東大阪市で水回り部品を製造する会社「オーミヤ」。創業から67年を迎えた今、あるチャレンジをしている。

■ユニフォームのデザインを明るくしていきたい

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:ユニホームのデザインを明るくしていきたいなと思いまして。

そう話した社長が意気揚々と着替えてきたのは、なんと、赤色がまぶしい派手なジャケットだ。

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オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:これが第1サンプル。ユニホーム製造業者が『今まで作った中で一番明るいユニホームできたわ』とおっしゃった。

35歳の若手社長が旗を振る、町工場の夢を乗せた挑戦を追った。

■跡を継いだ若手社長 数億円の借金からのスタート

きっかけは2014年。先代の社長が亡くなり、アウトドアメーカーから舞い戻ってきた当時26歳の長男・道野弘樹さんが急きょ、跡を継いだ時のことだ。

その当時、まず道野さんの目に飛び込んできたのは在庫の山だったのだ。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:もう段ボールだらけですね。今後100年でも使いきれないぐらいのパッキンというゴムが山ほどあって、モロモロになっているんですよ。『誰がここに置いていたんだ』みたいなことがありました。

慌てて帳簿を確認すると、数億円の借金があった。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:無理を言って安値で受けてしまった仕事。あとは発注の管理ができていなくて、すでに在庫があるのに余分な部品を買っていた、というのが分かってきて。

社長に就任してからの数年は、倉庫に残った部品を整理する日々。うず高く積まれた資材を処分し、地道に事業を健全化していった。

そして2023年。創業以来、過去最高益を達成したが、町工場ならではのある課題に直面することになった。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:仕事はあるのに、人さえいればもっと仕事ができるのにというのが、ここ数年、かなり多くの経営者から聞くようになっていて。(町工場は)薄暗かったり、何してるんやろうという雰囲気で、人が近寄りにくいのかなと。

仕事はあるにも関わらず、町工場=“暗い”というイメージのせいで、なかなか若者が来てくれない。

道野社長は、自分たちがカラフルに明るくなれば、きっとイメージは変わるはずだと、ド派手なユニホームを作ることにしたのだ。

2022年11月、出来上がったばかりのサンプルを着込んだ社長は、奇抜なデザインを提案したデザイナーたちの元を訪ねた。

手がけたのは、なんと大阪文化服装学院に通うデザイナーの卵たち。社長は、町工場の将来を左右しうるユニホームのデザインを、学生たちに託したのだ。

学生たちにとって、自分のデザインした服が形になるのは初めての経験だ。見た目だけでなく、ユニホームとしての機能性を高めたいと打ち合わせをする。メンバーには、町工場で4年間働いていたという学生もいた。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:この後ちょっと修正しようと思うんだけど、ポケットの位置が高い。フラップがちょっと長いから、かぶる部分を短くして全体を下げたら、ポケットとして使いやすいかなという意見があって。それはいい?

大阪文化服装学院の学生:めちゃくちゃいいと思います。使いやすいのが一番だと思います。

打ち合わせは順調のようだが、道野社長には悩みがあった。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:このセットアップ(上下揃いのデザイン)をみんなに見せていたらね、“ちょっと派手すぎるんちゃうか”と。おじさんには結構きついんちゃうかという話になって。パンツだけは共通のワンカラーを作ってみて、上でカラフルさを保ちながら、もうちょっとみんなが着られるようなデザインになるのかなと。

町工場を明るくするため、派手にしたい。でも、パンツは色味を抑えた方がいいのだろうか…。社長が悩むのは、一緒に働く仲間の気持ちを何より大切にしたいからだ。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:めちゃくちゃいろいろなことを言って、その変化の中で続けてくれる年配の70代の社員さんって本当に心強くて。金属の色の変化を目で見て、このタイミングで溶接するという部分があるのですが、とてもじゃないですが文章に表せられなくて。技術を若い世代に引き継いでいくのも会社の一つの役目なのかなと考えています。

先代が亡くなってからも、道野社長を信じて支えてくれた職人たちの恩に報いたい。そして、その技術を若い世代に引き継いでいきたいという思いがある。

■人手不足の問題はユニホームの製造工場にも…

そして、2023年1月。若手もベテランも楽しんで働けるユニホームを目指す道野社長は、大阪市福島区のユニホーム製造メーカー「三起(みき)」を訪ねた。生地選びや工場探しに奔走してくれている心強い仲間だ。

しかし、納品スケジュールの話題になると…。

三起 専務取締役 安達甲子郎さん:いつ頃が理想的ですか?

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:本当は4月くらいからスタートしたいけど…。

三起 専務取締役 安達甲子郎さん:国内の縫製工場の問題として、外国人実習生がコロナの影響で帰すだけ帰して入ってこないという状況になっていまして、キャパがリアルに半減になっている工場が多いんですよ。

ユニホームを製造する工場の取り合いになっていて、納品までに通常の倍以上の時間がかかるというのだ。ここでも、中小企業の人手不足の問題が立ちはだかる。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:いろんな人に(職場として)選んでもらえさえすれば、仕事はある状況ですよね。

三起 専務取締役 安達甲子郎さん:本当におっしゃる通りで、今も仕事がないというところはなくて、あふれかえっているんですよ。

三起 専務取締役 安達甲子郎さん:いかにその中から抜けて、(中小企業にも)興味を持ってもらえるか、の一つがこれですよね。

それから10カ月が経過し、待ちに待ったユニホームの納品日だ。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:『本当にできるかな?』と思っていて、ようやく。作るのめちゃくちゃ大変だった。

実は当初、製造を依頼した工場が新型コロナの余波で閉鎖。さらに別の工場では難易度の高いデザインを見るや、製造そのものを断られてしまうなど、完成に至るまでいくつもの困難を乗り越えてきた。

そんなユニホームをいよいよ、仲間たちの前でお披露目だ。

従業員たちの目の前に現れたのは、見たことがないほど色鮮やかなユニホーム。赤・青・黄・緑の4色展開だ。パンツはベージュと控えめにしながらも、ポケットと飾りボタンで遊び心を残した。

大阪文化服装学院 舛田圭亮さん:僕の働いていた(工場の)先輩に『ここのポケットがほしい』『ここのペン入れがほしい』とリサーチをして。小銭とか、たばこを吸われる方とかがたばこを入れるときにチャックがなくて落とすことも考えて、チャックがあったり。このような工場服だったらまた働きたいなと思えるようなデザインになっています。

早速袖を通した従業員たちは、みんな笑顔。

オーミヤ 従業員:最初はすごく派手になるかなと思ったんですけれど、思ったよりみんなシャキッと。面白いなと思います。

オーミヤ 代表取締役 道野弘樹さん:少なくとも嫌がらずにみんなが服を着てくれて、ようやく第1歩が踏み出せたなと思うので、ちょっとほっとしています。(町工場の)中から明るくすることによって見てもらえるようにして、その時に、本業のいい仕事、誇りを持っている仕事を求職者に見てもらえれば『この会社いいよな』と思ってもらえると思う。この輪が関西の製造業に広がっていけばうれしいなと思っています。

誇りを持って受け継がれてきた技術は、次の世代にもきっとつながっていくはずだ。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月9日放送)

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