ウクライナへのロシアによる侵攻から3年目に入ったが、いまだ戦争が終わる道筋は見えない。こうした中、隣国ポーランドに避難しているウクライナ人一家に、避難生活や祖国への思いを聞いた。

母と4人姉妹でポーランドに避難

「サイレンが鳴り響き、家の前を戦車が走っているのを見てここは危ないと逃げました」

こう語るのは、テチアナ・ビェリツァさんだ。2年前の軍事侵攻直後、3月1日にテチアナさんは4人の娘を連れて隣国ポーランドに避難した。避難所にいったん身を寄せた後、ポーランド人のホストの家に住んだが、ポーランド政府が支援者向けの補助金を打ち切ったため、ホストから「これ以上は置いておけない」と言われて再び避難所に戻ることになった。

左からテチアナ・ビェリツァさん、アンナさん(9)、アリビナさん(13)、アンゲリナさん(15)、アデリナさん(14)、ポーランドで避難民の支援活動をする坂本龍太朗さん
左からテチアナ・ビェリツァさん、アンナさん(9)、アリビナさん(13)、アンゲリナさん(15)、アデリナさん(14)、ポーランドで避難民の支援活動をする坂本龍太朗さん
この記事の画像(5枚)

「もうウクライナに戻るしかないか」と思った矢先、ポーランドで避難民の支援活動をしている日本人、坂本龍太朗さんから居住できる研究所を紹介され、いまは家族でそこに住んでいる。坂本さんはワルシャワ日本語学校の教頭を務めながら、ウクライナ避難民の物心両面で支援を行っており、今回ビェリツァ一家を筆者に紹介してくれた方だ。

「占領地域はロシアに渡して戦争を終えても…」

この戦争でテチアナさんの周囲の人々も戦渦に巻き込まれている。テチアナさんは前線で戦う友人たちと日々ビデオ電話で連絡を取っているという。

「子どもたちの学校の卒業生だけでも5人亡くなっています。前線で戦っている友人たちとは日々ビデオ電話で連絡をしていますが、会話中にも砲撃の音が聞こえてきます。前線では武器が全く足りない状況で、兵士はどんどん精神的に追い詰められています。前線にいたある友人は精神的に耐えられなくなって銃で自殺しました」

テチアナさん「前線にいる友人と連絡を取り合っている」
テチアナさん「前線にいる友人と連絡を取り合っている」

テチアナさんは「ロシアがこれ以上侵攻しないという確約があれば、いま占領している地域はロシアに渡して戦争を終えてもいいんじゃないか」と最近思い始めている。

「23歳の息子がウクライナに残って寝たきりのおばあさんの介護をしていますが、いつ徴兵されるかわからず心配しています。街中を軍の車が走っていて、いまは外に出るのも怖いという状況です。息子には外出の際には必ず携帯を持ち歩き、もし徴兵されてしまったら必ず連絡してと言っています」

「いい時も嫌な時もある」現地校で“いじめ”に…

4人の娘はいまポーランドの現地校に通っている。長女のアンゲリナさん(15)は小学校8年生(ポーランドの小学校は8年制)だ。学校生活についてアンゲリナさんは、「いい時も嫌な時もある」と語る。

「24人のクラスでウクライナ人は私1人だけです。入学当初はポーランド語がわからなかったのですごく大変だったけど、習得するにつれて友達も少しずつできるようになってきました。ただ、まだ言葉が日常会話レベルでもないので、親友と呼べる人は一人もいません。今年卒業だけど試験があるので大変です」

ポーランド語については1週間に3回、課外授業を受けているそうだ。

アデリナさん(右)とアリビナさん(左)
アデリナさん(右)とアリビナさん(左)

次女のアデリナさん(14)と三女のアリビナさん(13)は、ともにいま6年生。四女のアンナさん(9)は2年生だ。3人は当初学校でいじめにあった。ポーランド語が出来ないことを嘲笑されたり、「どうせロシアが勝つ」「ウクライナに帰っても家がない」と言われたこともある。しかし、学校側がいじめた生徒たちに言い聞かせ、心理カウンセラーがケアをしてくれるようになり、以降いじめはなくなった。週末は姉妹だけで過ごすことが多い。料理や掃除、SNSへの投稿が趣味だ。

娘たちの知る昔のウクライナではない

彼女たちに今何がほしいかと聞くと、皆「ウクライナの家に帰りたい」と言う。しかし2023年11月におばあさんの看病のため一時帰国したテチアナさんは、「娘たちが知っている昔のウクライナではない」と語る。

「いまのウクライナの状況がわかっていないから帰りたいと言えるんです。ウクライナに帰国した時私はすべてが灰色に見えました。娘たちは帰国してもたぶん1週間も経たずにポーランドに戻りたいというでしょう。いま私の望みは娘たちが学校を卒業してこのままポーランドに残ること。そして息子とおばあさんがこちらに避難できることです」

テチアナさん「心配なのは子どもたちの将来」
テチアナさん「心配なのは子どもたちの将来」

ビェリツァ一家は2023年、坂本さんが支援を募って日本に連れて行き、いまでは日本の大ファンだ。しかし戦局が長引くにつれ日本でも関心が薄くなっている。テチアナさんは「関心が薄れるのは理解できる」と語る。

「いつ終わるのかわからない状況が続いているので、支援疲れは当たり前のことです。明日がどうなるかわからないので、心配なのは子どもたちの将来です。さらにもっと心配なのはポーランドがこの戦争に巻き込まれないかということです。ポーランドに戦争が広がらない保証は誰もできませんから。こんなことが自分の人生に起こるとは思いませんでした。ポーランドには親族もいないので、私だけで娘に責任を持っていることが辛いです」

戦争が長期化する中、ゼレンスキー大統領はすでに約3万1千人のウクライナ兵が死亡したことを明らかにした。ウクライナの避難民の平和と帰国への願いが叶う日はいつになるだろうか。
(フジテレビ解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。