裁判で争われるトランプ氏の“出馬資格”
共和党の候補者指名レースで独走態勢のトランプ前大統領だが、そもそも大統領選に立候補する資格があるのかどうかが裁判で争われている。
最高裁の審理は2月8日に迫っていて、仮に”出馬資格なし“と判断されればトランプ支持層からの猛反発は必至だ。トランプ氏本人も「国内は大混乱になるだろう、パンドラの箱を開けることになる」と連邦最高裁を牽制している。
この記事の画像(6枚)事の発端は、市民団体が2021年1月の連邦議会襲撃事件への関与を理由に、トランプ氏を予備選から除外するよう求めて訴訟を起こしたことだった。
コロラド州の州最高裁は去年12月、トランプ氏は「暴動や反乱に関与した者」に該当し、憲法修正14条3項に則り公職に就く資格がないとして、州の予備選挙に立候補できないと判断した。
メーン州でも同様の判断が示されたが、ミシガン州やミネソタ州の州最高裁などは原告の訴えを退けて、トランプ氏の予備選挙への立候補を認め、州によって判断が分かれている。同様の訴訟は全米50州のうち約30州で実施されていて、連邦最高裁に判断を求める声が高まっている。
トランプ氏は、これまで4つの刑事事件で起訴され91の罪に問われているが、いずれの事案で有罪となっても、大統領選への出馬を禁じる明確な法律や憲法規定はない。
しかし、トランプ氏が去年、大統領への返り咲きを目指すことを表明して以降、アメリカの憲法学者やあらゆる専門家の間で、トランプ氏が憲法に抵触して立候補できないのではないかという論争が勃発した。
出馬を制限する明確な憲法規定はないものの、解釈次第では、トランプ氏の出馬を阻む可能性が取り沙汰されている。
連邦議会襲撃でトランプ氏「地獄のように戦え」
根拠となるのは憲法修正14条3項だ。当該条項では「暴動や反乱に関与した者は、国や州の公職に就くことができない」と定められていて、コロラド州の州最高裁などは、トランプ氏が2020年の大統領選挙の敗北結果を覆そうとしたとして起訴されたことや、支持者が連邦議会襲撃事件を起こしたことが「暴動や反乱」に関与したとの解釈にあたると判断した。
またアメリカの憲法専門家は、トランプ氏が事件当時、自身のSNSで「地獄のように戦え」などと発信していたことが、同条項が適用される理由だと指摘している。
ただ、連邦最高裁は憲法修正14条が制定されて以降150年余の間、同項を根拠とした判決を下したことがない。憲法修正14条が制定されたのは南北戦争直後の1868年7月で、南北戦争で敗れた南軍の関係者を公職から追放するのが目的だったからだ。
トランプ氏側は、憲法修正14条3項は公的役職には適用されるが、大統領職には適用されないと訴えているほか、連邦議会襲撃事件は暴動ではなく、自身は関与していないと反論している。
休眠状態だった憲法修正14条3項…判決次第では大混乱?
名門ニューヨーク大学のロースクールで憲法学を専門とするリチャード・ピルデス教授(67)は、憲法修正14条3項を作成した1868年当時の記録には「大統領職も含まれる」との規定があったとする一方、同条項が作成された4年後には、議会が対象者に恩赦を与えたことから実質4年間しか効力を持たなかったと指摘している。
また、現在に至るまで連邦最高裁で判決が下されたことはなく、同条項が“休眠状態”だったことなどから、今回、トランプ氏を巡り連邦最高裁が示さなければいけない判断の難しさを強調し、連邦最高裁は国民の分断を抑えるためにも判事9人全員の“総意”となる明確な判断を示すべきと話す。
ニューヨーク大学 ピルデス教授:
「今回の審理は、何千万人という支持者がいる候補者、主要政党の大統領候補になる可能性の高い者を投票用紙から外す憲法解釈が適切かどうかという問題がある。今は予備選挙の時期だが、本選挙もあり、裁判所がどんな決定を下そうとも、国民の半分はその決定に不満を持つ可能性が高い」
「私の推測では、裁判所がどのような判決を下すにせよ、この問題に全国的な統一性と明確性をもたらすために、明快で決定的な解決策を示したいと考えているのではないか」
「最高裁には9人の判事がいるが、5対4で判決を出すよりは、9対0で裁判所の総意を示した方が裁判所や国民にとって分断を和らげるために良い」
コロラド州やメーン州の共和党予備選は、3月5日のスーパーチューズデーに行われる。
それまでに連邦最高裁の判断が示されない場合は、トランプ氏は予備選に立候補できるが、仮に「出馬資格なし」の判断が示された場合、大統領選への道が閉ざされる可能性もある。
トランプ氏の命運を握るのは、連邦最高裁の判事9人だ。そのうちトランプ氏が指名した3人の判事を含む6人が保守派の判事で構成されている。判断の行方が注目される。
(FNNワシントン支局 千田淳一)