなかったです。1回ついたイメージ変わりにくいのかな」などの声が上がった。
取材に対して、半数以上の人が「ハンドドライヤーのイメージがコロナによって変わった」と答えている。
こうした影響で、このメーカーでは、売り上げが一時、10分の1にまで激減した。
固定費を削るために、2022年の春には、東京・多摩市にあった本社を神奈川県へと移転し、従業員は11人から5人へと半減したという。
東京エレクトロン・井上聖一社長は、「とにかくコロナで人材という財産を失ったのが一番大きいですね。今全然、営業もできない状態。社員教育から始めないとだから、一からというかマイナスからです」と肩を落とした。
感染症の専門家は、研究結果などからハンドドライヤーの使用によるコロナ感染の危険性は高くないと話している。
東京歯科大学 市川総合病院 呼吸器内科・寺嶋毅教授「ハンドドライヤー自体は、使用は問題ないと思いますけれども、きちんとせっけんを用いて、流水でしっかり流すことが、みんなが安全に使えるもとになるのかとは思います」とコメントした。
(「イット!」 9月18日放送より)