夢の実現に向けアメリカをめざすのは大谷翔平選手や佐々木朗希選手だけではない。U20世界陸上選手権1500mで入賞して世界の注目を集めた女子高生ランナーは、アメリカの大学に進学して飛躍をめざす。言葉や生活習慣が違い厳しさも予想される環境を、あえて選んだ。世界選手権で金メダルに輝いたある女子選手の姿が、彼女の決断を後押しした。
田中希実選手も認める逸材
この記事の画像(12枚)2023年6月 国内最高峰の舞台・日本陸上選手権1500mで、高校生で唯一 決勝に進出した女子高生ランナーがいる。浜松市立高校3年・澤田結弥選手(17)、目標は1500mでの世界大会出場だ。日本記録保持者で東京五輪代表の田中希実選手も、その実力を認める逸材だ。
陸上を始めたきっかけは中学3年生の時だ。夏にバスケットボール部を引退した後、脚力をみこまれ たまたま出場した静岡県の駅伝大会でチームを優勝へと導いた。
中学卒業後は県屈指の強豪校の浜松市立高校で本格的に陸上競技を始め、高校2年で出場した2022年6月の東海総体1500mを大会新記録で制覇した。
強豪国ケニアのコーチも衝撃
そして2カ月後の8月にコロンビアで開かれた年代別の国際大会・U20世界陸上選手権1500mでは、U20日本歴代2位の好タイム(4分12秒87)で6位入賞を果たした。
これには強豪国も驚いたようで、浜松市立高 陸上部の杉井将彦監督は、「衝撃をうけたコーチが多かったようで、ケニアのコーチから『あいつはすごいな。次は勝つんじゃないか』と言われた」と振り返る。
身長160㎝、股関節を大きく使ったダイナミックかつスピード感のある走りを得意とし、世界の中長距離界で強さを誇るアフリカ勢にも引けを取らない走りを見せた。
アメリカの大学から誘い
すると、輝き始めた才能に、海の向こうから思いもよらない話が舞い込んだ。レースを見たアメリカの複数の大学から、入学の誘いがあったのだ。澤田選手は「一人で海外に行くことは考えられなかったし、自分には大きすぎるというか」と、最初は断ろうと考えたそうだ。
ただ大学の熱意に動かされ、2023年3月 スポーツ名門校・ルイジアナ州立大学の練習に参加した。その時、世界から選手が集まるレベルの高い環境や、1人1人と向き合い才能を引き出すコーチに惹かれ、気持ちが徐々に「挑戦」へ傾き始める。
世界選手権 金メダリストと自分を重ねて
同時に日本のアスリートにも大きな影響を受けた。澤田選手がケガでインターハイに出られなかった2023年夏に世界選手権で活躍する ある選手を見て、「自分も将来ここで戦いたい」と強く思ったという。
世界選手権のやり投げで日本人初の金メダルを獲得した北口榛花選手だ。北口選手は過去スランプに陥った際にチェコ人のコーチに指導を依頼し、対話を重視するコーチと波長が合って、飛躍的な成長が世界一へとつながったという。
ケガを負い結果も出せず悩んだ自分の境遇を 北口選手と重ねた時、アメリカで出会ったコーチを信じて進学を決めた。
澤田選手は「(ルイジアナ州立大学のコーチは)練習でも一人一人を見てくれている感じがした。『いいね』とか明るく、ポジティブな声かけをしているのが良いと思った」と、コーチの印象を語る。
「高いレベルの中で食らいついていく」
2024年2月現在は語学試験を控えて、英会話のレッスンを行っている。自宅でパソコンを使ってリモートで授業を受ける。思うようにいかないのか、首をひねって照れ笑いをする様子もうかがえた。
アメリカでは「カリフォルニアのディスニーランドなどに行ってみたい」と女子高生らしい希望も口にし、「ディズニーが好きで、ミニーちゃんやプリンセスが好き。シェリーメイは家に3体あります」と、笑顔を見せる。こうした楽しみもモチベーションのひとつかもしれない。
アメリカ挑戦まで決して楽しい事ばかりではないが、数年後 どんな進化を遂げるのだろうか。
浜松市立高3年・澤田結弥選手:
日本よりすごくレベルが高く、その中でまだ自分が活躍できる速さではないので、その中で食らいついていって、アメリカでも日本でも世界でも活躍できる選手になりたい
静岡が生んだ日本陸上界の期待の逸材、澤田結弥。将来、世界を舞台に活躍する姿を見せてくれるはずだ。
(テレビ静岡)