岡山市の住宅街の近くで、野犬の目撃情報が相次いでいる。増加の原因は、通りかかった人などによるエサやりだ。殺処分は行わない方針を打ち出す岡山市の野犬対策を取材した。

野犬が増えた原因は“エサ”

JR岡山駅から約2km西に位置する矢坂山ではここ数年、野犬の捕獲件数が増加傾向にあるという。野犬は、住宅街まで下りてきて人を恐れさせることもあるという。

取材したカメラが捉えた野犬
取材したカメラが捉えた野犬
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岡山市が委託するボランティアの誘導ででてきた野犬。取材した位置から見えるだけでも6、7匹の成犬を確認できた。

岡山市北区の大野小学校の児童に野犬について聞くと、「(野犬が)矢坂の方で走っているのを見た」「吠えてくるから家族みんなで逃げた。犬は好きだけど被害は受けてほしくない」と話してくれた。

大野小学校の児童は、野犬にエサを与えないよう呼び掛ける9枚のポスターを作った。そのポスターは5月「矢坂山」に掲示された。

大野学区連合町内会・井上繁則会長:
(野犬が増えたのは)自然発生でもないが、犬に責任はない。善意悪意は別にして、エサをやりに来る人がいる。

取材中、野犬の大きな鳴き声が聞こえた。井上さんは、「あれが生の声。1匹であれだから、向こうには10数匹いて、一斉に威嚇する。このまま放っておけない状況」と語った。

7年連続“殺処分”ゼロ

2024年2月、地元の町内会が集まり市に相談し、野犬の情報を共有するなど捕獲体制が強化された。現在、山には5カ所に、おりが仕掛けられていて、2023年度は35匹の野犬が捕獲されている。気になるのは、捕獲された後の野犬の行方だ。

岡山市保健所衛生課・丸山稔課長代理は「保健所は殺処分するという印象が根付いているので、捕まるくらいならここで暮らした方がいいと思われている」と話すも、岡山の保健所では「殺処分はしていない」と教えてくれた。

環境省の統計を見ると、岡山市は捕獲した後に病気などで死んだものを除き、7年連続で犬の殺処分数ゼロを達成している。

野犬から飼い犬になるための訓練

捕獲された野犬は人に慣れる訓練のため、岡山市の池田動物園の一角に収容されている。スタッフの指示に素直に従う「リーダーくん」は、推定5歳。2年半前までは野犬だった。

ドッグレスキュー協会・西坂真白さん:
最初は、首輪に手を持っていくだけでかむ。口輪もできない、手を触れない、ハーネスを付けられない。ただ散歩に行くだけの日々が1年続いた。

野犬の頃と比べて表情が柔らかくなったという「リーダーくん」
野犬の頃と比べて表情が柔らかくなったという「リーダーくん」

人から触れられる練習や人と歩く練習など、訓練士やボランティアなどによる根気強いトレーニングにより、野犬から飼い犬へ。人への警戒心がなくなり、表情も柔らかくなったという。

市は月に1回、飼い主を探すための譲渡会を開いていて、これまでに訓練を終えた元野犬81匹が引き取られている。

野犬として捕獲された子犬
野犬として捕獲された子犬

そして野犬は成犬だけでなく、生まれたばかりの子犬もいる。動物園に併設するペットショップの店員が3時間おきにミルクをあげるなど、譲渡できる大きさに育つまで毎日世話をしている。

ドッグレスキュー協会・西坂真白さん:
(野犬に)エサをやる人の気持ちも分からなくもない。ただ、自分たちが(野犬を)増やしている自覚は持つべき。

そもそも野犬は、人の都合により野に放たれた“飼い犬”が繁殖することで生まれる。市は、殺処分ゼロの現状を知ってもらうことで、通行人によるエサやりの根絶につなげ、野犬の繁殖を減らしたいとしている。

野犬に遭遇した際の5つの対処法

野犬がこれ以上増えないことが重要だが、地元の子どもたちも怖い思いをしている。岡山市は野犬に会った場合の対処方法として、5つのポイントを紹介している。

走らない・じっとする・叫ばない・目を見ない・そっと下がる

目を見ると攻撃してくる可能性があるので野犬と目を合わさないこと、そして犬に背中を見せず、ゆっくり下がることが重要だという。

(岡山放送)

岡山放送
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