日本を観光中のフランス人女性が、栃木・日光市で突然行方不明になった事案について、国連が2024年1月、日本側に3度目となる捜査協力の要請をし、日本側がプライバシーなどを理由に断ったことがFNNの取材でわかった。

行方不明のティフェヌ・ベロンさん(41)
行方不明のティフェヌ・ベロンさん(41)
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国連の強制失踪委員会は、女性が事件に巻き込まれた可能性があるとして、日本政府に犯人特定に向けた捜査と、家族やフランス当局への捜査情報の提供を繰り返し求めていた。

家族にも全ての情報の公開はできない

2018年7月、栃木県日光市で観光中に突然行方がわからなくなったのはティフェヌ・ベロンさん(41)だ。国連は2024年1月22日に行った3度目の要請で、日本側に、「ベロンさんが宿泊していたホテルの部屋の写真や、鑑識捜査の結果の一部がフランスの捜査当局に共有されていない」などと指摘した。

この要請に対して日本政府は、「プライバシーの理由から、この事案に関わっていない第三者を含め、ベロンさんの家族にも全ての情報を公開することはできない」と回答したという。

フランスでは被害者家族は捜査資料を読める

なぜ日本とフランスの間で、この様な押し問答になってしまっているのか。フランスで起きた邦人行方不明事件なども担当した須田洋平弁護士は「フランスでは、犯罪の可能性がある場合には、被害者と考えられる人の家族が、『私訴申立て』という形で刑事手続に捜査段階から参加できる。家族には捜査資料へのアクセスが認められる。アクセス可能な捜査資料には、捜査報告書だけではなく、関係者の供述調書も含まれる」と説明する。

須田洋平弁護士
須田洋平弁護士

実際に、須田弁護士が邦人行方不明事件を担当した際は、他人に共有しないという条件のもと、捜査段階から鑑識捜査資料や防犯カメラなどの物証を見ることができたという。須田弁護士によると、日本では、刑事訴訟法47条により、捜査段階での捜査資料の公開が原則禁じられていて、捜査に支障をきたす恐れや、関係者の名誉やプライバシーが害される恐れがあることが原則公開禁止の理由と考えられているという。

須田弁護士は日仏の法律の違いに原因があると指摘したうえで、「刑事訴訟法47条は例外的な公開を認めていることから、ベロンさんの家族にも情報共有が認められるべきだ」と話した。

家族からは弱音も…

ベロンさんの兄・ダミアンさんはFNNの取材に「母は、妹がもう生きていないのか、どこかで助けを求めているのか分からず、いまだによく泣いている。まもなく6年が経つがきっと見つかると信じている」と悲しみを滲ませた。

ベロンさんの母親は2023年、FNNがインタビューした際、「(娘がいなくなってから)幸せな瞬間がない。娘の失踪で私たちの人生が狂ってしまった」と涙ながらに辛い胸の内を明かしている。

ベロンさんは日本が大好きで、栃木を訪れた後は別の観光地を訪れる予定だった。そんな彼女に一体何があったのか?荷物をホテルの部屋に残したまま突然行方不明になり2024年で6年が経とうとしている。

ベロンさんの兄・ダミアンさん
ベロンさんの兄・ダミアンさん

当初、兄のダミアンさんからは常に「きっと妹は見つかる」といった前向きな発言が聞かれた。しかし2023年11月に来日した際は「捜査状況をすべて把握し、そのうえで何も証拠がないとわかれば、私たち家族もあきらめがつくかもしれない」と初めて弱音を打ち明けた。

幸せな旅行を楽しんでいたはずの家族が言葉も通じない遠い異国で突然いなくなってしまった悲しみは想像を絶する。ベロンさんの家族に1日でも早く平穏な日が訪れることを願って止まない。

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林英美
林英美

社会部文部科学省担当。警視庁捜査一課担当、サブキャップを歴任。