28人が犠牲になった静岡県熱海市の土石流災害は、土石流の起点の違法な盛り土が被害を大きくしたとされている。県は再発防止のため流れずに残った盛り土を撤去するよう、土地の前所有者に命じたが、前所有者は応じていない。県は代わりに撤去し、費用11億円を請求している。

遺族らが土地所有者や行政に賠償請求

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前 土地所有者・天野二三男氏:
(行政代執行の費用を払うのが)なぜ私なんですか。私が他人の入れた泥(盛り土)まで片付けるんですか。違反の泥(盛り土)の場合は、ですよ。合法なら片付ける必要ないでしょ

はっきりとした口調で答えるのは、土石流の起点となった盛り土が造成された当時、その土地を所有していた 神奈川県小田原市の不動産会社の元代表 天野二三男氏だ。

熱海市を襲った土石流(2021年7月3日)
熱海市を襲った土石流(2021年7月3日)

2021年7月3日 熱海市で大規模な土石流災害が発生し、災害関連死を含む28人が死亡した。建物被害は133棟に及ぶ。土石流をめぐっては、違法な盛り土が被害を拡大させたとみられている。

土石流の起点部(2021年7月)
土石流の起点部(2021年7月)

天野氏は土石流の起点部の土地を2006年に取得し、熱海市への申請を経て2007年から盛り土をした。2011年に天野氏から今の所有者に売り渡された。
遺族や被災者は、盛り土を含む土地の前所有者の天野氏と現在の所有者を殺人などの疑いで刑事告訴した。

提訴する遺族や被災者(2021年・静岡地裁沼津支部)
提訴する遺族や被災者(2021年・静岡地裁沼津支部)

また民事訴訟も起こしていて、土地の前・現所有者の他、違法な盛り土を防げなかったとして熱海市や静岡県も被告に加え、あわせて120億円余りの損害賠償を求めている。
天野氏に遺族に対する気持ちを尋ねると、「本質的には発生当初と変わりません。亡くなられた方、ご遺族の方のお気持ちをもちろんお察ししています」と、返ってきた。

行政の資料の出し方に不満

土石流の発生から2024年4月で2年9カ月が経った。前土地所有者である天野氏は、一貫して「自身に責任はない」と主張している。
民事裁判が進む中、天野氏は「すべての資料を開示しない行政の対応に問題がある」と指摘した。

静岡地裁沼津支部
静岡地裁沼津支部

天野氏の批判の矛先は、裁判をめぐる資料の開示が熱海市に比べて多い静岡県に向いていた。天野氏は「私が土地を現所有者に引き渡すまでの資料は膨大にあるが、引き渡した後の資料は見受けられない。なにこれ」と、疑問を口にする。

「市の指導の範囲で盛り土」

県などによると、当時 天野氏が市に提出した計画書には条例で定める盛り土の上限いっぱいの「高さ15m」と記載があったものの、実際はこれを大きく上回る土が積み上げられていた。
これについて天野氏は「15mという規定を知らなかった。市からの指摘もなかった」と主張する。天野氏によると「熱海市から指摘は一切なく、15mが上限ということは、私自身も会社の設計部も知らなかった」という。

静岡県が残土を撤去(2022年)
静岡県が残土を撤去(2022年)

県は再発防止のため、土石流の起点に残った盛り土を撤去するよう求める措置命令を天野氏に出した。しかし天野氏はこれに応じず、県は行政代執行によって土砂を搬出した。土砂には環境基準を超えるフッ素や鉛が含まれているため、県外の施設で処理した。かかった費用 約11億円を天野氏に請求しているが、天野氏は払っていない。

前 土地所有者・天野二三男氏:
私の方は(熱海市の)指導の範囲の泥(盛り土)を入れています。だから措置命令を受ける必要はない

撤去した土砂の運搬(2023年)
撤去した土砂の運搬(2023年)

天野氏は「払う必要はない」との主張だが、「例え払う責任があったとしても、盛り土をしたのは自分だけではないので、他に盛り土をした人にも措置命令を出し、運び入れた量に応じて費用を分担すべきだ」と主張する。

警察も事情聴取

こうした中、静岡県警は2024年2月から天野氏への任意の取り調べを始めた。3月15日、天野氏は2回目の聴取のため警察署を訪れた。代表だった不動産会社での役割などについて、警察に聴かれたという。

警察の事情聴取の後、取材に応じる天野氏(熱海警察署)
警察の事情聴取の後、取材に応じる天野氏(熱海警察署)

事情聴取の後に取材に応じた天野氏は「この事故について私の立ち位置が冒頭から断定的に物事が運ばれてきた。偏向的な質問は避けてほしいと警察に要望した」と話し、今後の任意聴取にも「事実に基づいた主張をする」としている。

前 土地所有者・天野二三男:
私がいくら「こうだろう、ああだろう」と言ったところで通用する話ではない。事実の中からものを答える。そして調査をしていただくという姿勢で私はいます

土石流が流れ下った熱海市伊豆山地区(2021年7月)
土石流が流れ下った熱海市伊豆山地区(2021年7月)

熱海市を襲った土石流は28人の命を奪った他、一時582人が避難生活を余儀なくされた。2024年3月時点でも78人が避難生活を続けている。そこに住む人たちの暮らしを大きく変えてしまった。遺族や被災者たちは“人災”だと思っている。
原因究明と、それに基づく責任の追及が急がれる。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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