ウクライナ国防省の情報部門トップは、刑務所で死亡したロシアの反体制指導者、ナワリヌイ氏の死因が血栓症との見方を示した。ナワリヌイ氏が極寒の屋外独房で毎日2時間半過ごさねばならなかったとの情報から、寒さで血栓ができたところに打撃を加えて殺す「ワンパンチ」と呼ばれる暗殺術が死因だったのではという見方もある。

ウクライナ国防省「死因は血栓」

ウクライナ国営メディアによると、国防省のブダノフ情報総局長は25日記者団に対し、「みなさんをがっかりさせるかもしれませんが、私たちが知る限り、彼は実際に血栓で亡くなっている」と自然死との見方を示した。

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また、根拠などについては明らかにせず、「これは多かれ少なかれ確認されている。インターネットからの情報ではなく、我々が把握していることだ」と語ったという。

ナワリヌイ氏の遺体は母親に引き渡されたと広報担当者が24日に発表。その後、遺体がモスクワに移送され、今週中にも葬儀が行われるとの情報もあるが、いずれもまだ発表がなく確認されていない。

死亡から8日後に遺体引き渡し

遺体が引き渡されたことで、今後、事実解明は進んでいくのだろうか。

遺体を返したということは、ロシア側にやましいところがないと受け取る人もいるかもしれないが、そうでもないようだ。

ナワリヌイ氏の死因を巡っては、さまざまな情報を飛び交っている。遺体引き渡しの一報が入ってきたのは日本時間25日だった。母親のリュドミラさんは、ナワリヌイ氏が死亡した直後から引き渡しを求めてきたが、その実現には死亡から8日もかかった。

この引き渡しには、ナワリヌイ氏の妻・ユリア氏の動きも関係しているかもしれない。

ユリア氏は、24日に公開した動画で「アレクセイを無条件で渡してください。あなたは彼を生きたまま拷問し、そして今も彼を拷問し続けている」とプーチン大統領を強く批判し、即時に無条件での遺体の返還を強く求めた。

ユリア氏はプーチン氏と戦う意志を鮮明にしていて、世界中の注目を集めており、こういったユリア氏の動きをプーチン氏も無視できなかったのでないだろうか。

死因については、ウクライナ国防省の情報部門トップが25日に「がっかりさせるかもしれないが、ナワリヌイ氏は血栓で亡くなったとの情報を得ている」と発表した。ロシア国営テレビもテレグラムで、ナワリヌイ氏が散歩の後に倒れ、血栓が死因であると発表している。

血栓というのは血管内に血の塊が詰まってしまい、血の流れを止めてしまう病気だ。ロシアもウクライナも「死因は血栓」と一致している。

ナワリヌイ氏は「クリミアは本来ロシア領土」と主張するなど、ウクライナとの考えに隔たりがある。こうしたことから、ウクライナではナワリヌイ氏に不信感を持っている人も多い。ウクライナ側が早々に暗殺の疑いを打ち消したのは、こうした事情も関係しているのかもしれない。

KGBの「ワンパンチ」暗殺術

ロシア側が遺体を返したということは「暗殺説」の可能性はないのだろうか。

ロシアからフランスに亡命した人権活動家のウラジーミル・オセチキン氏は、旧ソ連の情報機関「KGB」に伝統的に伝わる、打撃による「ワンパンチ」暗殺術が使われたとしている。

これはイギリスのタイムズ紙の取材に答えたもので、刑務所関係者からの情報として、ナワリヌイ氏は、気温が-27℃の屋外の独房で毎日2時間半過ごさねばならなかったという。これによりナワリヌイ氏の血液循環を最小限に低下させ、体を破壊。その状態で心臓部を狙って打撃を加えることによって死亡させるという術が「ワンパンチ」と呼ばれる。

新潟大学心臓血管外科の榛沢和彦特任教授によると、寒ければ寒いほど血栓ができやすい状態になり、その状態で心臓を殴られると死に至るケースもある。また、証拠も残りにくく、死亡原因もわかりにくいという。

寒さで血栓ができたところに打撃を加えて殺すという、証拠が残りにくい暗殺術。オセチキン氏は「訓練された工作員なら数秒で殺せる」としている。

このインタビューは先週行われたが、その時点ですでにオセチキン氏は、体内に痕跡が残るため「ノビチョク」などの毒薬の使用は考えにくいとし、打撃による暗殺の可能性が濃厚と指摘していた。実際に、ナワリヌイ氏の胸の部分にはあざがあったという情報も出てきている。

過去に、この「ワンパンチ」暗殺術が使われた例はあったのだろうか。

暗殺といえば毒物や銃を使ったものを想像しがちだが、実はこれまでにも反プーチンの人物たちが、交通事故や首つり自殺などで不審な死をとげた例はいくつかある。

2024年1月には、プーチン氏に批判的だった詩人のレフ・ルビンシテイン氏がモスクワ市内で交通事故死している。そのため、証拠が残らない形でのナワリヌイ氏暗殺というのは否定はできない。
(「イット!」 2月26日放送より)

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