米国の大統領選挙でロバート・ケネディ・ジュニア候補が選挙運動を中止し、共和党のドナルド・トランプ前大統領を支持すると表明したことは、やはりトランプ陣営にとって強い「追い風」になるようだ。

全国的にはハリス氏優位もスイング・ステートでは“逆転現象”

ケネディ氏の中止表明直前、リアル・クリア・ポリティクスの世論調査全国平均でカマラ・ハリス副大統領の支持率は46.4%、トランプ前大統領44.4%、ケネディ氏5%となっている。

このケネディ氏への支持票がどちらへ流れるかが注目されているわけだが、ウォールストリート・ジャーナル紙電子版は23日、「ロバート・ケネディ・ジュニアの離脱は、トランプを助ける可能性が高いと世論調査が示唆」という記事を掲載していた。

トランプ氏の選挙集会に登場したケネディ氏(アリゾナ州・23日)
トランプ氏の選挙集会に登場したケネディ氏(アリゾナ州・23日)
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記事の論拠は、2024年初めに行った世論調査で「ケネディ氏に投票する」と回答した民主党員は、バイデン大統領に不安を感じてそのはけ口をケネディ氏に託していたというもので、バイデン大統領の退陣の反動でハリス副大統領への支持が急増することになったとする。つまり、ケネディ氏の支持者の中から本来民主党を支持する有権者が減り、残る支持者の選択肢はトランプ前大統領になるというのだ。

ただ、そうは言ってもケネディ支持の5%が全てトランプ支持に横滑りするわけではなく、ウォールストリート・ジャーナル紙は世論調査を分析してこう推測する。

「ケネディ支持者だった有権者の半数がトランプを支持し、4分の1がハリスを支持するだろう」

これをリアル・クリア・ポリティクスの結果に適応させると、トランプ前大統領は本来の支持率44.4%にケネディ氏の支持率5%の半分つまり2.5%が加わって46.9%に、ハリス副大統領は46.4%プラス5%の4分の1の1.25が加わって47.65%となる計算だ。

これでも全国的にはまだハリス副大統領の優位は残るが、勝敗の鍵を握るいわゆる「スイング・ステート」では逆転現象も起きることになる。

例えば「スイング・ステート」の一つのアリゾナ州の場合、リアル・クリア・ポリティクスの州別平均で、ハリス副大統領45%、トランプ前大統領44.4%で副大統領がリードしているが、これにケネディ氏のこの州での支持率5.8%をウォールストリート・ジャーナル方式で加味して計算すると、トランプ前大統領47.3%、ハリス副大統領46.45%で逆転するのだ。

トランプ氏の選挙集会で演説したケネディ氏(アリゾナ州・23日)
トランプ氏の選挙集会で演説したケネディ氏(アリゾナ州・23日)

このアリゾナ州は前回2000年の大統領選挙で大激戦を演じ、ジョー・バイデン大統領が勝利して選挙人11人を獲得したが、トランプ前大統領との差は総投票数333万票余りの内のわずか10457票、得票率で0.3%の差だった。

今回もアリゾナ州は両陣営の重点地域で、それはトランプ前大統領がケネディ氏の支援を発表したのがアリゾナ州だったことがよく表している。

「ダブルヘイター」が“第3の候補”に流れるとの見方も

そうした状況の中で、世論調査の支持率が逆転するのは大きな意味を持つことになるが、トランプ陣営に追い風を送る候補者は他にもいると米誌ニューズウィーク電子版が23日伝えた。

「RFK Jr(ロバート・ケネディ・ジュニア)が離脱する一方で(緑の党の)ジル・スタインが残ったのはトランプにとって二重の推進力になる」

ジル・スタイン氏(写真:ゲッティ)
ジル・スタイン氏(写真:ゲッティ)

スタイン候補は支持率1%程度だが、人権問題で明快な主張を繰り広げて、いわゆる進歩派の支持を得ている。特に中東のガザ紛争では、イスラエルの攻勢が一般市民の犠牲を招いていることを糾弾し、イスラエルを制裁せず軍事支援を続ける民主党政権を非難しているが、ケネディ氏の離脱で、共和党も民主党も支持しない「ダブルヘイター(二重嫌い者)」がスタイン候補に流れ、その矢面に立たされるハリス副大統領には極めて厳しい逆風になるだろうとニューズウィーク誌は指摘する。

ケネディ氏撤退の選挙戦への影響は…
ケネディ氏撤退の選挙戦への影響は…

加えて、ケネディ氏の選挙戦離脱の理由づけは、民主党員の党への忠誠心を揺るがすようなパワーがあったように思う。

「ハリス副大統領の民主党は、私の父や叔父が知っていたものとは全く異なる党であり、私の価値観とは全く一致しません。RFK(ロバート・ケネディ司法長官)やJFK(ジョン・ケネディ大統領)の民主党は、市民の自由と言論の自由の党でした。しかし、ハリス副大統領の民主党は検閲、ロックダウン、そして医療強制の党です…」

ケネディ氏は離脱に先立つ15日、X(旧ツィッター)でこう心情を吐露していた。

ある年配以上の民主党員や民主党支持者の中には、RFKやJFKに憧れて政治的立場を決めた人たちが少なくない。そうした民主党系有権者に対して、ケネディ氏の決別宣言の影響は決して少なくないはずだ。

9月5日のレイバーデー(勤労感謝の日)をきっかけに本格化する大統領選挙には、トランプ陣営に吹くケネディ氏からの強い「追い風」が、新たな勝敗の決定要素に加わったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。