子供が生まれると母親は、夜中の授乳が続いて睡眠不足な毎日…そんなイメージを抱いている人も多いのではないだろうか。あるいは実際に「そうだ」「そうだった」という人もいるかもしれない。
前回記事(『夜中の授乳が睡眠障害の要因に?「生後3〜4カ月を過ぎたらやめてもよい」という専門家に睡眠と授乳の関係を聞いた』)では、「生後3~4カ月が過ぎたら、夜中の授乳はあまりお勧めしない」という眠育推進協議会の三池輝久理事長に、なぜそうなのかの理由を聞いた。この記事では、実際に新生児期を過ぎても夜泣きが続く場合の対処法を聞いた。
(前編記事はこちら:夜中の授乳が睡眠障害の要因に?「生後3〜4カ月を過ぎたらやめてもよい」という専門家に睡眠と授乳の関係を聞いた)
手をかけるほど“睡眠障害になりやすい”?
夜中の授乳をやめたくても、夜泣きがひどい、夜に母乳をあげないと寝付いてくれないという人もいるだろう。夜泣きの対応策として、7〜8カ月頃に夜間授乳をやめるよう提案されることもあるというが、そもそも、新生児期を過ぎた早い段階で夜間の授乳をやめると、続けて眠るようになり夜泣き自体が起こりにくくなると三池さんは考えている。
夜間授乳で内臓時計が活性化され、睡眠を持続したい中枢時計のリズムとうまく噛み合わず、体内時計が崩れることによって夜泣きをしている赤ちゃんが多いと思われるからだ。
三池さんによると、生後2カ月を過ぎたら夜に子供が覚醒した時はできるだけ手をかけず、自分自身で再度眠りにつく練習(self-soothing:自己なだめ)をして、3~4カ月(遅くとも6カ月)までには身につけてもらうことが勧められるという。手をかければかけるほど睡眠障害になりやすいという報告もあるというのだ。
この記事の画像(5枚)「“Cry It Out”と言って、夜泣きでは赤ちゃんが泣くのに任せて、保護者はじっと我慢する方法が勧められています。赤ちゃんが泣き続けると、再入眠するまで我慢できずに断念する保護者もいますが、経験者である母親たちの話として、とにかく挫けないことが大切という助言もあります」
泣き続ける赤ちゃんを見ると、パパやママは心が痛むだろう。しかし三池さんによると、数日~2週間程度の“泣きの持続”は、心身発達や情緒面の発達には悪影響を与えないことがわかっているのだという。また、栄養面での問題や、脱水(発熱や下痢などの場合を除く)についても心配することはないと報告されているそうだ。
また、数日間パートナーと添い寝を代わる方法もかなり有効で、ぜひ試してみて欲しいという。
本来は社会全体で対策が必要だが…
では、2~3カ月以降も夜に赤ちゃんの覚醒ごとに授乳したり、すぐに抱き上げて構ったり…ということを続けるとどうなるのだろうか。それまでむしろよく眠っていてくれたのに、4カ月頃からは逆に以下のような「睡眠障害」の症状が現れる可能性がある。
【睡眠障害の症状】
・とにかく夜になかなか寝付けない、寝る時間が遅い
・夜に連続して眠る時間が短い
・夜中の覚醒が多く3回以上起きる、または1時間以上起きている
そして発達障害の疑いがあると診断された子供の多くは、この睡眠障害を抱えているというが、三池さんは「発達の問題があるために睡眠障害がくっついていると考えている人が多いですが、実は、体内時計の混乱に伴う睡眠障害が、発達問題の原因の一つである可能性も報告されていて、逆の発想が必要です」と指摘する。
「概日リズムと内臓リズムが噛み合って全身機能が効率良く回るのですが、発達障害的な症状を持つお子さんの多くは、一日の生活リズムがうまく噛み合わずばらけているせいで、全身に問題が生じている状態です。
私の経験からすると、1歳半~2歳頃までに、夜8時台など早めにきちんと眠り、朝7時までに起こされずに自分で機嫌良く起床できるように手を打つと、不機嫌がなくなったり言葉がドッと出始めたりと、症状が治まる子は多いです」
それでも生活改善をせずにこのような状態のまま放置をすると、子供は大きくなるにつれ、糖尿病、腎臓病、心臓病、癌、認知症…といった病気にかかるリスクが上がるという複数の報告がある、と三池さんは話す。
「若いパパママにもうちょっと子供を早く寝かせましょうと言っても、様々な社会的要因もあるし、そんな簡単なことではないと言われるのは仕方がないと思います。本当は政府や企業など社会全体で、例えば朝の開始時間を遅くしたり、働く親がもっと早く家に帰れるようにしたりと工夫するべきだと思っています。
それでも社会が変わらないのであれば、親はできることなら、子供が早く寝られるようになんとか対策を考えて欲しい。子供の睡眠障害が本人に与える影響は、大人とはずいぶん異なります。とにかくすぐに手を打つことが必要です」
子どもの心身発達の健康維持には、ただ睡眠の長さを考えるのではなく、睡眠を取る時間帯(夜7~朝7時までの間に眠る)を適切にしておくこと。こうして夜はしっかりと眠り、規則正しい食事をとることが重要だ。
それでも子供に睡眠障害や発達障害の疑いがあれば、早めに医療機関の受診をすることが大切だという。
次回は、乳児期を過ぎた子供が睡眠不足となってしまう原因と対策についてお伝えする。
三池輝久(みいけ・てるひさ)
小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て、現在は熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。主な著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計 胎児期から始まる生活習慣病』(ともに集英社)ほか多数。