生まれつきの難病で車いす生活をおくる女子高生が全国で講演やイベント開催を続けている。車いす体験では“赤ずきん社長”になって、参加者に”ある指示”を出す。イベントを通じ参加者に楽しみながら気づいてもらいたいことがあるという。
ごちゃまぜ駄菓子店でレジ担当

静岡県掛川市にある駄菓子店「横さんち」。
この日は春休みとあって小中学生が続々と店を訪れ、買い物を楽しんでいた。

レジを担当しているのは、2024年春に高校3年生になった佐野夢果(ゆめか)さんだ。
佐野さんは生まれつきの脊髄性筋萎縮症。筋力の低下などが起こる難病で、車いすを使って生活している。
そんな佐野さんはこの店で2022年からボランティアスタッフとして働いていて、「すごく楽しいし、自身が一番素でいられる場所がこのお店」と話す。

この店では在宅で働く人も合わせて13人の障がいを持った人が働いている。
店長の横山博則さんは手足や呼吸をするための筋肉が麻痺してしまう、かつて日本で流行した「ポリオ」の患者だ。障がい者の働く場所、そして健常者の子供への福祉教育の場所になればと2020年にこの店をオープンした。

横山博則 店長は「いろいろな人が来てくれて、“ごちゃまぜの世界”というか、そこに障がい者も健常者もいる。そういう集いあえる場所になってきていると感じている」と話す。
楽しみながら気づいて

佐野さんはこの店で働いているほか、障がい者としての思いを伝えていこうと自身も様々な場所で講演をしたりイベントを開催したりしている。
こうした取り組みで佐野さんが大切にしているのは「楽しさ」と「気づき」だ。

直接伝えるよりも楽しみながら、体験に織り交ぜながら、いろいろな人に届く形で伝えてきたい。これは佐野さんが常に意識していることだ。
佐野夢果さん:
何かを得ようと思って得た学びや気づきも大切ですが、ふとした瞬間に楽しみながら得た気づきが明日からの生活に根ざしていくと思うので、そういう気づきを生み出せる場をこれからも作り続けていきたい
車いすで道がのぼれない

2024年4月、佐野さんは浜松市で健常者の人にも車いすに乗って体験してもらうイベントを開催した。

普通の体験イベントと異なるのは参加者がただ車いすに乗るだけではなく、佐野さんが扮する「赤ずきん社長」の指示通りの商品を買ってくることだ。

車いすに乗った男性が、段差のある場所で「のぼれません。助けてください」と助けを求めた。
参加者は普段は何気なく通っている道で簡単にできる動作でも、車いすだと助けが必要になることに気づかされていた。

参加者:
何気なく歩いている道でもかなり凹凸があって、車いすの左右の車輪ががたがた動いたり、ちょっとした段差でも転げ落ちそうになったりするので、自分の見ていない世界があると思った。当たり前のように人助けができる世の中になってくれるといいと思う

参加者の姿を見た佐野さんも「皆さんがすごく笑顔でいてくださったのでよかったなと思います」と主催者としての手応えを感じていた。
どんな人も安心して暮らせるように
佐野さんが目指すのは、どんな人同士も自然と関わりあうことができる社会をつくること。そのためにも、自然な感覚の中での気づきを生み出す取り組みを今後も続けていく。

佐野夢果さん:
「車いすを体験してほしい」とか、「困っている人に声をかけてほしい」という意図はあるのですが、まず一緒に楽しむとか、誰かを楽しませる、“楽しむ”ということに重きを置いて、その結果 気づきが生み出される。あくまで目的は“楽しみながら”というところに重点を置いてやっていきたい
高校に通いながら全国でイベントや講演会を開催している佐野さん。今後は大学に進学し、どんな人も安心して暮らすことができる社会を目指して活動を続けるつもりだ。
(テレビ静岡)