メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の銀行口座から不正に電子送金したとして訴追されていた元通訳の水原一平容疑者が、4月12日、司法当局に出頭し拘束された。その後、水原容疑者は司法手続きを終えて保釈された。
Mr.サンデーは、出廷までの空白の23日間を知る人物を取材。さらに、37枚の訴状から明らかになった、違法賭博業者とのやりとりを再現。“裏切りの一部始終”が見えてきた。
裏口から出て裁判所を後に…
米メディア「Back grid」カメラマン・ジゼル氏:
(水原容疑者は) 左右をきょろきょろ見ていましたね。とても不安な様子でした。
14日、Mr.サンデーが取材したのは、大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者の初出廷後をスクープ撮影したカメラマン。
米メディア「Back grid」カメラマン・ジゼル氏:
(水原容疑者は) 走っていると言ってもいいほど、とても素早く歩いていました。
なぜか焦っている様子だったという水原容疑者。実はこの日、出廷を終えた水原容疑者が裁判所の前で会見をすると弁護士から伝えられていたというのだが、結局、水原容疑者は裏口から出たという。
米メディア「Back grid」カメラマン・ジゼル氏:
運転手付きのリムジンが待っていたんです。(私以外の報道陣は) みんな彼が出ていくのを見逃しました。
――戦略的な偽情報だったんですか?
そうだと思います。
水原容疑者が公の場に姿を見せたのは、韓国で開幕戦が行われた3月20日以来だ。空白の23日間、どこで何をしていたのか。Mr.サンデーは、水原容疑者に極めて近い人物を取材することができた。
“知人”が独自証言「連絡があって…」
事件後の水原容疑者の様子を知る近しい人物:
一平は携帯電話を押収されたようで、私は (アメリカに住む) 彼のお父さんと連絡を取り合っていたんです。お父さんからは今回の件について「迷惑をかけて申し訳ない」と連絡もありました。一平は大谷選手と歩みたかっただろうし、なんでこんなことになったのかな…って。
12日、黒のスーツに白いシャツで法廷に現れた水原容疑者。現場にいたスポーツニッポンの柳原記者は、出廷時の水原容疑者の様子についてこう話す。
「スポーツニッポン」MLB担当 柳原直之記者:
憔悴しきったような様子とか、そういう様子を想像したんですけども、本当にいつもの水原氏っていう感じで淡々と。
その時、足には鎖がつけられていたというが……。
「スポーツニッポン」MLB担当 柳原直之記者:
僕には水原さんがちょっとうっすらうまく歩けないってことで、ふっと笑ったようにもその時は見えました。別の記者は「反省しているのかな」みたいな感じでボソッて言ってましたけど。もちろん反省の言葉を声明として出されているんで、それを信じていますけども、何を考えているのか不気味とまでは言いませんけど、ちょっと感情は正直読めなくて。
水原容疑者は、証言台では判事からの質問に淡々と「イエス」とだけ繰り返したという。
違法賭博の泥沼へ
大谷選手の銀行口座から不正に電子送金したとされる約24億5000万円。37枚の訴状から明らかになったのは、違法賭博の泥沼へとはまっていく一部始終と、大谷選手への裏切りだった。
米連邦検察(4月11日の会見):
水原容疑者は、2021年から違法なギャンブル運営に関連のある複数の胴元とスポーツ賭博をするようになりました。
その始まりは、大谷選手がホームラン王のタイトルを争っていた2021年のシーズン終盤。2021年9月、試合前のグラウンドには、大谷選手の練習に付きそう笑顔の水原容疑者の姿があった。この映像から1週間ほどたった9月8日ごろ。メッセージの送り主は、この年、ポーカー場で知り合った、ボウヤー氏らとみられる胴元。与えられたのは、違法賭博の胴元から借金が可能な賭博用口座の番号とパスワードだった。
この日から水原容疑者は、勝利に酔いしれる時もあれば、当然、負ける時も。口座を与えられてから約2週間後、水原容疑者が胴元に送ったメッセージにはこう書かれていた。
(2021年9月24日頃の水原容疑者のメッセージ・起訴状による)
「僕はサッカーでむちゃくちゃになっているんだ。24時間年中無休試合があるからさ(笑)UCLAに賭けたが、完敗!!!」
その文面からは、賭けに負けながらも、どこか楽しげな様子すらうかがえる。まさにそのメッセージが送られた2021年9月24日に撮影された写真には、試合前、大谷選手と笑い合う水原容疑者の姿がおさめられていた。
大谷選手と日夜生活を共にし、通訳の仕事をこなす中で、のめり込んでいった違法賭博。
「スポーツニッポン」MLB担当 柳原直之記者:
水原容疑者は最近に限らず、すごい電話の多い方で知られてて。一人で誰もいないような駐車場とかに行って電話する姿っていうのは、いろんなメディアの方が見ていて、しかも英語だったので、賭け事とかそういうのも、もしかしたら含まれてたんじゃないかなと今となっては思ったり……。
賭けの対象となったのはサッカーやバスケットボールなど。その回数は驚くことに、2年間で1万9000回、1日平均25回に上った。その金額も次第に高額になり、多い時で1回2400万円以上。負債は膨れ上がっていった。
大谷選手の口座にアクセス…「バンプ」繰り返す
米連邦検察(4月11日の会見):
水原容疑者は借金の返済に大谷氏の口座を利用するようになりました。
違法賭博を始めた翌月、初めて大谷選手の口座にアクセスしたという水原容疑者は、その後、口座の連絡先の情報を自分の電話番号とメールアドレスに変更。さらに勝った際の払い戻しは、自分の銀行口座に振り込まれるようにしていたという。
2021年11月15日に日本記者クラブでの会見の際、大谷選手は「お世話になったのは、やっぱり一平さんじゃないかと思います」と水原容疑者への感謝の気持ちを口にしていた。水原容疑者が大谷選手の口座から最初の不正送金を行ったのは、まさにこの日のことだった。
2021年11月19日、大谷選手初のMVP受賞に、水原容疑者は自身のインスタグラムに「長い道のりだった。おめでとう僕の相棒。この素晴らしい旅のパートナーに僕を選んでくれてありがとう」とコメントしていた。
だが、年が明けると、状況は悪化していく。
(2022年1月2日頃の水原容疑者と胴元のやりとり・起訴状による)
「私のアカウントは再起動できるのか。すべて負けてしまった」
「5万、バンプした」
「バンプ」とは違法賭博の隠語で、信用で賭けられる上限の金額を引き上げること。
(2022年1月15日頃の水原容疑者のメッセージ・起訴状による)
「くそっ全部負けた。5万、バンプできないか。もし負けたらしばらくはこれで最後になる」
膨れ上がる借金。送金がうまくいかなかった際には、大谷選手本人になりすまし、胴元への送金を許可するよう銀行員をだまそうとしたという。また、大谷選手の口座のオンライン取引が凍結された時にも、再び大谷選手になりすまし、経歴やセキュリティ用の質問にも答え、取引を再開させた。
米連邦検察(4月11日の会見):
本件では、大谷氏は被害者です。
こうして、知らない間に、窃盗の被害者となっていった大谷選手。そして水原容疑者は……。
(2022年3月の水原容疑者のメッセージ・起訴状による)
「とにかく少しだけバンプしてくれないか?」
掛け金の上限を上げるよう要求。胴元からは「イッピー」とニックネームで呼ばれるほど、近い関係になっていた。3月に行われたキャンプの映像には、大谷選手の金を使い込んでいながら、相棒としてピタリと寄り添う水原容疑者の姿があったが、この頃、水原容疑者の借金はすでに1億5000万円に上っていたという。
それでも……。
(2022年11月の水原容疑者のメッセージ・起訴状による)
「スポーツ賭博って苦手なんだよね(笑)よかったらまたバンプしてくれない?知ってると思うけど、支払いについては心配する必要ないよ!」
「最後のお願い、もう20万ドルの限度額引き上げてくれるかな?アメリカに帰ったら返済するから、ママに誓って、これが最後だから。」
だが、これが最後…とはいかなかった。
2023年6月、15本のホームランを打ち、絶好調だった大谷選手。水原容疑者も傍らで笑顔を見せていた。しかし、その裏で……。
(2023年6月の水原容疑者のメッセージ・起訴状による)
「またやらかした…(笑)。最後にもう1回だけ、バンプしてもらえないか?」
「最悪です…(笑)。やめられない。最後にもう一回だけ、バンプもらえる?」
「困ってるんだけど(笑)最後の最後の最後のバンプ。これはマジだよ」
3日続けてバンプを要求。深い沼にはまり抜け出せなくなっていた。
追い詰められる水原容疑者
昨シーズン、大谷選手は44本のホームランを打つ活躍で、自身2度目となるMVPを受賞。自宅からの中継では、愛犬・デコピンが話題となった。その翌日……。
(2023年11月の胴元からのメッセージ・起訴状による)
「ヘイ、イッピー、金曜日の2時だよ。なぜ電話に出ないのかわからない」
「大谷選手が犬の散歩をしているのを見かけたんだ。おまえが電話をよこさないから、大谷選手に近づいて話しかけて、どうしたら連絡が取れるか聞いてみようと思ってね」
「いますぐ電話をくれ」
10年以上に渡りスポーツ賭博事件を担当してきた元捜査官は、こうしたやりとりが捜査を急がせた可能性が高いと指摘する。
元HSI捜査官 ジェームズ・ヘイズ氏:
水原容疑者が借金を返済することが困難になってきて、胴元から脅しのメッセージが増え始めた頃から、当局はこの事件を終結させようと捜査に力を入れたのだと思います。水原容疑者を守るために介入しようとしたんです。
事態は水原容疑者に身の危険が及ぶ状況にまで悪化していた。2023年12月、大谷選手とともにドジャース入団会見に向かう水原容疑者の表情を見ると、ほほはやつれ、その目の下には深いクマができていた。実は、この晴れの舞台の裏で……。
(2023年12月の水原容疑者と胴元のやりとり・起訴状による)
「忙しいのは分かってるけど、少しはリスペクトを見せろよ。今夜までに電話くれ」
「ゴメンよ、リスペクトしないなんて全くないけど、スーパー忙しいんだ」
さらに、年をまたいでも…
(2024年1月の水原容疑者と胴元のやりとり・起訴状による)
「今日中に連絡をくれなければ、もうおしまい。俺の手に負えない話になる」
「ごめん。僕が悪い。1月中旬にはアメリカに戻る。今ホントに金欠で、支払うためにはもう少し時間が欲しい」
借金がかさみ、追い詰められていく水原容疑者。2度目のMVP受賞を祝う夕食会でのスピーチで、「そしてもちろん水原一平さん。いつも支えてくれてありがとうございます」と大谷選手から再び感謝の言葉を受ける一方、水原容疑者が大谷選手の口座から送金した総額は、想像を絶する約24億5000万円になっていた。
違法賭博で勝った総額217億円。一方、負けた総額279億円。結果、62億円の損失。すでにどうにもならない状況となっていたからか、2024年2月、結婚を発表した大谷選手が囲み取材に応じた時には、いつもよどみない通訳をしていた水原容疑者が突然言葉に詰まってしまう場面があった。
偽名「ジェイ・ミン」
それでも、どうにかあがこうとしていたのだろうか、水原容疑者は2024年1月から3月にかけて、大谷選手の口座の金を使い、約5000万円分の野球カードをオークションで購入していた。転売目的だったのだろうか、そこには大谷選手のカードも含まれていた。
この時に使われていた「ジェイ・ミン」という偽名について、スポニチの柳原記者は……。
「スポーツニッポン」MLB担当 柳原直之記者:
球場近辺のスターバックスで、(水原容疑者に)会ったりとかもしたことあったんですけども、その時スターバックスの店員に「ジェイ」っていう名前で伝えてたんですね。その時は「一平っていう名前はアメリカじゃ呼びにくいんで」とかっていう風に説明されていた。
そして2024年3月20日、水原容疑者の疑惑が報じられると……。
(2024年3月20日頃の水原容疑者と胴元のやりとり・起訴状による)
「報道を見たか?」
「ああ。でも、全部デタラメだろ。あなたは大谷から金を盗んではいない。偽装工作だと理解している」
「いや…厳密に言えば、僕が彼から盗んだんだ。僕はもうおしまいだ」
希代のスーパースターの相棒として浴び続けた脚光。その裏で信頼を裏切り、落ちた闇は、あまりにも深い。
(「Mr.サンデー」4月14日放送より)