エスカレーターを歩かないよう、AIが音声で注意する実証実験が愛知県の名古屋市で行われ、成果を上げている。導入前と比べて、エスカレーターを歩く人が半減したことがわかった。

名古屋市では、2023年10月に「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行し、2024年1月末から2023年度の実証実験を開始。来栖川電算(名古屋市)が開発した高精度のセンサーとAIを活用したシステム(仮称:エスカレータ見守り君)を市営地下鉄伏見駅に設置した。

※エスカレータ見守り君 イメージ(画像提供:来栖川電算)
※エスカレータ見守り君 イメージ(画像提供:来栖川電算)
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このAIシステムが高精度センサーで利用者の動きを検知し、エスカレーターを歩く人がいると、警告音を発して「条例違反です。立ち止まってご利用ください」と音声で呼びかける仕組みだ。

歩いていた人が立ち止まったことをAIが検知すると、「ご協力ありがとうございます」とお礼を伝える。また、左側に立つ人が連なって乗り口が混雑すると、「片側が空いています。2列で立ち止まってご利用ください」と、右側も利用するように促すという。

行燈に設置されている様子(画像提供:来栖川電算)
行燈に設置されている様子(画像提供:来栖川電算)

来栖川電算の報告によると、実験前の2024年1月18日~1月24日はエスカレーターの利用者6万7613人のうち歩いた人は1万572人。一方で実験中の2月19日~2月25日は、利用者6万6188人のうち歩いた人は5206人と、ほぼ半減した。エスカレーターを歩く人を割合でみると、15.64%から7.87%に減少したという。

実証の様子(画像提供:来栖川電算)
実証の様子(画像提供:来栖川電算)

なお実証実験は2024年度の現在も引き続き行われている。設置で約半分の人が歩かなくなるということには驚きだが、このAIシステムはどんなものなのだろうか?また、実証実験で見えてきた課題は?

来栖川電算の取締役・山口陽平さんに詳しく話を聞いてみた。

利用者数や違反者数の記録も可能

――なぜこの実証実験を始めた?

名古屋市が提示する行政課題、社会課題に対して、先進技術を活用した解決策を持つ企業を募集する「Hatch Technology Nagoya」というものがありました。ここに掲載されていた課題を見かけた際に「我々の技術で解決できる見込みが高い」「ビジネスチャンスになる」「日ごろからお世話になっている名古屋市に貢献したい」と思ったからです。


――AIシステムの特徴は?

従来から導入されている録音などでの呼びかけは同じアナウンスを延々と繰り返し続けるものです。延々と繰り返し続けるため、大音量で注意するアナウンスを流すことはできません。

エスカレータ見守り君は違反がある(エスカレータで歩く人がいる)ときだけアナウンスを行うため、大音量で注意できます。居心地が悪くなるほどの音量と文言にすることで、違反者や周囲の人は「こんな風に注意されて周りから注目の視線を受けるのは嫌だ」「歩かなければアナウンスが流れないからそうしよう」と思い、行動を改めます。これがエスカレータ見守り君の狙いであり、実際にこの狙い通りの効果を発揮しています。

エスカレータ見守り君は、違反があるときだけでなく、片側偏重&待機列が発生しているときにもアナウンスを行います。そして、これらの状況が改善されたときには「ご協力ありがとうございます」と感謝も伝えることができます。このように状況に応じたアナウンスによって、エスカレータの安全利用だけでなく、効率的な利用を促すことが可能になります。


――他に、どんなところがすごいの?

状況に応じたアナウンスを行うには、正確に状況を認識できる能力が必要です。実際に、伏見駅のエスカレータで体験して頂くと分かりやすいですが、エスカレータ見守り君はめちゃくちゃ正確です。ここまで正確に反応できる AI はそうそうないため、この点においても非常にユニークです。

エスカレータ見守り君はアナウンスするだけではなく、利用者数や違反者数などを記録することもできます。名古屋市が人手で行ってきた利用実態調査よりも圧倒的に正確ですので、置き換えて無人化することができます。

導入しやすいシステムにしていきたい

――歩く人をセンサーが認識してから、アナウンスまでの時間はどれくらい?

歩く人が発生してから、それを認識するまでに 1.0 秒程度の遅延があります。認識したあとは直ぐにアナウンスします。


――名古屋市でエスカレーターに関する条例に違反すると罰則はある?

ありません。


――今後の課題は?

以下になります。改善を継続しながら、他の駅への設置や長期間の設置など継続して実証し、有用かつ導入しやすいシステムにしていきたいと考えております。

〈コストに関する課題〉
・センサなどエッジデバイスの価格が高い
・記録したデータの回収や、システムトラブル時の対応など、オペレーションコストが高い

〈性能に関する課題〉
・フィードバックが1 〜2 秒ほど遅延してしまう
・低頻度ではあるものの、誤ったフィードバックを行ってしまう場合がある

〈フィードバックに関する課題〉
・音声が高圧的で、利用者に不快感を与えてしまう


――本格導入の予定は?

2025年度からの本格導入に向けて(本格導入する前提で)、2024年度は主にコストダウンとブラッシュアップを行います。



まだまだ課題はあるということだが、継続中の実証実験などを通して解消していくことだろう。こうしたAIシステムでエスカレーターの安全な利用にも貢献してほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。