福岡・糸島市のスーパー『マルコーバリュー』のコメ販売コーナーには、在庫がある商品が並べられている。しかし、銘柄によっては入荷が困難なものもあるという。地元の糸島産のコメは、仕入れ先の協力で何とか入荷できているものの、県外産など一部の商品が品薄になっているという。
「大事に節約しながら使う」
その理由を『マルコーバリュー』の幸田敏治社長に聞くと「まとめて買う客が増えたことに加え、価格が5kgの米で去年より500円ほど上がっているので、家計にはかなり影響は出ているのではないか」と話す。幸田社長によると、1年で500円上がることは、これまでに経験がないというのだ。
この記事の画像(10枚)買い物客に聞くと「1日に8~9合炊いています、やはりコメを買うのをちょっと考える。大事に節約しながら使う」と話す女性や「娘が横浜に住んでいるんですけど、もう全くコメがないそうです」と娘の食べるコメを福岡から送っていると話す女性など、コメ不足の影響は大きいようだ。
SNSには、首都圏などのスーパーでコメが消えていたり、購入制限が設けられていたりする様子が相次いで投稿されている。
深刻なコメ不足の背景にあるのは、新潟や秋田産の人気のコメが2023年の猛暑や小雨で不作となったことやインバウンドの急増による需要拡大、南海トラフ地震臨時情報の発表による買いだめ行動などがあげられている。
影響はこんなところにもー
福岡・大川市の『ふるさと納税』の申し込みサイトのランキング。見ると福岡県産米の『夢つくし』が1位となっている。さらにクリックすると一時、受付停止というお知らせ画面が出て来る。
取材班が開いたPCサイトには、原材料の高騰、品薄により、8月21日から「一時受付を停止する」と記されてあった。
大川市企画課地方創生推進係の石橋広通係長は「ずばりコメ不足によるものです。今年4月から7月までの4カ月間でコメの寄付額は、去年1年間の約3倍以上。全国的にコメ不足のニュースが広まっているので、それに伴って関東圏からの寄付が割合的に多くなっております」と理由を説明する。
「九州産のコメが東京や大阪に流出」
福岡市内の老舗コメ店『四十川米穀店』の手塚理士会長は「いま、我々、米屋の商人としては、原料がないというか、卸業者や農家に頼んでも、いろいろなルートをあたっても、とにかく”ものがない”ということ。去年、東北や北陸で、高温障害によりコメが取れていない。逆に九州は良くて、そのコメが消費地である東京や大阪に流れたと聞いている」と実情を語る。
コメ不足の影響は、その価格に大きく現れている。店では8月から早場米コシヒカリの新米を販売しているが、5kgの価格は前年より1000円近くも上がっている。
手塚会長もこれほど値段が上がった経験は、平成3年のコメ不足のときに経験して以来だと驚く。30年ほど前に日本列島を襲った『平成のコメ騒動』。冷夏による不作で深刻なコメ不足となり、カリフォルニア米やタイ米が店頭に並んだのだが、それ以来の高騰になっているというのだ。
急ピッチで進む高温に強い新品種の開発
まさに「令和のコメ騒動」ともいえる今回の事態。さらに最近の過酷な気象条件で、九州でもどうやってコメの品質を保つことができるのか?急がれているのが高温に強い新品種の開発だ。
福岡・筑後市にある九州沖縄農業研究センター。敷地内の田んぼで行われている実験を作物育種グループの黒木慎グループ長に聞くと「7月の終わりから8月の終わりにかけて、一番暑くなる時期、その暑い時期に出穂させて、できるだけ高い温度に当てて高温耐性をしっかり見ようという試験をやっている」と話す。
『ヒノヒカリ』など複数の品種が、高温状態で品質がどう変わるのか、調べているというのだ。
注目は、良い特性を持った品種同士を掛け合わせて開発した稲。黒木グループ長は「高温に対する品質は、ヒノヒカリよりもかなりいいということと、少し病気に強いということ。それから収量性もヒノヒカリに比べるといい、というデータが現在のところ得られている」と期待を寄せている。
玄米の状態で比較すると、高温によって白く濁ってしまう「白未熟粒」が、期待の新品種は明らかに少ないことが分かる。市場に出回るのは早くて2、3年後ということなのだが、黒木グループ長は「高温でも品質が悪くなりづらいので、前と同じ栽培方法でも、かなり被害が軽減できるという安心感はある。早く良いものを届けたい」と話す。
果たして「令和のコメ騒動」はいつまで続くのか。政府は9月に新米が本格的に出回れば、品薄は解消するとして、落ち着いて買い求めるよう呼びかけているが、しばらくは混乱が続きそうだ。
(テレビ西日本)