資本主義の牙城のような米国のニューヨークに、若いバリバリの社会主義者の市長が誕生するかもしれない。
ニューヨークでは2025年11月の市長選挙に向けて24日、民主党の予備選が行われ、ニューヨーク州議会議員ゾーラン・マムダニ氏(33)が、本命とみられていた前ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏を破って党の候補者に選出された。
「物価を引き下げ、生活を楽にする」
マムダニ氏はアフリカのウガンダでインド系の家庭に生まれ、7歳の時に一家と共に米国に移住して帰化したイスラム教徒という異色の経歴の持ち主だ。
メーン州の名門大学ボウディン大学に進学するが、そこで「パレスチナに正義を求める学生集団」という学内組織の設立に加わり、卒業後はアメリカ社会党(SPA)の後継組織「アメリカ民主社会主義者(DSA)」に参加して、貧しい家庭が住居から立ち退きを迫られれないよう助ける運動に関わってきた。
その間、ニューヨークの地方選挙で、ボランティアで革新派の政治家を応援してきたが、2020年、29歳の時にニューヨーク州議会議員選挙に民主党から出馬して当選、以来2022年、2024年と再選を重ねてきた。

今回の市長選挙への出馬に当たってマムダニ陣営は「ニューヨークは何でもモノが高すぎる。ゾーランは物価を引き下げ、生活を楽にする」という標語を掲げて次のような公約を打ち出していた。
⚫️家賃の凍結
⚫️安い公営住宅の建設
⚫️悪質な地主の追放
⚫️公営のスーパーマーケットを設置して商品の低価格販売を促進
⚫️市営バスの無料化
そして、こうした福祉政策を実現するために
⚫️企業や上位1%の富裕層に対する課税強化
を訴えた。
民主党支持のニューヨーク・タイムズが“不支持”
これに対して、ニューヨークの世論を主導するニューヨーク・タイムズ紙は予備選直前の16日、マムダニ氏に反対する社説を掲載していた。
「マムダニ氏はビデオなどを多用して楽しい選挙運動を展開しており、トランプ大統領への怒りの時代に、人々が飢えているような新鮮な政治スタイルを提供していますが、残念ながらマムダニ氏の政策はニューヨーク市が直面している課題に適しているとは言えません」
In @nytopinion
— The New York Times (@nytimes) June 17, 2025
“New York needs a mayor who understands why the past decade has been disappointing,” writes the New York Times editorial board. https://t.co/oH44YHCH35
社説は、例えば家賃の凍結は住宅供給を制限し、新たな住宅購入を困難にしたり、小売販売が公共部門の強みであるかのように扱うのは間違いだと指摘し、何よりもマムダニ氏には行政部門や民間組織の運営をした経験がないことを挙げてこう読者に訴えていた。
「我々は、マムダニ氏はニューヨーク市民が投票用紙にその名前を記すのには相応しくないと信じています」
民主党支持であることを公言する同紙にしてマムダニ氏を支持できなかったことは、逆に言えばその政策の急進性を明らかにしたものと言えるだろう。
Today's cover: Andrew Cuomo concedes as Zohran Mamdani wins NYC Democratic mayoral primary in stunning upset https://t.co/KZe5INmzwO pic.twitter.com/y0UZ3Xpk6q
— New York Post (@nypost) June 25, 2025
一方、ニューヨークの保守派の声を代表する大衆紙ニューヨーク・ポストは25日、一面いっぱいにマムダニ氏の写真と「NYC(ニューヨーク)SOS」という大見出しと、次のような小見出しを掲げた。
「社会主義過激派が民主党予備選でクオモを叩き潰した後、誰がこの街を救うのだ?」
オランダで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席していたトランプ米大統領も26日、SNSで反応した。

「ついにやってしまった。民主党は越えてはならい一線を踏み外し、ゾーラン・マムダニという100%狂信的共産主義者が民主党の予備選を勝利し市長への道を歩み出した」
しかし、マムダニ氏の「市長への道」は、すでに大きく開かれていると言っても良い状況だ。

11月の市長選挙には民主党のマムダニ氏と共和党のカーティス・スリワ氏、それに加えて現職のエリック・アダムス市長が汚職疑惑で民主党を離党し今回は無所属で出馬するが、エマーソン大学がこの顔ぶれを前提に世論調査をした結果、得票率はマムダニ氏35%、スリワ氏16%、アダムス市長15%となっていた。
ニューヨークの政財界が激震に見舞われそうだ。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)