今回の選挙で大躍進した石丸伸二氏。京都大学を卒業し三菱UFJ銀行に入行。その後、広島・安芸高田市長を4年務めたのちに、今回の東京都知事選挙に立候補した。安芸高田市長時代に発した「恥を知れ恥を!」のフレーズで一躍有名となった石丸氏が、今回の都知事選で大躍進を遂げた背景には「3つの作戦」があった。

”仲間たち”作戦

石丸氏は6月20日の告示日から7月6日までの17日間で計200回以上の街頭演説を行ってきた。その演説会場で、石丸氏は必ず冒頭に「今日初めて石丸伸二を生で見た人!YouTubeで見たことある人!」と聴衆に問いかける。聴衆はこれに対し、ほとんどが手を挙げ、YouTubeでは見たことあるものの、生で見るのは初めてだと反応していた。

文京区役所前での演説(7月3日)
文京区役所前での演説(7月3日)
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この現象だけでも、YouTubeなどのネットの世界からリアルの世界に引き込む戦略が功を奏していることが分かるが、注目すべきポイントは演説場所だ。この演説場所を決める方向性について、選対事務局長を務めた藤川晋之助氏が語った。

選対事務局長を務めた藤川晋之助氏
選対事務局長を務めた藤川晋之助氏

「石丸氏はどこの地域に行っても聴衆が集まる。すごい。最初は都心から行かないとダメだと思っていたら、他の地域でも集まるので、これだったらできるだけ地域戦略で、できるだけ周辺部を回ろうとなった。かなり周辺地域に力を入れて、最後に都心部に来ようという戦略に変えた」

このように、都心ではなく周辺地域から攻めていく戦略で、できるだけ多くの人をリアルで集め、生の石丸氏の演説を聴いてもらい、ネット上の石丸氏から現実世界の石丸氏に結びつけ、“石丸包囲網”を作り上げていったのだ。そして、その石丸包囲網を作る際に、演説で使っていた大事なフレーズがある。それは「同志」「仲間」という言葉だ。聴衆を有権者として捉えるのではなく、同じ目標に向かって志を共にする「仲間」と表現し、一体感を作り上げていたのである。

ネットとリアルの融合 “OMO”作戦

多くの候補者は演説で自身の政策を訴えかけるのが通例だが、石丸氏は政策は“さわり”だけしか触れなかった。「東京を、日本を動かすのは今しかない」「かっこいい大人の奮起に期待する」「カッコいい大人の姿を見せつけよう」などと、政治への参加を求める呼びかけは行うものの、詳しい政策は「政策の詳細はYouTubeで」などとネットへ誘導する手法をとっていた。さらには、聴衆が撮影した動画をLINEで知り合いに拡散するように促すなど、使える手段は全て使うと言わんばかりにネットへの誘導を行っていた。

渋谷・宮益坂下での演説(7月6日)
渋谷・宮益坂下での演説(7月6日)

また、演説現場にはYouTubeの配信者の多さも目立った。演説には毎回おなじみの配信者が撮影していて、その数はまちまちではあるものの、最低でも数名の配信者が毎回演説に来ていた。本格的な機材を用いて撮影・配信し、「〇〇さん、ありがとうございます!」などと、コメントに受け答えしながら演説を撮影する配信者も中にはいた。藤川氏によると、こうした石丸氏の演説を配信しているチャンネルはYouTube上に複数あり、合計で1億2000万回以上も再生されているという。

スマートフォンやカメラで撮影する聴衆ら(渋谷区・6月30日)
スマートフォンやカメラで撮影する聴衆ら(渋谷区・6月30日)

さらに、ネットでの露出にも積極的だった。告示されてから、自身のYouTubeチャンネルで計9回の生配信を行い、中には約9万人が視聴する瞬間もあった。さらに中田敦彦氏など、多くの登録者を抱えるYouTubeチャンネルにも積極的に出演し、ネットを通じた支持者の獲得にも力を入れていた。

このようにYouTube、SNSを通じて人々の関心を集め、リアルに聴衆を呼び込む。そしてリアルに集めた聴衆に対し、ネットを通じた拡散を呼びかける。

まさにリアルとネットをうまく織り交ぜながらの選挙戦、いわば”OMO作戦”を遂行していたのである(OMOは「Online Merges with Offline」の略で、直訳すると「オンライン(ネット)とオフライン(リアル)の融合」を意味する)。石丸氏自身もこの選挙戦について「ネットとリアルが融合した社会現象の結果が楽しみだ」と話し期待感を示していた。

“お願いナシ”作戦

「東京都民、皆さんの責任が今重大になっています。皆さんの力で東京を動かして、そして日本を動かしてみせてください!かっこいい生き方を次の世代に示してあげましょう!皆さんの本気に期待します」

「1票をお願いするのがすごく古臭い」と語っていた石丸氏
「1票をお願いするのがすごく古臭い」と語っていた石丸氏

これは石丸氏が演説の締めで必ずといっていいほど使っていたフレーズである。同じ文言ではなかったとしても、同様のフレーズを必ず演説の最後に入れていた。「一票をお願いします」という「お願い」の言葉は一切使用していなかったのだ。それについて、石丸氏本人はこのように話していた。

「1票をお願いするのがすごく古臭い。お願いするものではない。自由意志で投票してもらうだけなので、頼まれなくても投票するのが究極、理想だと思うので、その理想を訴えている。共有できていると思う。私からお願いすることはない」

この“お願いナシ”作戦は聴衆にも伝わっていて、30代の男性は「語りかけるように話していたので自分たちも参加すれば何か変わるんじゃないかという気持ちになった」と演説を振り返っていた。

献金額が示す勢い 国政進出は…

このように石丸氏は、これまでの多くの候補者が行ってきた選挙戦とは少し違う作戦で、この17日間を戦ってきたのである。その結果は数字にも表れていて、石丸氏自身に集まった献金額は7月1日午前時点で2億2000万円程度にのぼった。

月別に見ると、5月末に献金を募り始め、5月は約138万円、6月は約2億1400万円、そして7月は、取材をした7月1日午前時点で約700万円となっている。

6月の献金額は約2億1400万円
6月の献金額は約2億1400万円

献金額が増え続ける、言い換えれば支持、応援している人がここまで増え続けているとなると、気になるのが国政への進出である。石丸氏は国政進出についてこのように語っている。

「可能性はかなり低い。自分という人間が何に向いてるかって考えたときに、議員じゃないという感じがします。あくまで、向いてるというか、自分の目指すという姿で言えば首長のほうです」

石丸氏が国政に進出する可能性は…?
石丸氏が国政に進出する可能性は…?

その上で、6日に配信した自身のYouTubeライブでは「結果次第で僕自身は次のステージに進ませていただきます」と、少し踏み込んだ発言をしていた。石丸氏が今後国政に進出する可能性はゼロではないのかもしれない。
(フジテレビ社会部・都知事選担当 秀総一郎)

秀 総一郎
秀 総一郎

1994年熊本県生まれ、幼少期をカナダで過ごす。
長崎大学を卒業後、2018年フジテレビ入社。
元フジテレビ報道局経済部記者。
東京五輪、デジタル庁、経産省、公取委、商社業界など担当。