エスカレーターは立ち止まって乗るものだが、片側に乗ってもう片側は急いでいる人のために空けるのが暗黙のルール“”となっている。しかし、エスカレーターを歩行することによって、転倒、転落などの事故も起きている。

そのため、自治体によってはエスカレーターで立ち止まって利用することが条例で施行されているところもある。

こうした中で日立製作所と日立ビルシステムは、片側を空けて乗らないように促す機能を搭載した新たなエスカレーターを開発。大阪・関西万博の開催に合わせて2024年度に開業予定である北港テクノポート線「夢洲駅」に3台設置される予定だ。なお万博開催期間中は1日に約12.6万人が夢洲駅を利用する見込みとなっているという。

「エスカレーターの片側空け」を抑止する新機能を搭載したエスカレーター(画像提供:日立ビルシステム)
「エスカレーターの片側空け」を抑止する新機能を搭載したエスカレーター(画像提供:日立ビルシステム)
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開発されたエスカレーターは「片側空け」を抑止する機能として、「乗り込み口LED誘導照明」「ライザーLED照明」「スカートガードLED照明」の3つの機能を新たに開発し、二列利用への誘導と安全面の注意喚起を行う。

「エスカレーターの片側空け」を抑止する新機能を搭載したエスカレーター(画像提供:日立ビルシステム)
「エスカレーターの片側空け」を抑止する新機能を搭載したエスカレーター(画像提供:日立ビルシステム)

具体的にはLEDを照射することで立ち位置を明示し、二列での利用を誘導するのだ。また、ステップが上りエスカレーター乗り込み口付近の水平状態から階段状になっていく位置で、ステップのライザー(蹴上げ)にLEDを照射し、段差を強調することで、歩かずに立ち止まって利用することを促すという。

そして、エスカレーター両脇のスカートガードにもLED照明を設置し、ステップの移動スピードに合わせて照明を光らせるようにすることで、歩かずに立ち止まって利用することを促す。そのほか、エスカレーターのカバープレート(床面)に、エスカレーターの乗り込み方向を示す矢印をLEDで表示し、スムーズな乗り込みを促進するという。

こうした新機能を搭載することで、「片側空け」での利用と歩行を抑止し、安全利用の実現と輸送効率の向上を図るとのことだ。たしかにエスカレーターの乗り方に対する関心は高まってきているとも感じるが、今後、このようなエスカレーターは増えていくのか?日立ビルシステムの担当者に詳しく話を聞いてみた。

2年で1550件のエスカレーター事故

――そもそもエスカレーターを駆け上がるとどんな危険がある?

エスカレーターを歩行することによって、つまずいて転倒・転落したり、歩行者の荷物等が停止して利用されている方にぶつかって転倒・転落するなどの危険があります。日本エレベーター協会によると、2018年1月から2019年12月までの2年間で1550件の事故がエスカレーターで発生しています。


――なぜ片側空け抑止のエスカレーターを開発した?

夢洲駅は、2025年に開催される大阪・関西万博会場の最寄り駅となる予定で、万博開催期間中は1日約12.6万人の利用が見込まれる中、2分半間隔で電車が到着し、多くの乗降客がホーム中央の3連エスカレーターを利用することが想定されることから、ホーム内の人の滞留を抑止し、スムーズかつ安全にエスカレーターを利用できる仕組みが必要となっております。

エスカレーターは、安全上の理由からステップ(踏み段)上で停止して利用することを前提とした装置ですが、慣習としてステップの片側を歩行用に空ける利用方法「片側空け」が一般化しており、安全利用の実現と輸送効率の向上に向けて、エスカレーターの歩行につながる「片側空け」を抑止する仕様の検討依頼がお客さま(Osaka Metro様)からあり、新機能を搭載したエスカレーターを開発しました。

日立ビルシステムでは、「片側空け」を抑止するものとして、ラッピングサービスを提供しておりますが、夢洲駅では、今までにない形で人の滞留を抑止する仕組みを導入したいとのお客さま意向があり、LEDを活用した新機能を開発しました。


――エスカレーターには行動経済学が取り入れられている?

お客さまより、ナッジ理論に基づき、スムーズにお客さまをエスカレーターに誘導し、歩かず立ち止まって安全に利用いただけるようにすることはできないか、とのご相談をいただき、今回の新機能を開発、お客さまに試作機を確認いただき、採用が決まりました。

「片側空け」抑止への関心は高まっている

――片側を空ける人がいないか試験はした?

今回の照明技術について工場内にてモニター評価を行い、数種類のパターンから有効性、優位性を評価しました。


――今後、片側空け抑止のエスカレーターは増えていきそう?

今回開発した新機能は、夢洲駅向けに個別対応で開発したものであり、現時点では製品のオプションとする予定はございません。

しかし埼玉県や名古屋市でエスカレーターについて立ち止まって利用することを義務付ける条例が施行されるなど、歩行につながる「片側空け」の抑止に対する関心は高まっています。

今回開発した新機能以外にも、ステップやライザー(蹴上げ)、ハンドレールなどに二列利用を促したり、歩行を抑止する文章やサインのフィルムを貼り付ける対応なども含め、「片側空け」「歩行」を抑止する機能・サービスのニーズは増加していくものと考えております。


――他の施設での設置予定はある?

現時点では、今回開発した新機能について製品化、別案件への展開予定はございませんが、早速、お客さまからの問い合わせもいただいており、今後、需要を見ながら対応を検討してまいります。



一部の自治体では、エスカレーターは立ち止まって利用することを義務付ける条例も施行され、片側空け抑止の関心は高まっている。まずは今回開発されたエスカレーターが、夢州駅で活躍することを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。