2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、あらゆる業界で脱炭素化が進み、電力業界でも電源構成における再生可能エネルギーの割合が年々増加している。
こうした中、火力発電の中でも二酸化炭素排出量が多いとされる石炭火力発電の廃止時期をめぐっては、4月に札幌で開催されたG7=主要7カ国の気候・エネルギー・環境相会合で大きな焦点となった。
結果的に共同声明には廃止時期は明示しなかったものの、二酸化炭素の排出削減の対策が取れていない場合は、段階的に廃止することが盛り込まれていて、発電量の3割を石炭火力発電でまかなっている日本は対策が急務となっている。
「石炭火力は一定程度活用」
石炭火力発電と聞くと、二酸化炭素の排出量が多く、時代に逆行している発電方法と考える人は少なくないだろう。現に二酸化炭素排出量は、一般的には、天然ガスや石油で発電する時と比べて約2倍とされている。
しかし、石炭は長期保存が可能で、調達価格が安い。さらには、ほかの化石燃料と比べて採掘できる年数が長く、存在する地域も中東に集中しておらず分散していて、広く世界中から調達できるという特徴をもっている。
この記事の画像(9枚)2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、日本政府は太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入をさらに拡大していく方針だ。
しかし、国内にはそもそも森林が多く広大な平地が少ないため、太陽光パネルの設置に適した場所が確保しにくい面があるうえに、再生可能エネルギーの発電量の不安定さをコントロールするのは難しい状況にある。
このため、供給の安定性や経済性の面で優れている石炭火力を、ある程度活用していくことがエネルギー安全保障上の観点からも重要だというのが政府の立場だ。
こうした状況を踏まえ、石炭火力発電をめぐっては、利用を続けながらいかに二酸化炭素の排出を減らすことができるかという課題への取り組みが急務となっている。こうしたなか、最新鋭の石炭火力発電所を取材した。
最新鋭の石炭火力発電とは
電源開発が広島県竹原市に保有している竹原火力発電所。1983年に運転を開始した3号機と、1〜2号機からに置き換わる形で2020年6月に運転を開始した新1号機の2基で130万kWの出力を誇る。
海外から輸入した石炭を燃料としていて、敷地内には東京ドームが一つ入るほどの大きさのものをはじめとして、貯炭場が3つ設けられ1カ月分の石炭が貯蔵されている。
ここに貯えられている石炭を小麦粉状にすりつぶし、ボイラに噴射させることで発電時の燃料効率を上げ、燃焼して得られた熱で高温高圧の蒸気を作り出し、タービンを回して発電機を動かしている。
そして、二酸化炭素の排出量を削減するために取り組んでいるのが、バイオマス燃料の混焼である。竹原火力発電所では国内外から調達した木質バイオマス燃料も石炭とともにも燃やしていて、その燃料は大型トレーラーで運ばれてきて、貯蔵することなくすぐに専用の機械に送られ細かく粉砕しボイラへと噴射される。
竹原火力発電所では、このような木質バイオマス燃料を混焼することで、石炭のみを使用した燃焼と比較して二酸化炭素は約8%削減することができているという。2023年5月に、目標としていた混焼割合10%での本格運用を開始し、今後さらに引き上げることを検討していて、より一層の二酸化炭素排出量の低減を目指している。
未来に向けた3つの実証試験
発電効率で竹原火力発電所を上回るという石炭火力発電の未来の形を実験する施設が、瀬戸内海に浮かぶ広島県の大崎上島にある。「大崎クールジェン」と呼ばれるこの施設は、電源開発と中国電力により共同で設立され、休止中の中国電力・大崎火力発電所を転用する形でさまざまな実証施設がつくられている。
大崎クールジェンでは、2012年度から未来の石炭火力発電の姿を目指したという実証実験が行われている。実験は3段階に分けられていて、石炭をガス化し、そのガスを使用してタービンを回すというのが第1段階。第2段階はそのガスの中の二酸化炭素を分離、回収する技術、そして第3段階が、二酸化炭素を分離した際に出る水素を燃料電池の設備に送り発電する技術を実証するもの。
第1段階の「石炭のガス化」では、石炭を、「少量の酸素」と「熱」を加えて蒸し焼きにすることで、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主な成分とする「燃料ガス」が生成される。その際の熱も利用してガスタービンと蒸気タービンの両方を駆動させることで、従来の石炭火力発電を上回る発電効率が達成可能となっている。
第2段階の技術は、第1段階で生成した「燃料ガス」の一酸化炭素を蒸気と反応させて、二酸化炭素と水素に変換し、二酸化炭素を回収するというものだ。この二酸化炭素は分離回収した後、カーボンリサイクルとして、コンクリート製造に使用したり、トマトの栽培に役立てたりするなどして活用され、「二酸化炭素実質0」を目指している。
そして、第3段階では、燃料電池を用いて、二酸化炭素分離後の水素ガスで発電試験が行われ、運用性の検証を行った。
最新鋭の施設が小さな島に結集し、スタッフが一丸となって実証研究にあたっているという印象だったが、高効率発電への開発のロードマップが、持続可能な石炭火力の未来へと結実していくのか、プロジェクトの進み具合をこの先も大きな関心をもって見ていきたいと思う。
大きな課題を背負う石炭火力
脱炭素社会の実現に向け、日本政府が描く2030年のエネルギーの未来像では、石炭火力の比率は26%とされている。導入が進む太陽光や風力など再生可能エネルギーは、外的要因で発電量が変動するのがネックであり、石炭火力は、その不安定さをカバーする「調整弁」としての役割の一端を担うというのが政府のスタンスだ。
環境面で大きな課題を背負うなか、二酸化炭素削減に向けた実効性を向上させ、エネルギー戦略での「調整力」を高めていけるのか。電力・エネルギー業界の今後の取り組みを引き続き注視していきたい。
(フジテレビ経済部 経済産業省担当 秀総一郎)