米政界揺るがす少女買春スキャンダル
米政界を揺るがすいわゆる「エプスタイン・スキャンダル」をめぐって、6年前に獄中死したエプスタイン氏が連邦捜査局(FBI)の情報提供者だったという疑惑を裏付ける文書が流出し、スキャンダルの知られざる局面が明らかになりそうだ。

米国の暴露系ニュースサイト「レーダー・オンライン」は5日、同サイトが情報公開法に基づいて入手したというFBIの内部ファイルを提示して「エプスタイン氏は米国政府に密かに協力する「FBI情報提供者」だったと特ダネ記事として伝えた。
「レーダー・オンライン」のサイト上に掲載された文書の画像は、上部にFBIのフルネームが太字で印刷され、次のような項目からなる。

優先度:通常
日付:2008年9月18日
発信者:空白
表題:一般的差し押さえ事項 ジェフリー・エプスタイン 起訴取り下げー児童売春
概要:差し押さえサブファイルFFの閉鎖を要求する。
これに続いて次のような説明文が添えてある。
「2008年9月11日、担当捜査官は筆者(通達作成者)に対し、エプスタインが現在フロリダ州によって起訴されており、同州との司法取引のすべての条件を順守していると助言した。また、エプスタインは合意に基づきFBIにも情報を提供している」
「担当捜査官は、エプスタインがフロリダ州との合意を引き続き遵守する限り、本件について連邦レベルでの起訴は行われないとも述べた。さらに、本件についての差し押さえ支援は今後不要であるとの助言もあった。仮に本件が連邦レベルで進展する場合は、筆者への連絡を要請する」
「本件においてこれ以上の差し押さえ関連の対応は不要と判断されるため、サブファイル『FF』の閉鎖を要請する」
エプスタイン氏への異例の優遇措置
注目すべきは文書の日付である。エプスタイン氏は2006年7月24日にフロリダ州パームビーチ警察に売春勧誘の疑いで逮捕され、2008年6月30日フロリダ州裁判所で18歳未満者の売春勧誘の罪で有罪判決を受け18カ月パームビーチ郡刑務所に拘束された。

その際、刑務所の特別区画に収容され、週6日最大12時間の外出を認めるという異例の優遇措置を受けた上、刑期を5カ月短縮して2009年7月に服役を終えて釈放された。
つまり、FBIの文書はエプスタイン裁判の判決直後に書かれたもので、その裏でフロリダ州の検察当局がFBIの意を受けて司法取引を行っていたことを明らかにしており、それは「フロリダ州との合意を遵守する限り連邦起訴は行われない」という部分が裏付けている。
平たく言えば、エプスタイン氏はかねて「FBIとの合意に基づいて情報提供を行なっており」、その貴重な情報提供者がフロリダ州の警察に逮捕されるとFBIは司法省を介して州検察が訴追に手ごころを加えるよう働きかけて司法取引の結果穏便な判決を実現させたということだろう。
司法取引に関わった検事を政権幹部に抜てき
ちなみに、この時エプスタイン氏と取引をしたフロリダ州南部連邦検事局のアレクサンダー・アコスタ検事は後に第一次トランプ政権で労働長官に抜てきされている。
問題はエプスタイン氏がどのような情報をFBIに提供していたかだが、文書はそこまで踏み込んでいない。しかし、同氏の日頃の付き合いから見て政財界エリートや外交関係者の女性関係や金融スキャンダルなどではなかったかと考えられる。

実はFBIを巨大な捜査機関に育てたジョン・エドガー・フーバー第6代長官も非公式に政財界の大物のスキャンダルを収集した俗に「フーバー・ファイル」を作り、その情報を使って政敵を攻撃したり自らの保身に活用していたと言われ、クリント・イーストウッド監督の伝記映画「J・エドガー」に詳しく描かれている。
エプスタイン氏の「顧客ファイル」も、今その存在をめぐる疑惑がトランプ政権を揺るがしているが、今回の文書の流出が新たな展開をもたらすかが注目されるところだ。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)