民間企業の障がい者雇用率について、国が義務付ける2.5%を大きく上回る金属加工会社がある。「枠を取り除く」という理念で障がい者の雇用を推進、さらに障がいのある人が社会で活躍するための支援事業も始めた。
年齢や障がいのフィルターで見ない
広島・府中町にある金属加工会社「新和金属」。自動車部品などにめっき加工を施す会社だ。

この工場で40年以上にわたって働く社員・助永笑子(すけなが・えみこ)さんには障がいがある。
「障がいに関係なく常にみんなが声をかけてくれる。みんなが私のことを見るように、私も『この人が忙しいから手伝ってあげないといけない』とか。私には向いていたのかなと思う」

40人以上の従業員が働く民間企業に対し、国が定める障がい者雇用率は2024年4月から2.5%以上に引き上げられた。一方で、この会社の障がい者雇用率は9.47%。国の基準を上回って雇用する理由は「多様性を認める職場づくり」にある。新和金属の新谷浩之社長の考えを聞いた。
「年齢が高いとか障がいがあるというフィルターで見ずに、障がいがあっても能力が高くいろんな仕事をやってくれる人はいっぱいいます。適材適所で能力を発揮できるようにという考え方でやっています」

地域初の就労移行支援事業所を開設
障がい者雇用の推進。その根底には新谷社長が持ち続けてきた理念がある。
「社長に就任した時に『働きがいのある職場』『社員の幸福を目指す』ということを理念にしました。『FACTORY(ファクトリー)からWACTORY(ワクトリー)へ』をスローガンに活動しています。WACTORYは、和、枠を取り除く、ワクワクする、をかけた私の造語です。創業者が和を大事に仲良くやってほしいということで新和金属という社名になりました。『枠を取り除く』の意味は、多様性を認める職場づくり、適材適所で能力を発揮できる職場づくりです」
多様性を認める職場づくりの一つが、障がい者の雇用である。さらに枠を取り除く取り組みとして、障がいのある人が社会で活躍するためのサポート活動も始めた。それが「すみっこテラス」と名付けた就労移行支援事業所の開設だ。

障がい者手帳を持つ人や難病の人など福祉サービスを利用できる人が対象で、一般就労を目指す際に2年間利用できる。就労移行支援事業所の運営は府中町では初めて。新谷社長は「可能性を持ってる人が評価されないのはもったいない。長く働けるように就職先としっかりつないで、本人が希望する働き方をサポートしたい」と話す。

枠を取り除き、社員の幸福度を追求
「枠を取り除く」とかけたスローガン「WACTORY」は広がりを見せている。新和金属では、社員のやりたいことをサポートする「ワクトリー企画」という制度を設けた。ワクワクする取り組みを会社として進め、費用を一部負担。その一つが有志が集まって行うジャガイモの栽培だ。

また、「地域お助け隊」という地域活動もある。活動に参加した営業部の白砂久枝さんは「工場近くの地域はお年寄りの方が多い。一緒に掃除をして『運んでくれるの?』と言ってもらえると、やって良かったと思う」と、やりがいを感じている。

社員同士が集まって立派な門松を作り、会社の前に飾ったこともあった。「普段は関わらない部署の人と話せるのでリフレッシュにもなる」と高屋製造部の横山修さんは言う。

社員が自発的に活動する「ワクトリー企画」には、新谷社長のこんな思いがあった。
「単純作業や繰り返し作業が多いことで、一般的にやりがいを持ちにくいと言われる仕事でした。やりがいや幸福度を得るための選択肢を用意するのが自分の仕事。幸福度の追求は普遍的で、企業が持続するために一番必要なことだと思っています」

多様性社会で変化する「働き方」。誰もが認められ、評価され、存在意義を感じられる…。そんな職場の実現に向け、挑戦は続いている。
(テレビ新広島)