世界最大の原子力発電所
新潟県の柏崎市と刈羽村にまたがって位置する東京電力・柏崎刈羽原子力発電所。柏崎市側に立地する1号機から4号機、刈羽村側に立地する5号機から7号機の合計7つの原子力プラントで、821万kWを超える出力能力のある世界最大の原子力発電所だ。
しかし、夏や冬の電力ひっ迫が懸念される中、この世界最大の発電所は稼働できないままで、その威力は発揮されていない状況が続いている。2011年の東日本大震災以降、全てのプラントの稼働が停止しているのだ。
この記事の画像(19枚)東京電力は柏崎刈羽原発の7つのプラントの中でも新しい6、7号機の再稼働を目指していて、「経営再建のカギ」と期待を寄せている。
2022年、政府は脱炭素社会の実現に向けて原子力を最大限活用する方針に大きく舵を切った。この政府の方針が追い風になるかと思われたが、柏崎刈羽原発をめぐっては、これまでの過程で様々な問題が明らかになっている。
原子力規制委員会から改善が求められる中、その最新の状況を取材した。
相次ぐ不祥事と“運転禁止”命令
2011年の東日本大震災以降、全国各地の原子力発電所では「世界でもっとも厳しい水準」とされる新規制基準に基づく安全対策工事が進められている。柏崎刈羽原発もその一つである。
しかし2021年1月、東京電力は原子力規制委員会に対して安全対策工事が「完了した」と報告したものの、実際には未完了の箇所もあったという事実が明らかになった。
また、テロ対策の不備も相次いで明らかになる。
核物質を取り扱う原子力発電所では、テロ対策として外部からの侵入を検知する設備を設置しているものの、故障により長期間にわたり代替措置が不十分な状態だった事案が発生。さらには、建屋内の中央制御室に社員が他人のIDを不正に使用し入っていたという事案も明らかになった。
こうした問題を受け原子力規制委員会は、核物質防護の観点から最も深刻なレベルにあるとして、東京電力に対し、再稼働に必要となる核燃料の移動を禁止する是正措置命令を出した。これは事実上の運転禁止命令で、柏崎刈羽原発が現在運転を停止している理由である。
新所長のもとで改革するも…
こうして一連のテロ対策上の不祥事の責任を取る形で、柏崎刈羽原発の所長は交代させられ、2021年10月に現在の所長、稲垣武之氏が就任。
信頼の回復と改善に向けて歩みを始めたかと思いきや、原子力規制委員会の山中委員長は、2023年3月の定例会合で東京電力に対して「かなり厳しい状況だと受け止めました」と苦言を呈した。
原子力規制委員会は運転禁止命令が出ている柏崎刈羽原発に対し、再稼働に必要な追加検査を行っていたが、その途中経過で、不審者の侵入を検知する設備が想定通り作動しなかったり、誤った警報が鳴るなど、27の検査項目のうち6項目で改善が必要だと評価した。
東京電力はそこから改善を図るも、2023年5月の定例会合で示されたのは、追加検査の27項目のうち4項目で「現時点では改善が不十分」との結果だった。
原子力規制委員会は、運転禁止命令は解除しないことを確認し、再稼働は見通せなくなった。
再稼働に向けた取り組み
そこからおよそ半年がたった2023年11月、5月に指摘された不審者の侵入への監視体制などへの取り組み状況を報道陣に公開した。
まず紹介があったのは、緊急時への体制の構築だ。2万トンの水を貯めた巨大な貯水池のほか、ポンプ車を38台配備。
さらには、電源がなくても原子炉の蒸気の力で原子炉内に注水できるポンプも新たに設置した。そして、現場での個別の訓練は3万回を超え、再稼働に向けての万全な体制をアピールした。
東電担当者:
これが今回新たに追加した箇所になります。
貯水池がある場所からさらに内部に進み、周辺防護区域に入ると、そこにはいくつもの「検問」があった。
内部に入るためには、複数の生体認証を通過しなければならず、テロ対策上、何を使った生体認証かは教えてもらうことはできなかったが、作業員は何度もその「検問」を受けていて、厳重な管理がなされているのを目の当たりにした。
満足のいくところまで「もう一歩…」
安全対策上、そしてテロ対策上の様々な取り組みが進む中、改善に向けて旗振り役を担っている柏崎刈羽原子力発電所 稲垣武之所長は、「満足したかというと、もう一歩というところ」と、現状を評価した。
一連の不祥事を踏まえた対応策として、柏崎刈羽原発は、①核物質防護、②安全対策工事と主要設備の機能、③緊急時対応、④発電所内のコミュニケーションが十分であること、の4点を目指す姿として公表しているが、稲垣所長はこれらを自分自身が「納得しないと再稼働の『さ』も言わない」と、これまで話してきた。
この日、稲垣所長は満足するまでには「もう一歩」というが、まだ足りていない部分とは何なのか。
柏崎刈羽原子力発電所 稲垣武之所長:
燃料を装荷してからも何ヶ月かの単位で作業を進め、地元の了解も必要になる。
原子力規制委員会による核物質防護上の追加検査に合格しなければ前に進まないのは言うに及ばず、その先に必要なこととして2点指摘した。「運転員の確保」と「地元の理解」である。
原子炉は10年以上停止していて、運転を経験したことがある運転員は、6~7号機で半分程度しかいないとして「力量の部分も向上させなければならない」と指摘した。
運転を経験していない運転員が、いかに経験している運転員からノウハウを継承できるかが課題となっている。
また、再稼働には地元の理解が必要不可欠だ。稲垣所長は、これまで柏崎市、刈羽村の住民とコミュニケーションを取ってきた中で「厳しい意見や温かい意見もある」とした上で、「コミュニケーションという観点では大分とれてきた」と評価した。
しかし、新潟県の住民からは「運転する資格はあるのかという疑念を抱かれている」との懸念も示し、積極的なコミュニケーションの必要性も強調した。
そして、今後、再稼働までのプロセスを完了するまでにどのくらいかかるのかと問われたところ、稲垣所長はこのように述べた。
柏崎刈羽原子力発電所 稲垣武之所長:
一概に何ヶ月で終わるとは言えない。
14日、東京電力は原子力規制庁に対し、改善を求められていた4項目すべての是正完了を報告した。
今後、原子力規制庁が4項目に関する取り組み内容を報告書にまとめ、原子力規制委員会の山中委員長が現地視察をしたうえで、定例会合で運転禁止命令を解除するかどうか、再び判断することになる。
地元の理解も含め、再稼働に向けた課題がなお残っている。
【執筆:経済部 経済産業省担当 秀総一郎】