日本の高い縫製技術を残そうと、関東から秋田・能代市に移住し、工場を立ち上げた男性がいる。「若い人が人生の選択肢として“縫製”を選べるようにしたい」と意気込む男性の取り組みを紹介する。
縫製技術にほれ込み移住した男性
2024年3月、能代市二ツ井町にオープンした「Magic Hour Sewing」は、高級下着ブランド「Basara」の商品の縫製を行っている工場だ。
この記事の画像(17枚)縫製工場を開設したのが、能代市に移住してきた村上由祐さん、43歳。
東京都出身の村上さんは、スタイリストや雑誌の編集者として活動し、8年前に神奈川・葉山町でフランス製のシルク生地を使った高級下着ブランドを立ち上げた。知人の紹介で、下着の製造は能代市二ツ井町の縫製工場に委託していたが、5年前に工場が閉鎖され、製品の品質の維持が難しい状況に直面した。
工場の高い縫製技術にほれ込んでいた村上さんは、工場の職人たちに「また一緒に仕事がしたい」と声を掛け、2023年に生活の拠点を能代市に移して縫製工場の立ち上げに至った。
拠点を能代市二ツ井町に決めた理由について村上さんは、「国内にほとんど流通していない生地を縫える職人が日本にはほとんどいない。美しく仕上げてくれていた職人たちにお願いしたら、またクオリティがより良いものになっていくのではないかと。他の町では実現できない。いま働いてくれている職人たちにお願いするために来た」と話す。
町での暮らし「集中できる環境」
下着を作るのは平均年齢70歳の熟練の職人たちで、村上さんの熱い思いに心を動かされた。
職人の1人は「村上さんは一生懸命だし、少しでも力になれたらと思って頑張っている。何十年も縫製はやっているが、やったことがないことばかりで毎日が勉強」と話す。
職人たちに支えられている村上さん。「こっちに来て思うことは、人と人とのコミュニケーションの心地よさや、受け入れてくれる態勢がありつつも、程よくほっといてくれる。自分のやりたいことに集中できる環境が整っている」と町での日々の暮らしで感じていることについて語った。
若い人に“縫製”の感動など伝えたい
村上さんは、気軽に工場に立ち寄って縫製の技術や文化を感じてもらいたいという思いから、縫製工場を一般に開放。さらに、コーヒースタンド「Magic Hour Coffee」を併設した。葉山町から取り寄せたコーヒーや手作りのスイーツを楽しむことができる。
村上さんは「ぱ~っと工場に入っていく人もいたり、子どもたちも奥が気になるので。ここのコーヒースタンドの目的として、縫製というものを見てもらう。体験し、体感してもらって、もし興味があれば若い人などを対象にワークショップをやってみたい」と話す。
下着など衣料品のほとんどを海外での生産に頼る今の日本だからこそ、村上さんは、縫製で物を生み出す感動や興奮を若い世代に伝えたいと考えている。
Magic Hour Sewing・村上由祐さん:
若い人が人生の選択肢として縫製というものを選べるように、しっかりとした技術を持ちながらスタイリッシュにやっていきたい。二ツ井町の自然があるからこそ、縫製という文化がある。町の人々の温かさや、ものづくりへの献身さを商品にのせて世界に届けていきたい。
村上さんはこれからも、能代市二ツ井町から縫製の文化を紡いでいく。
(秋田テレビ)