2024年になって早々、日本では能登半島大地震や日航機の衝突事故など悲惨な出来事が続いたが、3日にはイランを大規模なテロが襲った。
イランで約100人死亡のテロ…「イスラム国」の犯行
イラン南東部ケルマンで3日、イスラム革命防衛隊の司令官だったカセム・ソレイマニ氏の墓の近くで2回の爆発があり、100人あまりが死亡、200人以上が負傷した。当時、爆発現場にはソレイマニ元司令官の追悼集会に参加するため大勢の人々が集まっており、2回の爆発は15分以内に続いて発生した。

当初、緊張が続くイスラエル情勢から、イランと敵対するイスラエルが犯行の背後にあるとする見方もあったが、その後、イスラム教スンニ派過激組織イスラム国が犯行を認める声明を出し、実行役の男2人が自爆用ベルトを爆発させたと明らかにした。
イラン当局は実行犯に住居を提供した2人とテロ計画・実行を支援していた9人を逮捕し、実行犯の拠点を見つけて爆発物のついたベスト2着や起爆装置2個などを発見したと発表した。また、実行犯の1人はタジキスタン国籍ということも発表している。

イスラム国はこの事件で諸外国に大きな動揺と衝撃を与え、関連組織や同調者によるテロが活発化することを狙っていたのだろうが、テロ事件がメディアに一時的に大きく取り上げられ、諸外国にイスラム国がまだ活動しているというインパクトを与えるにとどまった。政治的なインパクトは限定的と言えよう。
反イスラエル・反米活動への警戒高まる
確かに、今日でもイスラム国やアルカイダを支持する組織はアジアや中東、アフリカなどに存在するが、各地でテロ活動を継続するものの、国際的なテロ活動は極めて限定的だ。

最近はアフガニスタンを拠点とするイスラム国ホラサン州が活動の国際化を強化しているが、イスラム国やアルカイダなどのイスラム過激派の活動が今年大きく変化する可能性は低い。
しかし、昨年秋以降、イスラエル・パレスチナ情勢の激化により、そういったイスラム過激派は反イスラエル、反米の発信活動を強化しており、フランスやベルギーではそれに触発された個人によるテロ事件が発生し、両国はテロ警戒レベルを最高に引き上げた。

今年夏にはパリでオリンピックが開催されるが、今後フランス当局はこういった単独的なテロを中心に警戒、警備を強化していくだろう。
また、中東ではイスラエルと親イランのシーア派武装勢力との間で緊張が続いているが、今後はこの種のテロも懸念される。
少し前になるが、2012年は親イランのシーア派武装勢力が関連するイスラエルを狙ったテロ事件が続いた。
インドのニューデリーでは2月、イスラエル大使館付近を走行していた同大使館の車が爆発し、イスラエル外交館の妻ら4人が負傷した。
また、ジョージアの首都トビリシでは、イスラエル大使館を狙ったとみられるテロ事件が発覚し、タイでもバンコクにあるイスラエル大使館の職員を標的にするテロを計画していたイラン人3人が、アジトで簡易爆弾の誤爆事件を起こして現地警察に逮捕された。
そして、ブルガリア東部で黒海に面するブルガスの空港では2012年7月、イスラエル人観光客らを乗せたバスが突然爆発し、6人が死亡、30人以上が負傷した。爆発はイスラエルからのチャーター機が到着し、イスラエル人観光客がバスに乗った直後に発生した。

イスラエルのガラント国防相は2023年7月、滞在先のアゼルバイジャンの首都バクーで、イスラエルとその同盟国は近年、世界各地におけるイスラエルやユダヤ権益を狙ったイランによるテロ攻撃を50件以上阻止したと明らかにした。
しかし、今年最も懸念されるが米大統領選に伴う極右組織、極右主義者の動向だ。
アメリカ大統領選挙で極右勢力に勢い
1月15日、アイオワ州では米大統領選に向けた共和党候補指名争いの初戦となる党員集会が行われ、トランプ氏が圧倒的大差で勝利し、今年の本選ではバイデンとトランプの再戦が濃厚となっている。

バイデンの支持率は30%あまりと伸び悩んでおり、両者の比較ではトランプ有利とのメディア報道もある。
2021年1月6日、ワシントンの米国連邦議会でトランプ支持者による大規模な襲撃があり、5人が死亡、60人以上が逮捕されたが、前回の大統領選の際は、過激なトランプ主義者だけでなく、プラウドボーイズやミリシアなどの極右勢力、アトムワッフェン・ディヴィジョン(Atomwaffen Division)やライズ・アバヴ・ムーブメント(Rise Above Movement)、ベイス(Base)などの白人至上主義組織のメンバーや関係者、陰謀論「Qアノン」の信奉者などの活動が活発化した。

現在もトランプを支持する極右勢力の勢いは収まっておらず、秋の本選が近づくにつれ、極右過激主義組織、過激主義者の行動が再びエスカレートする恐れがある。
さらに、イギリスのナショナル・アクション(National Action)、ロシアのロシアン・インペリアル・ムーブメント(Russian Imperial Movement)、北欧の北欧抵抗運動(Nordic Resistance Movement)など欧州の極右組織も米国の極右組織と関係を構築しており、米大統領選の流れを受け他国でも極右勢力の活動が活発化する可能性もあろう。
(執筆:一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事 和田大樹)