2人目の子供で長期の育児休業をとることを決意した石川敏郎さん。愛する娘たちと一日中一緒に過ごせる幸せな時間のはずだったが、理想と現実のギャップに苦しむことになった。彼が育休を経て得たものとは。そして男性が育休をとりやすくするために必要なこととはー。

初めての育休、待っていたものは

石川敏郎さんが働くのは全国転勤がある職場で、子育ては赴任したばかりの広島市でスタートした。敏郎さんは育休をとる前は、これから始まる娘たちとの濃密な時間に胸を躍らせていた。

石川敏郎さん:
育休をとるときは「よし!休みだ」と思っていた。「休業」と言葉が付くくらいなので休みとして捉えていた。「さぁ、どこへ行こうかな」とか「何食べにいこうかな」とか

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子供と向き合える喜びを感じる一方で、彼を待っていたのは「決して休むことができない現実」だった。

石川敏郎さん:
実際に育児に参画してみると、やることは無限にあって、かつ寝る時間もなくて、ほかの友人と会って大人同士で会話する機会もないので、本当に大変で悩んだ時間だった。子供とどうやって遊ぼうか、遊びにいくならどこに行けばいいか、当時は何の情報もなかったので、家の周りを淡々と散歩したり、公園に行って犬を探したり、そういう付き合い方しかわからなかった

そして、知り合いがいない広島での育児生活、さらにいまだ取得がめずらしい「男性の育休」が彼を追い詰めることになった。

石川敏郎さん:
男性で育児を経験した人、男性育休をとっている人との出会いが圧倒的に少なかった。色々なイベントや支援センターにも行ったが、同じような立場・境遇で、思いを共有したりアドバイスをもらったり、そういう機会がないことが一番こたえた。泣いた。九州男児たるもの涙してなるものかと数十年涙したことはなかったけど、赤子に泣かされた。ずっと泣き続ける子供にどうしていいかわからない自分がいた

助けを求められる人も周囲におらず、ある種、閉ざされた環境の中で育児とどう向き合えばいいのか、深く悩む日々を送っていた石川さんを救ってくれたのが、広島と地元・長崎の子育て支援センターだった。

石川敏郎さん:
男性として弱音を吐いてはいけない、とどこか思っていて、具体的な相談はできなかったが、支援センターの人が不安に思っていることを読み取ってくれて、パパ向けのイベントを紹介してくれたり、一時預かりのような、今まで知らなかった制度を教えてくれたり、地域の人に救われた

石川さんはスタッフとのやりとりや出会ったママ友とのつながりから、子育て中の交流の大切さを実感し、自分と同じ思いをしている人を支えたいと、お世話になったセンターで自らも子育て支援のイベントを開くことにした。

「共感されること」への安心感と信頼

長期の育休を取得し、夫婦でともに育児をしてきたことで妻の心の変化も大きいようだ。

妻の美耶子さん:
夫が一番近くで私の気持ちに共感してくれているか、してくれていないかが全然違う1年だった。こんなことがつらいとか、これが心配だとか、(育休をとらなかった)長女の時は相談しても「大丈夫だよ」と励ましてくれても、「どこから来る?その大丈夫。全然不安は解消されないわ」と思っていた

だが、石川さんが「体が小さい次女にもっとご飯を食べさせたいよね」「足の爪の形が心配」と、細かいところまで理解して共感してくれるようになったという。

妻の美耶子さん:
働いている大変さと育児の大変さは経験しないとわからない。「育児は家にいて子供が昼寝したら休憩時間でしょ」みたいに思われるのはわかるが、精神的に1人の時間なんてない。それを理解できるのは本当に経験してからだと思うので育休をとる人が増えて理解が深まるといいなと思う

取得率が伸びない理由と国の方策

厚生労働省が毎年行っている男性の育休取得率の調査によると、2022年度は約17%と過去最高だったものの、国が2025年までの目標とする50%までは開きがある状態だ。育休取得をしない理由について最も多かったのは「収入を減らしたくない」で、次いで「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった」または「会社や上司、職場の育児休業への理解がなかった」などがある。

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男性が育休を取得しても短期間にとどまり、家事や育児に十分な時間をさけない、いわゆる「とるだけ育休」も懸念されている。男性の育休取得を後押しするために、国は2022年10月に「産後パパ育休制度」を創設し、男性は子供が産まれた後8週間以内に4週間まで休みを取得することができ、2回に分けて取ることも可能になった。

さらに、給付の面では両親ともに育休が取得できるように、現在67%となっている育児休業給付の給付率を2025年度から8割程度に引き上げ、手取り収入が変わらないようにするとしている。

男性の育休取得を推し進めるためには、男性へのメンタル的なサポートやケア、仕事への影響についてのきちんとした説明ができる職場や社会的な制度づくりが大切だと、石川さんは考えている。

石川敏郎さん:
多く聞く不安としては「キャリア形成」をする中で育休をとると、一時中断になると思っている若手社員の声がある。制度面と会社の中の風土、キャリアに影響がないよ、ということをしっかり見える化してあげることが大事

育休取得をして1年 いま伝えたいこと

1年にわたった石川さんの育児休業は2023年11月に終了し、仕事に復帰した。現在もフルリモートで時短勤務にしている。収入は減ったが夫婦で話し合って、今は家族との生活を第一にしようとしている。

男性の長期の取得がまだ珍しい中、夫婦で子育てできる喜びを多くの人に伝えたいと石川さんは思っている。

石川敏郎さん:
これから世の中が男性育休というなら、経験者が「育休は楽しいよ」「大変だけど家族との絆が深められるよ」と前向きな情報を発信するのが私のミッションだと思うので、育休経験者として情報発信できたらと思う

長期の育休を取得した男性は例が少なく、石川さんは社内で講演をしたり相談の窓口になったりしている。育児中の両親の交流の場は今後も作っていきたい考えで、第2弾も検討しているという。

いまだ国の目標に大きな開きがある男性の育休取得。社会での男性の育休取得への理解が深まるともに、職場などの体制づくりがより一層求められる。

(テレビ長崎)

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