2025年に開催される「大阪・関西万博」。開幕まで残り300日を切り、会場周辺の道路や会場内のパビリオンなどの建設が急ピッチで進められている。資材価格の高騰や人手不足、施工事業者との調整の難航により工事の遅れも指摘されるなか、果たして開幕までに建設工事は間に合うのだろうか。建設現場の”いま”を取材した。

そびえ立つ無数の巨大クレーン

大阪・関西万博の会場となる大阪市・夢洲。会場付近に近づくにつれ「ばんぱく」と書かれた大型トラックが道を行き交うようになり、さらに近づくと見えてくるのが、そびえ立つ巨大なクレーン群だ。何台ものクレーンが作業している様子を見るだけでも、建設工事が急ピッチで進められていることが分かる。

大量のクレーンが並ぶ万博の建設現場
大量のクレーンが並ぶ万博の建設現場
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2025年4月13日から10月13日の約半年で見込んでいる来場者は約2800万人。その多くが利用すると想定される大阪メトロの新たな駅「夢洲駅」も着々と建設が進んでいるようで、地下へと続くかなり大きな出入り口が確認できる。

巨大な建設物が並ぶ…
巨大な建設物が並ぶ…

さらに奥に進んでいくと民間企業や業界団体が出展するユニークなパビリオンが見えてくる。

大屋根リングはほぼ完成

大阪・関西万博の「多様でありながら、ひとつ」を表現するシンボル「大屋根リング」の建築も大詰めを迎えている。

リングの遠景 巨大さが分かる
リングの遠景 巨大さが分かる

完成すれば世界最大級の木造建築物となる円周約2キロの木造の巨大なリング。オウシュウアカマツやヒノキといった木材が使用され、大林組、清水建設、竹中工務店がそれぞれ共同企業体をつくり、工区を3つに分けて、それぞれが異なる工法で建設している。ロシアによるウクライナ侵攻により、木材価格が高騰し一部の木材を変更したという施工事業者もあった。

このリングをめぐっては344億円かけて建設されるものの、博覧会協会は当初、閉幕後には解体し木材を自治体に譲渡するなどとしていて、会場建設費が上振れすることも重なり「無駄づかい」などと批判されていた。

こうした状況を受けて博覧会協会が利活用案を募集したところ20の提案があった。別の建築物の建材などに再利用する案や、展望台として保存する案などがあがっている。今後提案を精査したうえで、2025年はじめからの公募入札に向けて準備を進める予定だ。

工事関係者の1人は「仮設の契約なので、解体するのは分かってはいるが、せっかくこれだけ気持ちを入れて作ったので、そのまま残してほしいというのが本音だ」と胸の内を明かしてくれた。

肝心のパビリオン建設 いまださら地も…

リングの内側には、各国のパビリオンに加えて8名のテーマ事業プロデューサーによるパビリオンも建設中だ。シグネチャーパビリオンと呼ばれるこの独特な建築物については工事が進んでいる一方で、各国が独自で建設するタイプのパビリオン、通称「タイプA」の建設はあまり進んでいないようにも見えた。現に関係者は「工事が進んでいるようには見えないパビリオンも中にはある」と口にしている。

 また、まだ何も手がつけられていない区画も目立つ。残り300日を切った中で、果たして建設は間に合うのだろうか。参加国が独自に建設する「タイプA」を申請している52ヶ国のうち12ヶ国ではまだ施工事業者すら決まっていない(6月14日時点)。博覧会協会が外観完成の目安としている10月中旬には間に合わない国がでてくることも懸念されている。

「まだ盛り上がりに欠けている」更なる機運醸成の必要性

開幕に向けての工事が急ピッチで進む中、道を挟んで向かい側の広大な敷地にも大きなトラックが頻繁に出入りする。IRの建設予定地だ。現状は液状化対策の工事が行われているというが、これからこちらの工事も本格化していく中で、万博開催中に騒音や、渋滞などの問題が発生することは避けなければならない。しかし、工事の一時中断による完成時期の遅れも避けなければならず調整は難航しそうだ。

そして開幕にむけた機運醸成も大きな課題だ。在阪の民間企業関係者は「大阪はまだ盛り上がりに欠けている。地元で機運を高めることがもっと必要だ」と指摘していて、開催地である大阪で関心度のさらなる向上を図り、全国に波及させていく必要がありそうだ。

「多様でありながら、ひとつ」という万博の理念を表す「大屋根リング」。多くの課題も指摘されている一方で、その形状や、大きさはもちろん、取材を通して空間そのものにも魅力が詰まっていると感じた。この巨大な屋根の下に広がる日陰の空間には、海風や木の香りが相まって、涼しく心地よい空気が流れていて、様々なコミュニケーションを育む場としても、多く活用されそうだ。

そのコミュニケーションを通して、人と人のつながりを生み、ひとつにする、そうした役割も込められているのかもしれない。だとすれば、閉幕後は、このリングはこうしたつながりを感じられる場で、かつ「見える」形で利活用することが、万博の理念の継承、レガシーの継承に繋がるのではないだろうか。

より多くの人たちの可能性を広げるためには、夢洲の地に実際に足を運んでみようという気持ちをどれだけ強く持ってもらえるかが重要なポイントになる。現在のチケットの販売枚数は270万3707枚(6月12日時点)。

実施主体となる博覧会協会には、各自治体との連携を強化し、更なる魅力の発信が求められる。国家的プロジェクトの成功を期待したい。

(執筆:フジテレビ経済部 大阪・関西万博担当 秀総一郎)

秀 総一郎
秀 総一郎

1994年熊本県生まれ、幼少期をカナダで過ごす。
長崎大学を卒業後、2018年フジテレビ入社。
元フジテレビ報道局経済部記者。
東京五輪、デジタル庁、経産省、公取委、商社業界など担当。