ジャーナリストの池上彰さんが1月、講演のため長崎市を訪れた。講演を前にKTNの単独インタビューに応じ、長崎の現状と課題、その見通しについて語ってくれた。

長野県生まれの池上氏 長崎との意外な共通点も

約1,400人が注目しているのは、ジャーナリストの池上彰さん(73)。

池上彰さん
池上彰さん
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実は長崎と意外な共通点があった。

ジャーナリスト 池上彰さん:
私の誕生日が8月9日。物心ついた時から自分の誕生日は長崎に原爆が落とされた5年後。本当にずっと長崎への思いを持っていた

池上さんはNHKの記者やキャスターとして経験を重ね2005年に独立。現在ではジャーナリストとしてテレビの出演や執筆、大学での教鞭など幅広く活躍している。今回は池上さんに長崎の話題を直撃。現状と課題、それに見通しを聞いた。

核使用を誇示したロシアへの世界の反応を“ポジティブ”に受け止めた理由

長崎を語る上で外すことができないテーマは、原爆と平和だ。池上さんは学生時代に強い印象を受けたものと長崎で出会っていた。

ジャーナリスト 池上彰さん:
被爆マリア像に衝撃を受けた。これなら欧米の人たちも原爆を落としたことがいかにひどいことか分かってもらえるのではないか。欧米のキリスト教社会にとって被爆マリア像は心に響くんだろうなと思ったのが印象に残っている

――現状の世界の核情勢について

ジャーナリスト 池上彰さん:

ロシアのウクライナへの軍事侵攻で危機的状況になった。危険になってしまったが、逆に言うとプーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせた時に、世界中が驚いた。驚いたということは「決して使えない兵器」だと世界が思っていた。それを脅しに使ったから驚いた。驚いたということを見ると、広島・長崎の訴えが浸透していたからこそ、「使えない兵器」だとみんなが思っていたんだと。私はむしろポジティブに受け止めた


――被爆者の訴えは重みを持って世界に伝わっているのか

ジャーナリスト 池上彰さん:
明らかにそう。米国に行くと年配の人は「原爆は戦争を終結させるために正しかった」という人が多いが、若い人、いわゆるZ世代は「原爆投下はすべきではなかった」と考える人が増えている。広島、長崎が発信してきたことがようやく若い人たちに浸透してきている

”交流人口の増加“のカギを握るのは「民間の力」

長崎の課題の一つが「人口減少」だ。長崎県内はこの30年を見ても人口は減り続けていて、すでに130万人を下回っている。

日本全体で少子高齢化が進む中、池上さんが重要視しているのは海外の観光客を含む「交流人口の増加」だ。その一手として長崎県が誘致を目指しているのがカジノを含むIR=統合型リゾート。池上さんは一定の距離をとった見方をしている。 

――海外からの観光客などインバウンド獲得に向けたIRやカジノの価値は?

ジャーナリスト 池上彰さん:

ラスベガスがIRで成功している。国際会議が開かれ、カジノもある。ラスベガスには宿泊施設が10万室ある。あるからこそ、国際イベントができる。長崎も他も中途半端。結局カジノだけが目的なんだろうというのが見透かされている。カジノならマカオ、韓国・済州島があるよねということになってしまう


――地方都市は人口減少とどう向き合えばいいか?

長崎はスタジアムシティを中心に交流人口を増やそうとしている。大勢の人に来てもらうことにって経済力の低下を抑えることができる。大事なことは役所が陣頭指揮をとって旗を振ってもダメ。県や市は金を使う側、稼ぐ発想がない。民間の力を生かしていくことだと思うし、長崎から離れて行かない、長崎で頑張るんだという所をもっと増やしていくということだと思う

ポストコロナを迎え世界が新たな時代にさしかかろうとする中、被爆地・長崎は都市としてどう存在感を増していけばいいのか。池上さんに聞いた。

――長崎の人間にできることは何か。

ジャーナリスト 池上彰さん:

長崎にも様々な素敵な見るところがある一方で、被爆の実相も知っていただきたいなと思う。原爆を受けたというマイナスのことだけではなく、そこから復興することができたというポジティブな位置づけとして長崎をもっとアピールすることが大事なことだと思う

テレビ番組で見るのと変わらぬ人柄で長崎の話題も分かりやすく解説してくれた。その土台を支えているのは情報収集力。池上さんは毎日11の新聞を読んでいる。全てを読むのではなく見出しを眺めて必要な記事を読み込む方法。長崎で講演する前は地元紙で情報収集をしてのぞんだという。本の執筆は年間10冊以上あり、さらに連載企画も2本担当。6つの大学で半期の講義を持っていてあわせて約1,000人分の採点、評価を行っている。

そんな池上さんのリラックス方法はミステリーを読むこと。最近では「このミステリーがすごい」で1位を獲得した米澤穂信さんの「可燃物」がおもしろかったという。日々活字に囲まれ、生み出す生活をしていることが分かった。

(テレビ長崎)

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