東京・文京区で1月8日、田中角栄元首相の自宅敷地内の建物が全焼した火事。田中真紀子元外相は「ろうそくに火をつけて線香を2本たいた。ろうそくは消した。線香が消えたのは見ていない」と話しているという。

この火事を受け、「線香と火事の因果関係を検証する実験」を行い、その結果を伝えたX(旧ツイッター)の投稿が話題になっている。検証したのは、和歌山・御坊市で仏壇・仏具を販売している株式会社阪本の代表取締役・阪本琢磨さん。

“煙の量の多い線香”で3種の素材を検証

1月12日の投稿で「線香を販売している仏壇店としてかなり気掛かりなので、線香と仏壇周りの燃えそうな物を使って検証してみました」として、その結果をまとめていた。

なお検証で使用した線香は、「煙の量の多い=熱量が多いもの」だという。

そして、火をつけた線香を1本、「畳+畳縁」「経机(お経を読む際に経典を置く机)に敷く防炎マット」「防炎素材では無い導士布団」の3種類の上にそれぞれ置き、燃え尽きるまで見守った。

火をつけた線香と「畳+畳縁」(提供:株式会社阪本)
火をつけた線香と「畳+畳縁」(提供:株式会社阪本)
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気温は16〜20度前後、朝9時~11時にかけて行い、「換気に気をつけて、消化器を手元に置いて行った」としている。

それぞれの結果は…

【畳+畳縁】
焦げ跡は残るが燃える事は無い。 通常、香炉の上で火をつけると燃焼時間は25分程度だが40分程度かかった。燃焼部が接している部分の温度が下がる事で火力が落ちているのかもしれない。
煙の量も焦げ臭さも少なく感じる。

「畳+畳縁」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「畳+畳縁」の検証結果(提供:株式会社阪本)

【経机に敷く防炎マット】
焦げ跡は残るが燃える事は無い。触れる断面が少ないので畳より燃焼時間は多少早い。しかし、煙の量、焦げ臭さともに少ない。元々、防炎を謳っているだけあって安心して見ていられる。 焦げ跡は3つの中では少ない。

「経机に敷く防炎マット」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「経机に敷く防炎マット」の検証結果(提供:株式会社阪本)

【防炎素材では無い導士布団】
焦げ跡は残るが燃える事は無い。置いたそばから煙の量も多く、燃焼が早い。そして何より煙の臭いが強い。炎が上がる事は無いのだが、生地も中綿もポリエステル製なのでそこに燃え移っていると思われる。1番危険を感じました。

「防炎素材では無い導士布団」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「防炎素材では無い導士布団」の検証結果(提供:株式会社阪本)

そして、この投稿をした翌日(1月13日)には、Xユーザーの要望を受け、「煙の少ない線香を使ったらどうなるか」「複数本を使ったらどうなるか」「紙の上に線香を置いたらどうなるか」といった追加検証の結果も投稿。それぞれの結果は…

追加で「煙の少ない線香」なども検証

【煙の少ない線香】
表面、中綿共にポリエステル製の導師布団に、煙の少ないタイプの線香を乗せた。 火が上る事は無いものの、燃焼後、手を差し込んだら火傷するほど熱かった。焦げ跡は煙の上るタイプの線香より明らかに大きい。火災のリスクという観点では煙の少ないタイプの方が危険かもしれない

「煙の少ない線香」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「煙の少ない線香」の検証結果(提供:株式会社阪本)

【複数本】
煙の少ないタイプの線香を3本並べて置いた。 火が上る事は無いものの、チリチリと火種が付いている時があり目が離せない。途中で自然と3本が離れていった。1番気になるのは最後に沈み込むように線香がポリエステル綿に吸い込まれるシーン。条件が整えば出火するかもしれない。

「複数本」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「複数本」の検証結果(提供:株式会社阪本)

【紙の上に線香を置く】 
お供物の下に敷く紙を2枚畳の上に置き、その上に煙の少ない線香を載せた。燃え移るスピードは布団と比較して速いが炎が上がる事は無い。途中で線香が転がったが触れていた部分もしばらく燃えている。最後の燃焼部は畳にまで到達している。

「紙の上に線香を置く」の検証結果(提供:株式会社阪本)
「紙の上に線香を置く」の検証結果(提供:株式会社阪本)

「今回はあくまで一度だけのテスト(検証)」だというが、興味深い結果だったのではなだろうか?

では、そもそも線香が原因の火災は起きているのか?また今回の検証結果を踏まえ、線香が原因の火災を防ぐためにはどのようなことに気を付ければいいのか?

株式会社阪本の代表取締役・阪本琢磨さんに聞いた。

2017年の東京都の「線香」による火災件数は6件

――このような検証を行った理由は?

田中角栄元首相の自宅敷地内の建物が全焼した火事があった後、江戸時代から続く寺院のご住職と立ち話している時に「線香で火事になることは実際にあり得ないと思います、畳に焼け跡ぐらいは付きますが、実際どうなのでしょうか?」と聞かれ、実験してみようと思いました。


――1月12日の投稿は3万9000以上の「いいね」が付いた(1月26日時点)が、反響については、どのように受け止めている?

自分の興味でやってみた実験に、ここまで反響があったことに驚きました。線香を日常的に使っている世代がXには少ないと思うので、その層に届いたのはうれしかったです。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

――実際、線香が原因の火災は多いの?

東京都の「線香」による火災件数、平成29年(2017年)は6件でした。それに対し、「たばこ」は691件、「ガステーブル」は360件、「電気ストーブ」は100件、「差し込みプラグ」は64件です。

文字通り、“煙たがられている”線香ですが、そこまで心配しなくても、と個人的には思ってしまいます。とはいえ、対策をするに越したことは無いと思います。

線香が原因の火災を防ぐ対策

――検証結果を踏まえ、線香が原因の火災を防ぐためにはどのようなことに気を付ければいい?

今回は、あくまで一度だけのテスト(検証)です。それを踏まえてお答えするとしたら、線香が原因の火災を防ぐ対策として考えられるのは、主に以下の3つです。

・防炎加工のしていない化学繊維やビニールを線香の周りから離す
・線香に対して香炉(線香立て)が小さすぎると線香がこけるリスクがあるので、その場合、線香を半分に折って使う
・机の上や仏壇の前に敷く防炎マットが仏壇店で販売しているので、そちらを敷けば、さらに安心です。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

――線香に関して、ちなみに地震のときに気を付けたほうがいいことはある?

地震で線香が飛び上がり、周囲に転がる可能性がありますので、仏壇の前にはごちゃごちゃといろいろな物を置かずに、きれいにしておきましょう。

防災になりますし、何より、お仏壇は「浄土」を表しています。クリーンにしておくことは、本来の意味でも重要です。

また、弊社では地震で線香が飛び上がったりしない「安全な香炉」はないかと考え、開発中です。現在、特許出願中で、今年中には製品化したいと考えています。

東京都での「線香」による火災件数の6件(2017年)だというのはは意外だった。件数は少ないとはいえ、自宅に仏壇があり線香を使っている人は、阪本さんが教えてくれた3つの対策を実践してほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。