土石流に襲われ28人が犠牲になった静岡県熱海市の伊豆山地区で神輿が5年ぶりに復活した。避難した132世帯のうち元の場所に戻ったのは1割強で、大半が移転したり、今も避難生活を送っている。地区に残った住民たちは「神社の祭りを懐かしんで来てくれれば」と期待を込めた。

132世帯のうち111世帯が戻らず

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2024年4月。神輿の掛け声に包まれ、熱海市の伊豆山神社の例大祭が行われた。3つの町内会の神輿がそろって参道を下るのは、新型コロナや土石流災害の影響で実に5年ぶりだ。

土石流が流れ下った伊豆山地区(2021年7月)
土石流が流れ下った伊豆山地区(2021年7月)

伊豆山地区では3年前の2021年7月、大規模な土石流災害によって28人が死亡、住宅など136棟が被害を受けた。

毎年恒例の伊豆山神社の例大祭は、地域の人たちが復興・復旧を願う祭りとなっている。

小松さんは2023年9月に帰還
小松さんは2023年9月に帰還

2023年9月。警戒区域の解除に伴い819日ぶりに自宅に戻った小松昭一さんにとっても、例大祭は忘れられない地域の思い出だ。

小松さんは「(私たちにとって)お祭りと言うと伊豆山神社の祭りだから、私たちも若い時からお祭りに参加して、笛を吹いて神輿と一緒に歩いた記憶がありますから懐かしいですね」と話す。

伊豆山地区に帰還した世帯は1割強
伊豆山地区に帰還した世帯は1割強

伊豆山地区では、土石流で避難した132世帯227人のうち21世帯45人が自宅や警戒区域内への帰還を果たし、新たな生活を始めている(2024年5月時点)。

伊豆山地区から離れて生活再建にこぎつけたのが76世帯113人で、残りの35世帯69人は今もアパートなどの”みなし仮設住宅”で避難生活を続けている。

5年ぶりの神輿に笑顔

神女舞を指導する小澤さん
神女舞を指導する小澤さん

小澤昭治さんは伊豆山地区に戻った21世帯45人のうちの1人だ。例大祭では、長年にわたり神様に奉納する子供たちの舞、神女舞(しんにょまい)の指導を続けてきた。

源頼朝ゆかりの伊豆山神社
源頼朝ゆかりの伊豆山神社

伊豆山神社は伊豆に配流となった源頼朝が源氏の再興を祈願したと伝わっている。

例大祭では実朝の舞や神女舞が奉納され、神輿と並ぶ見どころの1つだ。軽快なお囃子に乗せて舞う子供たちを見て、指導する小澤さんも「安心しました」と満足気だ。

そして、5年ぶりに伊豆山地区の3つの町内の神輿が境内から下ろされる、「お下り」が行われた。土石流によって衣装や道具の一部が流され、以前より規模は小さくなったが、元の形を取り戻すことで地元の人たちは復興・復旧に向けた活力を感じていた。

3町内会のひとつ、伊豆山浜町内会の高橋一美 会長も「これを機に楽しい事が1つ1つ増えていく伊豆山にしていきたいですね。(3つ町内会の神輿が並ぶと)かっこいいですね。皆さんの笑顔がひしひしと伝わってくるので楽しみです」と笑顔を見せる。

被災者配慮で掛け声なしの神輿も

被害が大きい町内会は掛け声なし
被害が大きい町内会は掛け声なし

神輿は本殿の境内から約700段ある階段を下りていく。

ただ、被害の最も大きかった岸谷地区の神輿だけは被災者に配慮して、掛け声を出さず静かに運ばれていった。土石流による深い傷はまだは癒えていない。

しかし、この例大祭が地域の未来を築くことにつながると感じている。

子供に舞を指導する小澤昭治さん:
熱海を離れている人もいるが、例大祭をやることで、この時だけでも思い出に来てくれるんじゃないかな。家も全部変わっている人もいるので、このお祭りを懐かしく思ってくれれば。これ(例大祭)は絶えさせることはできないと思う

伊豆山神社の氏子献幣使・高橋幸雄さん:
月日が経つのは早いが、復旧・復興が進まないのが一番のネック。(例年祭りの)帰りは岸谷地区の被災した坂を登っていくが、それができないから半分の行事になる。だから毎年、復旧・復興するまで絶やさないように頑張るしかない。やれることだけやって、完全になるまではまだ時間かかると思う

伊豆山神社の例大祭
伊豆山神社の例大祭

土石流災害によって76世帯113人が伊豆山地区を離れて新たな生活を始め、他に35世帯69人が避難生活を続けている。

5年ぶりの本格的な例大祭の開催は、地域の絆を確認し復興・復旧への歩みを早めることにもつながっていきそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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