保守派(トランプ支持者)ほど政治信条を明らかにせず

「隠れトランプの正体見たり」というところか。

米国のリバタリアニズム(新自由主義)のシンクタンク「ケイトー研究所」は22日、政治信条の公表に関する世論調査の結果を発表した。

調査は18歳以上の米国人2000人を対象に行われ、まず「自分の政治信条を公表すると、他人を不快にさせるので控えるか」という質問に対して、極めて保守派のグループは77%、また単なる保守派のグループも同数が「控える」と答えている。

この傾向は中道グループで64%、進歩派で52%と減少し、極めて進歩派のグループでは42%で、逆に「控えない」が58%と逆転している。

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つまり、保守的な人ほど自分の政治信条を明らかにすると他人を不快にさせるので控える傾向があり、逆に進歩的な人物は他人がどう思おうと構わず政治信条を発表するのを躊躇しないことを表している。

政治信条を公表することで失業?!

その「他人を不快にさせる」ことに関連して調査は政治献金を例に訊いているが、極めて進歩派の50%が「トランプ陣営に献金した者は解雇すべき」とする一方で、極めて保守派の中で「バイデン候補に献金した者を解雇すべき」としたのは36%だった。

トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右)
トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右)

政治献金だけでなく、SNSにトランプあるいはバイデン支持を書き込んだことで炎上するだけでなく、反対派に商品などをボイコットされることを恐れた企業に解雇されたというケースも米マスコミに散見する。調査では保守派、中道派、進歩派に限らずほぼ三分の一の回答者が政治信条を公表することで職を失う危険があると答えている。

しかし回答者の学歴を見ると、保守派では高学歴になるほど危機感が増しており、大学院卒では60%が職を失うことを心配する一方で、進歩派では、高卒も大学院卒も25%程度でほとんど変わらない。

こうした結果を受けて調査は「米国では政治意識が大きく分かれているにも関わらずそれを秘めておいて議論しないのは、極めて重要な政治問題を詳しく審査し、理解して、改革に結びつける機会を妨げている」とだけ結んでいるが、その傾向が保守派に顕著なのは明らかだ。

前回2016年の大統領戦では、ヒラリー・クリントン候補がほとんどの世論調査で有位差のあるリードを保ちながらトランプ氏に敗退し、選挙のプロ達を慌てさせた。

選挙のプロ達を慌てさせた2016年の闘い
選挙のプロ達を慌てさせた2016年の闘い

その結果、世論調査に正直に答えない「隠れトランプ」がいるのではないかとされていたが、このケイトー研究所の調査でその正体が具体的に見えてきたように思える。

「逃げも隠れもしないトランプ支持」の実数

今の米国では「トランプを支持する」と言うと、間違えれば職をも失いかねないことになるのだ。そうでなくとも職場や地域社会で「村八分」的な扱いを受けることを保守派は恐れている。

今回の大統領戦でも、民主党の候補になるのが確実なバイデン前副大統領がトランプ大統領を世論調査で大きくリードしていると報じられているが、誰もがその調査結果をまともに信じているわけではないようだ。

ケイトー研究所の調査は「隠れトランプ」の実態をデータで把握した。それを変数として世論調査を見直せば「逃げも隠れもしないトランプ支持」の実数がわかるのではないだろうか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン+図解イラスト:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。