「トランプが虎視淡々と逆転を狙っている」
米大統領戦の「潮目」が変わったのだろうか?
「バイデンは引き続き優位に立っているが、トランプは低迷を脱してきた。新型コロナウイルスの感染が収まらず死亡者も増えている中で、トランプはバイデンをstriking distancing(射程内)に捉えた」
反トランプ急先鋒のCNNが8月6日、こう伝える記事をウェブサイトに掲載した。著者はCNNの政治アナリストであるハリー・エンテン氏。各種の世論調査を分析して、5~6月にはトランプ大統領への支持が立ち直れないほど低迷しながらも、7月になると底打ちして回復してきていることに注目する。とは言えCNNのことなので、こう付け加えることも忘れない。
「現在の世論調査を見る限りでは、バイデンが比較的安定した優位を保っており、明らかに勝者と考えられるが、全てに前例のない異常な状況に直面している時に、トランプが虎視淡々と逆転を狙っているのも確かだ」

1カ月半弱で支持率3.8ポイントを追い上げる
トランプ大統領の支持率は、新型コロナウイルスの感染が拡大し、黒人男性が警察官に殺害される事件に抗議する運動が広がった5月後半から急落。
リアルクリアポリティクスの各世論調査平均値で、6月23日にはバイデン氏51.1%、トランプ大統領40.9%で10.2ポイントも開いていた。
6月22日掲載のコラム(劣勢のトランプ大統領に挽回の余地はあるのか 狙いは「“寝ぼけたジョー・バイデン”の墓穴」?)でも「今選挙が行われれば再戦の可能性は薄い」と伝えたが、それが7月に入ると回復をはじめ、8月5日現在ではバイデン氏49.1%対トランプ大統領42.7%まで迫ってきた。
それでもまだ6.4ポイント差あるわけだが、ちなみに前回大統領選があった2016年の同じ8月5日の場合なら、ヒラリー・クリントン候補がトランプ候補に6.7ポイントのリードを保っていたのに最終的には敗北している。

「トランプの選挙は世論調査では計りにくい」とよく言われるが、7月27日掲載のコラム(「隠れトランプ」の正体見たり! トランプ支持を公表すると“解雇”か“村八分”になるリスク)でも指摘した「隠れトランプ」が存在するのであれば、トランプ大統領はすでにバイデン氏を「射程内」に捉えたというのは当を得た表現だろう。
これとは別に、トランプ陣営は7月に支持者から寄せられた寄付が過去最高の1億6500万ドル(約173億円)に達したと発表した。一方のバイデン陣営は1億4000万ドル(約147億円)で、2500万ドル(約26億2500万円)の差が生じたことも、トランプ陣営の勢いがついてきたことの証拠と見られている。
新型コロナへの姿勢が国民に届いた?
そのトランプ大統領のカムバックだが、CNNのエンテン氏は、新型コロナウイルスの感染も人種差別への抗議活動も新たな展開がないまま、米国民の不安が多少収まってきたためかと分析するが、トランプ陣営は別の見方をする。
トランプ陣営は、7月はじめに選対本部長を更迭して新たにビル・ステピエン氏を任命したが、同氏がまず行ったのは、大統領が4月まで行っていた新型コロナウイルス問題の記者会見を復活させることだった。7月21日以来、大統領はほぼ毎日記者会見を行い、コロナ問題に限らず記者たちの質問を受け、会見は1時間に及んでいる。

この会見と大統領の支持率の回復が時期的にほぼ一致するので、トランプ陣営は「大統領が自ら国民に語りかけることがいかに大事かを証明した」と、言ってみれば自画自賛している。
それはそれとして、記者会見を避けているように見えるシンゾーにも参考になる話ではないか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】