14日、日本製鉄のUSスチール買収計画に対し、バイデン大統領が慎重な姿勢を示した。
USスチールはアメリカの象徴的企業であり続けるべきとし、買収に対する反対の意向を表明。背景には、秋のアメリカ大統領選の票獲得があると思われる。

買収の背景に中国の存在

日本製鉄によるアメリカの鉄鋼大手・USスチールの買収問題をめぐり、バイデン大統領が買収に慎重な姿勢を示した。

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バイデン大統領は、14日声明を発表し、USスチールについて「アメリカの象徴的な鉄鋼会社だ」とした上で、「アメリカ国内で所有・運営されるアメリカの鉄鋼会社であり続けることが極めて重要だ」として、日本製鉄による買収に慎重な姿勢を示した。

日本製鉄は2023年買収を発表したが、全米鉄鋼労働組合などが反対を表明している。

秋の大統領選挙をにらみ、トランプ前大統領は買収に反対する考えを示していて、労働組合が支持基盤のバイデン氏としても、買収阻止は明言しない一方で、反対姿勢を強くにじませた形だ。

日本製鉄は、「USスチールが今後何世代にもわたって、アメリカの象徴的な企業としてあり続けるための、最適なパートナーであると確信しています。強い決意のもと、プロセスを完遂し、本買収を完了させて参ります」などとコメントしている。

日本製鉄がアメリカ2位のUSスチールを買収する計画に、バイデン大統領が待ったをかけたわけだが、これはかなり異例の事態だ。

この「買収協議」はうまくいっていた。USスチールのホームページの最初に、日本製鉄の名前が出ていて、「日本製鉄とUSスチールは一緒になり、最高の製鉄会社として前進する」と書かれている。
買収の成立前に、両者は相思相愛の状態だった。なのに大統領から待ったがかかった。その背景を見ていく。

USスチールは1901年設立、100年以上の歴史がある製鉄会社だ。第2次世界大戦中などはアメリカ最大の製鉄会社だった。また、一時は35万人もの従業員を抱える世界最大の製鉄会社でもあり、アメリカの資本主義を支えてきた企業だ。作られた製品にも「MADE IN THE USA」と大きく書かれており、まさにアメリカを代表する企業だ。

一方、日本製鉄は1950年に設立した会社で従業員は約10万人。日本を代表する製鉄会社だ。春闘では、過去最高となる3万5000円の賃上げを回答しており、好調ぶりが伺える。

その日本製鉄は、なぜ買収に動いているのか。背景にあるのは中国の存在だ。
2000年以後、中国は鉄の生産量でぐんぐん伸びてきていて、アメリカや日本は、対抗する必要があった。

世界鉄鋼協会が発表した生産量のランキングを見ると、1位は中国の宝武鋼鉄集団で、2位のヨーロッパのアルセロール・ミタル社を大きく引き離している。3位も中国企業で、4位が日本製鉄。かつて世界最大の製鉄会社だったUSスチールは、27位まで落ちこんでいる。

ここで、日本製鉄がUSスチールを買収すれば、単純合算で生産量は5886万tになり、中国の鞍鋼集団を抜いて世界3位になる。USスチールにとっても良い話だ。

さらに日本製鉄にとっては、この買収でアメリカ市場を一挙に拡大できることになる。
鉄は大きくて重いので、日本で作って船で輸出するとコストがかかる。しかも各地で紛争も起き、物流コストも上がっている状況だ。現地で作って現地で売る「地産地消」のほうが望ましい。

労働組合の票獲得が目的

なぜバイデン大統領はストップをかけたのだろうか。

その背景には、大統領選がある。このUSスチールのあるペンシルベニア州は、「スイングステート」と呼ばれる激戦州で、勝敗のカギを握る。
2016年はトランプ氏が勝ち、2020年はバイデン大統領が勝っている。11月の大統領選でも激戦になることが予想され、ここでの労働組合の票を獲得することが非常に重要だ。

そのUSスチールの労働組合は、日本企業による買収に激しく反発してきた。

また85万人が加盟する全米鉄鋼労働組合も、今回の買収事案に「従業員の懸念を押しのけ、外資系企業による買収を選択した。非常に失望した」とコメントしていた。

会社は前向きだが、働いている従業員にとっては製鉄はアメリカの魂であり、日本人がボスになるのは許せない、という感情がある。例えばトヨタや日産が海外に買収されるようなものだ。バイデン氏は、こういった労働者の票を取り込む必要がある。

トランプ氏は敏感に反応していて、2月にすでに「ひどい話だ。私なら即座に阻止する」とコメントして、バイデン大統領に先んじて労働者にアピールをしている。そのため、バイデン氏も反対を表明する必要があった。

大統領に企業同士の買収を止める権限はあるのだろうか。

アメリカでは、企業買収がアメリカの安全保障に影響する「確かな証拠」がある場合、大統領がストップをかけることが出来る権限を2018年に強化している。
そういった事からも、今回の大型合併は非常に厳しい状況だ。

本来の資本主義であれば介入しない方がいいが、国家と結びつきが強い公共性の高い企業には、介入することがある。今回の場合は、大統領選の影響が大きいと思われる。
(「イット!」 3月15日放送より)

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