SDGs達成への貢献が注目されているフェアトレード。
開発途上国の原料や製品を適正な価格で購入することで、困窮する生産者の人権と生活の保障を目指している。日本では1990年代頃から広がり、様々な団体や自治体がフェアトレードに取り組んでいる。現状を取材した。
全国3番目のフェアトレードタウン逗子
神奈川県逗子市は全国で3番目にフェアトレードタウンに認定された自治体だ。
この活動は行政だけでなく市民による取り組みが必要とされ、その中心的な役割をしたのが「逗子フェアトレードタウンの会」の共同代表、磯野昌子さんだ。
磯野さんは学生時代に国際協力に関心を持ちバックパッカーとして様々な国を旅する中で、当時日本人が開発途上国に対して持っていた、見下すような感覚を教育から変えたいと思ったという。

「開発教育に携わりましたが教室で教えるだけでは知識は増えても行動は変わらないという想いがあって、取り組みやすい行動の一つとしてフェアトレードを知りました。買い物を通して国際協力ができるんだと。2011年に熊本市がフェアトレードタウンになったことを知り、地元の逗子でもその活動をやってみることにしました。世界の構造を変えるためにまずは地域が変わることが大事だと考えたのです」
毎年5月はフェアトレード月間
フェアトレードタウンに認定されるためには、様々な基準がありその1つが推進組織の設立だ。
昌子さんは2011年から少しずつ仲間を増やし、2015年にフェアトレードタウンの推進組織をつくった。また基準の中には「多様なフェアトレード産品が地元の小売店や飲食店等で提供されている」があり、昌子さんは逗子にフェアトレード認証のチョコレートやコーヒー、雑貨や服を扱うカフェ兼店舗を開いた。
しかしその店舗は経営がうまくいかず2019年に閉店。昌子さんはフェアトレードが市民の意識に浸透するには時間がかかると感じている。
「逗子市の調査(2022年)によると市内でフェアトレードの意味を知っている人は45%と、全国平均の28.5%を超えています。しかし逗子がフェアトレードタウンに認定されているか知っている人となると16%程度とまだまだです」

市民への一層の浸透を図るため、昌子さんは身近な取り組みを続けている。
「毎年5月はフェアトレード月間です。逗子では今年もランチキャンペーンとして、約30軒のカフェやレストランでフェアトレードの食材を使った料理を出してもらう予定です。まずは食を通して知ってもらいたいと思っています」
「ずしチョコ」や「ZUSHI COFFEE」も
昌子さんの長女アサさんも、大学に通いながらフェアトレードの取組に参加している。
「小さな頃から母の活動を見ていましたが、小学5年生の時にフィリピンの児童労働のビデオを見てショックを受け、中学では児童労働に反対する活動に参加しました。でも自分が現地に行って活動することは難しいので、フェアトレードで何か貢献したいと思いました」
逗子では児童労働に反対するNGOがガーナで生産するカカオを購入し、加工したチョコレートを「ずしチョコ」として販売している。また、フェアトレードのコーヒー豆を使用した「ZUSHI COFFEE」も販売しており、アサさんはその一部のパッケージデザインを担当した。

またZ世代であるアサさんは、逗子の学生たちと、「逗子市のZ世代によるゼロエミッション計画」の頭文字Zを並べた「ZZZ」という団体を立ち上げた。
「逗子は自然も豊かだし、ゼロ・ウェイストというゴミをゼロにする活動が以前からありました。そこで同じ想いの学生を集めて、ビーチクリーンをやったりしながら、フェアトレードの普及にも取り組んでいます」(アサさん)
Z世代はどんな意識を持っているのか
アサさんと同じZ世代はフェアトレードに対してどんな意識を持っているのだろう。
アサさんは「同世代から『100円で買えるチョコがあるのに、なんでフェアトレードのチョコは500円以上するの』と言われた」という。
「学生はお金があまりないので、なぜ安いのかを考えずにファストファッションや激安の商品を買ったりします。私がインスタに『こういう問題があるんだよ』と投稿すると、『そうだったんだ』と言ってくれる人もいれば、私の投稿を見なくなる人もいて難しいです」

そしてアサさんはこう語る。
「完璧にやろうとすると行き詰まってしまうので、フェアトレードだから買うじゃなくて、パッケージのデザインが可愛くておしゃれだから買うとか、楽しい、可愛い、お洒落というところから知ってもらって、自分がワクワクする気持ちから何かやれればいいなと思っています」
コーヒー栽培で生産者の生活向上を
「私たちがやっているフェアトレードは輸入団体型、提携型ともいわれています」
そう語るのは認定NPOピースウィンズ・ジャパン(以下ピースウィンズ)のフェアトレード部長、大石雅美さんだ。大石さんは2007年から東ティモールで小規模コーヒー生産者の収入向上事業に関わっている。

ピースウィンズは世界39カ国の紛争・貧困地域で人道・災害支援などを行う国内最大級のNPOだ。能登半島地震でも発災直後から医療などの支援活動を行っている。そのピースウィンズがなぜフェアトレード、コーヒー栽培事業なのか。大石さんはこう続ける。
「東ティモールが独立した2002年当時(※)、ピースウィンズは1999年に起こった騒乱の緊急支援活動を行っていました。東ティモールではコーヒー栽培の歴史が長く、今では国民の4人に1人が何らかの形で関わるという国の主要産業です。そこでコーヒーの品質を高めて生産・販売し、生産者の生活の質の向上を目指しました。資源が少ない国なので、本当にコーヒーが大切なのです」
(※)インドネシアの強制併合を経て、ポルトガルから正式に独立
未来を担う子どもの国造りが楽しみ
コーヒーの産地レテフォホは高度3千メートル級の山の尾根に広がり、現在ピースウィンズでは現地に日本人駐在員を置き約600の契約農家と伴走している。大石さんは「生産者から高品質のコーヒーをより高い価格で購入し、生まれた収益を彼らに還元しています」と語る。
フェアトレードというと日本では、認証型と言われる認証ラベルをつけた商品の輸入販売のイメージが強い。しかしピースウィンズのフェアトレードコーヒーはこの認証を受けていない。その理由を大石さんはこう語る。
「認証型ではトレードに関わるすべての組織が何らかの認証料を支払うと聞いています。ピースウィンズは畑からカップまでのすべてのサプライチェーンを担っているので、都度払っているとどうしても大きな金額になってしまいます。それなら生産者さんのコーヒー買い取り金額を高くしてあげた方が良いという判断で今は受けない事を選択しています」

ピースウィンズの最終目標は、現地の生産者が自立して運営できる仕組みを残すことだ。
「生産者さんたちが競争力のある品質の高いコーヒーを作り続けられる力をつけないといけないと思っています。コーヒー農家を継ぐ子どもたちは先の戦争を知らない世代です。この東ティモールコーヒーの未来を担う子どもたちが、どういう想いでコーヒー生産に携わり国を造ってくかが楽しみですね」
認証で生産者に誇りが生まれる
認証型フェアトレードでは、定められた国際フェアトレード基準を満たす製品にラベルをつけることで、フェアトレードの基準が守られていることを証明する。
基準は経済(最低価格の保証など)、社会(児童・強制労働の禁止など)、環境(農薬の使用削減など)の三つの柱でなりたっていて、原料の生産から加工までの各工程でこれらの基準が守られているかチェックされる。

特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパンの事務局長、潮崎真惟子さんはこう語る。
「認証を受けることで生産者に意思や誇りが生まれ、生産者が自立して消費者とフェアな関係でやっていけるようになると思います。認証料については生産者や団体、企業から頂いていますが、小規模な生産者の場合はほとんど頂かなかったり、無償で支援を行うこともあります。こうした支援の原資となるのが企業から頂くライセンス料で、ライセンス料は国内での啓発活動にも充てられます」

日本のフェアトレード市場は推計で約200億円と言われる。より一層の市場拡大のために様々な企業団体はどのように連携していけばいいのだろうか。潮崎さんはこう語る。
「役割分担が大事だと思っていて、私たちではカバーできない生産者は、国連機関やNGO、NPOが直接支援されています。どんなイニシアチブでもすべての人々を救えないので、私たちはできることをできる人たちに最大限やっていこうと考えています」
組織や個人によってフェアトレードへの取り組み方は様々だが、次の世代へ引き継ぐサステナブルな取り組みであることが大切だ。

(執筆:フジテレビ報道局 解説委員 鈴木款)