膨大な業務に急な手術など、多忙さから長崎大学病院では男性職員の育児休業取得はかつてはゼロだった。そんな中、病院の意識改革などの取り組みや後押しもあり、育休を取得した男性医師がいる。その背景にあったもの、取得して見えてきたものとは。

「育児家事は妻」から「育休取得へ」

長崎大学病院の心臓血管外科で働く三浦崇医師は2人目の子供が生まれた時、「妻にできるだけ休んでもらえるように」と育児休業を取得した。育休中は赤ちゃんの沐浴や1人目の子供の幼稚園の送迎、洗濯や掃除、買い物などを任されていて、育児の大変さを痛感したという。

長崎大学病院心臓血管外科 三浦崇 主任教授
長崎大学病院心臓血管外科 三浦崇 主任教授
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長崎大学病院心臓血管外科・三浦崇主任教授:問題は3時間おきの授乳、一緒にしばらく3時間ごとに起きてやってみたらめちゃくちゃ大変だということがわかった。途中具合悪くなって3時間おきの授乳って大変なんだなと

医師の業務は多忙を極める。長崎大学病院心臓血管外科では年間300を超える手術があり、そのうちの3割は緊急手術だ。このため急な呼び出しから長時間労働になることも多く、まとまった休日がとれることはほとんどなかったという。「家や子供のことは妻任せ」だった三浦さんが育休を取得したのには2つのワケがあった。

長崎大学病院心臓血管外科・三浦崇主任教授:長女が生まれたときは育休取得していない、ワンオペだった妻からはつらい、つらすぎると言われた事もあって第2子で取得しようかと気持ちになった

もう1つの理由が「病院の組織改革」だ。長崎大学病院は男性の育休取得100%を目指している。2015年度から2023年度までに70人の男性職員が育休を取得していて、このうち医師が27人と最も高い割合を占めている。

育休を取得した男性ドクターの声
育休を取得した男性ドクターの声

育休取得の経験者からは「育休を機に子供たちや妻目線での一日の過ごし方を知ることができた。仕事と家庭の両立のためにも想像力が大事だと思う」や「妻が日常的に行っていた家事や育児を行うことで大変さを知ることができた。より育児に関わっていかなければと強く感じられたことが大きかった」などという声も上がっている。

長崎大学病院は男性の育休取得をさらにすすめたい考えだ。

「取得が難しい」事情

一方で、職場環境によっては「取得が難しい」との声もある。2024年5月に病院内の育休取得対象の男性26人に行ったアンケート調査では、回答があった10人のうち「妻の負担を考えて今後取得するつもり」と答えた人は3人で、「取得しない」「迷っている」と答えた人は7人だった。

理由として「業務の状況で休めない」「休業中の業務を代われる人がいない」などが挙がっていて、ほかにも「報酬が減る」「有給消化をした方が給料が減らない」など、経済的な事情も浮彫となった。

医師の仕事と子育ての両立などを支援する長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンターの南センター長は「意識改革」がポイントだと話す。

長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター南貴子センター長:職場の環境を変える、上司の意識を変えるというのが必要。トップがとっていいよと言ってくれる、休んでもいいですよと、男性でも子供ができたら子供と一緒にいたいんだという気持ちをみんなで共有できれば

タスクシェア・タスクシフトのために

さらに育休を取得するためには業務の調整が必要なことから、医師の膨大な仕事を分担させ医師の業務の一部を担うことができる「診療看護師」の導入も進めている。

翌日に心臓の手術を控えた患者が金属アレルギーであることがわかり、この日は診療看護師が手術に使う人工弁にどんなアレルギー物質が含まれているのかを調べた結果が医師に報告された。

長崎大学病院心臓血管外科・診療看護師 村上友悟さん:先生たちしかできない、うちなら手術だが、そこに注力してもらうためにカバーができるか、その結果のひとつとして育休がとれる

患者の情報共有を行う三浦医師と村上診療看護師
患者の情報共有を行う三浦医師と村上診療看護師

長崎大学病院心臓血管外科・三浦崇主任教授:外科医ですので手術がメイン、昼間に手術に入ってしまうと病棟でしないといけない仕事ができない。その時間帯の仕事を診療看護師が昼間全部カバーしてくれるので、1人欠けても育休がとれた

育休取得後に得たものとは

担当する手術のスケジュール調整などもしながら職場の後押しや支援を受けて育休を取得した三浦医師。期間はあわせて2週間だったが、得るものは大きかったと話す。

長崎大学病院心臓血管外科・三浦崇主任教授:2週間の育休で本当に意味があるのかという疑問も確かにある、でも2週間でもとってみるとその後の生活が変わる。積極的に育児に関わろうとする、熱が出たときは妻だけに任せるのではなく、自分も仕事を調整して子供を病院に連れていくとか、薬を飲ませるとか。愛情の形が変わったかもしれない

三浦医師は今後は上司として育休を薦める立場だが、そのためには育休中に他の人にかかる負担が増えないような環境整備が今後も必要と話している。

生まれたばかりの我が子との時間は、意外にもあっという間だ。二度とないかけがえのない瞬間に立ち会い、夫婦、そして家族の絆が一層深まったようだ。

(テレビ長崎)

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