静かに、しかし確実に広がる影。それは、かつて「過去の病」と思われていた梅毒の再来である。国立感染症研究所によると年代別では特に20代女性で全国的に急増していて、長崎でも20~30代の若い女性たちの間で割合が高くなっている。なぜ、若い女性たちがこの古くて新しい病に脅かされているのか。そして、この感染拡大が社会にもたらす影響とは。

20代女性に急増中 見えない脅威

長崎県では、2024年7月4日現在、すでに60件の梅毒患者が報告されている。2023年の過去最多147件に迫るペースだ。中でも注目すべきは梅毒感染が20代女性に増えている点だ。そこには複合的な要因が絡み合っていて、その中心にあるのは「見えない」という梅毒の特性だ。

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初期の梅毒症状は、気づかないうちに消えてしまうことがあり、特に、性器や口腔内に現れる無痛性のしこりは、痛みがないため見過ごされやすいという。さらに20代という年齢層特有の要因も無視できない。この時期は、新しい恋愛関係や性的パートナーとの出会いが多く、性的活動が活発になる。そして、マッチングアプリの普及により、匿名性の高い環境でのパートナー選びが容易になった。これらの社会的変化が、感染リスクを高めている可能性がある。

見逃しやすいサインを見逃すな

梅毒の症状は、その進行段階によって大きく異なる。初期段階では、感染部位に無痛性のしこりが現れるが、これは数週間で自然に消えることがある。

提供:日本性感染症学会
提供:日本性感染症学会

次の段階では、全身にピンク色の発疹が現れる。特に手のひらや足の裏に出やすいのが特徴だ。しかし、ここで油断してはいけない。症状が一時的に消える潜伏期に入ると、外見上は健康そのものに見える。だが、体内では梅毒菌が静かに活動を続けているのだ。

各保健所は定期的な検査を呼び掛けていて、新しいパートナーができた時や、妊娠を考えている時は必ず検査を受けてほしいとしている。

小さな命を脅かす見えない敵

梅毒が最も恐ろしい影響を及ぼすのは、妊婦とその胎児である。妊婦が梅毒に感染すると、流産、早産、死産のリスクが高まる。さらに、胎児に感染すると、先天性梅毒として様々な障害をもたらす可能性がある。国立感染症研究所によると、先天性梅毒の赤ちゃんは、難聴、失明、知的障害など、様々な問題を抱える可能性があるという。しかし、妊娠初期に適切な治療を行えば、これらのリスクを大幅に減らすことができるため早期発見・早期治療が、母子の健康を守る鍵となる。妊娠を考えている女性、そして妊婦は、定期的な検査を受けることが極めて重要だ。

提供:日本性感染症学会
提供:日本性感染症学会

梅毒は、早期に発見し適切な治療を行えば完治が可能な病気である。しかし、その「見えない」特性ゆえに、多くの人々、特に若い女性たちを脅かしている。正しい知識を持ち、定期的な検査を受けること。そして、疑わしい症状があれば躊躇(ちゅうちょ)せずに医療機関を受診すること。これらの行動が、自分自身と大切な人々を守る最大の防御となるのだ。

梅毒という古くて新しい脅威に、私たちはどう立ち向かっていくべきか。その答えは、一人一人の意識と行動にかかっている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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