カタール政府からトランプ米大統領へのジャンボ機のプレゼントは、「ただより高いものはない」ことになるかもしれない。

「問題なのがカタール」保守派ジャーナリストが指摘

米国の大衆紙ニューヨークポスト電子版に13日、保守派の著名なジャーナリストのマイケル・グッドウィン氏の次のような論評記事が掲載された。

大統領専用機
大統領専用機
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「トランプ氏がカタールからの航空機を軽率に受け入れることは、大統領職を破滅(ruin)させかねない不要なリスクだ」

ニューヨークポスト紙は保守派マスコミの旗頭的存在で、グッドウィン氏もトランプ大統領を擁護する論陣を張っていたことで知られるので、この記事は注目された。

ボーイング747のそばにトランプ大統領の車列が…(2025年2月15日・フロリダ州パームビーチ)
ボーイング747のそばにトランプ大統領の車列が…(2025年2月15日・フロリダ州パームビーチ)

中東の豊かな産油国カタールがトランプ大統領に、時価4億ドル(約600億円)相当のボーイングB747ジャンボジェットの最新鋭機をプレゼントし、大統領専用機エアフォースワンの代替機として利用するという話は、大統領も12日にSNSのトゥルースソーシャルで次のように認めた。

トランプ大統領の投稿
トランプ大統領の投稿

「国防総省が、40年前のエアフォースワンに変わるB747型機を無償で提供され、極めて公的で透明性の高い取引で一時的に使用するというのに、ペテン師民主党員たちは最高額を払えと主張している。金を払うのなら誰でもできるのだ!民主党は世界一の負け犬揃いだ!!! アメリカを再び偉大に」

同時に大統領は、任期全う後、ジャンボ機はトランプ大統領図書館に寄贈されるとも記者団に語っているので、個人的なプレゼントの色合いが濃いとも言える。

米国憲法はその第1条9節8項で「いかなる報酬、職位、称号、贈与も、合衆国の信任ある地位にある者が、国王、公侯、または外国政府から、議会の同意なしに受け取ってはならない」(報酬条項)と定めてはいるが、罰則規定はない。しかも連邦議会は現在、上下両院とも与党共和党が多数なので、問題になれば事後承認を得ることも理論上は可能なのでトランプ大統領は強気なようなのだが、グッドウィン氏は別に危機的要素があるとする。

カタールと2435億ドル規模の経済取引で合意(5月14日・ドーハ)
カタールと2435億ドル規模の経済取引で合意(5月14日・ドーハ)

「問題なのがカタールだ。
同国は、(アラブ主導のマスコミ)アルジャジーラを運営し、ハマスの資金源となり、その指導者らに逃亡先を提供してきた王族によって統治されている。
さらに、10月7日のイスラエル虐殺事件について非難することすらしていない。加えて、カタールからアメリカの名門大学に流れた資金の一部は、反ユダヤ主義・反米的な教員やイスラエルの消滅を唱える急進派団体と関連が指摘されている」

「大きな汚点に」急進右翼の政治活動家も“警告”

また、急進右翼の陰謀論者とまで言われる政治活動家のローラ・ルーマーさんは12日、こんなX(旧ツイッター)をアップした。

「私はトランプ大統領が大好きだ。彼のためなら身代わりに(暗殺の)銃弾を受けることも厭わない。しかし、私は言うべきことは言わなければならない。スーツ姿のジハード主義者(イスラム武装闘争派)から4億ドルの 『贈り物 』を受け取るわけにはいかない。
カタールは、米軍兵士を殺害したハマスやヒズボラと同じイランの代理組織に資金を提供している。メキシコのカルテル(麻薬組織)と協力し、ジハード主義者たちを国境を越えさせたのもカタールだ。もしこれが本当なら、政権にとって大きな汚点となるだろう。トランプのためなら銃弾も厭わない者として、私はそう言いたい。とても失望している」

こうしたトランプ大統領の岩盤支持層「MAGA(アメリカを再び偉大に)派」の失望がトランプ政権の「破滅」につながりかねないとグッドウィン氏は警告するのだ。

トランプ大統領とタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長(右)(5月14日・ドーハ)
トランプ大統領とタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長(右)(5月14日・ドーハ)

「トランプ一族の外国取引やカタール機問題こそが、民主党の『攻撃軸』となる可能性が高まっている。
それがたとえ大成功でなくとも、影響は過大となりうる。下院における共和党の多数派は非常に脆弱(ぜいじゃく)であり、中間選挙ではしばしば大統領政党が議席を失う。
世論の小さな変化が、(民主党院内総務の)ハキーム・ジェフリーズ議員への議長交代をもたらすかもしれない。そうなれば、トランプ氏の内政のアジェンダ(実行計画)は即座に頓挫し、下院での弾劾が始まるだろう。
それは一期目終盤と同じ構図である。
ナンシー・ペロシが下院議長に復帰し、ロシア・ウクライナ疑惑を煽ったことで、トランプ氏の再選を阻もうとしたあの時期と重なる。もちろん歴史は繰り返す必要はない。
だが、状況は不気味なほど似ており、その結末は今もトランプ氏の手中にある。
彼自身の判断で、再び悲劇が繰り返されるか否かが決まるのだ」

ちなみに「ただより高いものはない」を、英語では「ただのランチなんてものはない(There is no such thing as a free lunch)」と言うらしい。トランプ大統領は高いランチを食べることになるのか?
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。