資源価格の高騰で最終的な利益が各社で過去最高となった2022年度の決算から1年、大手総合商社の2023年度の決算が出そろった。金属資源の市況の下落などにより各社減益が目立つ一方で、円安の影響を受けた好決算が相次いだ。

各社で減益相次ぐも好決算 円安が利益押し上げ

8日、伊藤忠商事の決算発表で、大手総合商社7社の2023年度の決算が出そろった。最終的な利益は、三井物産が1兆637億円と2年連続の1兆円超え、三菱商事が歴代2位の9640億円、伊藤忠商事も歴代2位の8018億円となるなど、最終的な利益は7社中5社で歴代2位の好決算となった。

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首位攻防を続ける三井・三菱 2023年度は三井物産に軍配

三井物産のオンライン会見 5月1日
三井物産のオンライン会見 5月1日

2023年度の決算で大手総合商社首位となった三井物産。セグメント別では、原料炭価格の下落により金属資源が減益となった一方で、船舶や建機などの機械・インフラが768億円の増益となるなど、最終的な利益はわずかに減益となったものの、業界で唯一2年連続で1兆円を超えた。

三菱商事の決算会見 5月2日
三菱商事の決算会見 5月2日

三菱商事は首位の座を三井物産に明け渡した。セグメント別では、こちらも原料炭価格の下落などにより金属資源が1438億円の減益となるなど、前年度と比べて2167億円の減益となった一方で、天然ガス、自動車、電力ソリューションなど5つのセグメントで過去最高益を更新し、最終的な利益は9640億円となった。2022年度に次ぐ歴代2位の好水準だ。

三菱商事のキャメロンLNGプロジェクト
三菱商事のキャメロンLNGプロジェクト

三菱商事の中西社長は、「1兆円は超えていないが、業績予想は超えた。仕込みの時期が続くことを踏まえると(株主還元は)相応的に高い水準であると考えているが、一方で当社の利益水準に対する自信の表れでもある」と話す。

また中西社長は鉄などの原料となる「原料炭」の生産量が落ちていることが業績に大きく影響したと指摘。「24年度、25年度でリカバリーしていく」と強調したが、「ある程度の(原料炭)の生産量を確保するためには、炭に辿り着くまで炭鉱を掘らなければならず、そこも踏まえて24年度の数字は保守的な数字となっている」と説明した。2024年度から2025年度にかけて、どこまで原料炭の生産量を回復できるかが鍵を握る。

住友商事 ニッケル生産事業「実質全損」

「実質全損です」。神妙な面持ちでこう語ったのは、4月から住友商事の社長に就いた上野真吾社長だ。住友商事はマダガスカルで「アンバトビー・プロジェクト」という、採掘から精錬までの一貫生産を行う世界最大規模のニッケル生産事業を手がけている。その生産能力をあげようとしていた矢先に、プラントに不具合があり生産計画を見直す事態となり、2023年度決算では890億円の一過性損失を計上した。他の一過性損失を含めると、最終的な利益は前年度から1789億円減少して3864億円となった。

住友商事の上野真吾社長
住友商事の上野真吾社長

上野社長は会見で、アンバトビー・プロジェクトについて「ニッケルという経済安全保障に繋がる事業で、マダガスカルを支える事業にもなっている。経済的な責任、社会的な責任も踏まえてあらゆる選択肢を考えないといけない。そのために生産を正常化させられるように考えていきたい」と述べた。

住友商事のアンバトビー・プロジェクト
住友商事のアンバトビー・プロジェクト

撤退も含めて検討しているのかという質問に対しては、「これ以上PLに赤字が出ることはないという意味での処理は終えた」と述べた。その上で、今後の方針については「通常の体制(生産能力)に戻した上で、色々な選択肢を考えていきたい」と明言を避けた。

2024年度も円安の追い風続くか

 2023年度の決算で各社の利益を押し上げた要因の一つに「円安」が挙げられる。各社の最終的な利益に対して為替がどれだけ影響したのかをまとめた。

2023年度の各社の当期純利益において、円安による影響で、三菱商事で700億円、三井物産で610億円、伊藤忠商事で300億円利益を押し上げた。こうした中、会見では各企業の社長は円安に対して慎重な姿勢を示している。

三井物産の決算会見
三井物産の決算会見

三井物産の堀社長は、「円安は慎重に見ていく必要がある。急激な円の動きは警戒すべきだ。為替は引き続き経営において変動要因になるので、引き続きモニターしていきたい」と述べ、為替による大きな変動を無くすための取り組みとして「世界中に仕事を分散させることが重要だ」と指摘し「地域分散戦略」が鍵を握ると強調した。

三菱商事の中西勝也社長
三菱商事の中西勝也社長

三菱商事の中西社長は、「円は国力を表すので円安が進むというのは国力が弱くなるという側面もある。これから行う投資を慎重にさせてしまう。利益で見るとプラスに出るがよろしくない」と話す。

丸紅の柿木真澄社長
丸紅の柿木真澄社長

また丸紅の柿木社長は、「円は国力を反映しているものでもあるので、体力が落ちて、次の柱になる産業が続いていないなどの懸念を持っている。(為替の)乱高下はウェルカムではない」と話す。

伊藤忠商事の石井敬太社長
伊藤忠商事の石井敬太社長

伊藤忠商事の石井社長は、「外貨収益が多い分(円安により)増えてしまう。為替がどうであろうと成長戦略を遂行していく。その事業をやる価値があるのであれば、そこには踏み込む」と述べた。

円安により利益が大幅に押し上げられている一方で、各企業の社長は口を揃えて円安をけん制した。その上で、伊藤忠商事の石井社長は「円安は海外からの資金流入も活発になるので、商社にとっては逆のビジネスオポチュニティーでもある」と、円安はビジネスチャンスにも繋がるとの考えを示している。

 2024年度の決算見通しは、各社為替レートを2023年度と同水準か数円円高に動くと想定した上で、最終的な利益も同程度になるとの見通しを示している。1円円安となれば、50億円プラスに働く会社もあり、引き続き為替の動向には注意が必要だ。

秀 総一郎
秀 総一郎

1994年熊本県生まれ、幼少期をカナダで過ごす。
長崎大学を卒業後、2018年フジテレビ入社。
元フジテレビ報道局経済部記者。
東京五輪、デジタル庁、経産省、公取委、商社業界など担当。