1月1日に能登半島を襲った最大震度7の巨大地震。死者200名を超えいまだ被害の全貌がつかめない中、発生直後から現地で捜索救助・医療支援活動に従事する認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの稲葉基高医師(※)にいまの状況を聞いた。
(※)空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”プロジェクトリーダー
発生当日に出動し陸路と空路で珠洲市到着
稲葉医師は地震発生の1日に金沢から出動し、陸路と空路(能登空港からヘリコプター)で約12時間かけて奥能登の珠洲市に到着した。ピースウィンズでは2023年5月の能登地方の地震の際も、珠洲市で支援活動にあたっていた。
現地では珠洲市総合病院などで医療支援にあたってきたが、当初病院内は「怪我や体調不良を訴える患者さんがたくさん押し寄せていて、外来は混乱した様子だった」(稲葉氏)という。
この記事の画像(8枚)――現地のインフラの状況はいかがですか?
稲葉基高医師:
発生当初は飲み水や食べ物がないという状況でした。いまも断水は続いていて、電気も限られたところしかないという状況です。食事は炭水化物系のものはだいぶ入ってくるようになりましたが、バランスのとれた食事はまだまだ足りていないと思います。ずっとパンだけだと糖尿病になるおそれもあります。また、持病の治療で薬を飲んでいる方でも、薬を持って逃げられなかった方がいらっしゃいます。必要最低限欠くことのできない、いわゆるエッセンシャルドラッグも不足しています。
――避難所ではトイレで排泄物が処理できないなど衛生面の問題があると聞いています。
稲葉基高医師:
当初は避難所のトイレには汚物の山ができていて、我々はそれを掃除するところから始め、袋に凝固剤を入れる方法を推奨しました。しかし珠洲市内で避難されている方が8000人、支援者を入れると1万人がいるわけで、ゴミの回収も進んでいない状況です。
倒壊家屋から救助する医療技術とは
――稲葉さんは6日、被災後124時間を超えて倒壊家屋から救出された90代女性の救助医療措置を行いました。これには特別な技術が必要だと聞いています。
稲葉基高医師:
CSM(コンファインド・スペース・メディスン)と呼ばれる、瓦礫下など閉鎖的空間で救助チームと連携する医療技術です。これまでは倒壊した家屋に埋もれている人を救助して、医師は外か病院で治療するということでしたが、2008年の四川大地震ではクラッシュシンドローム(※)で多くの犠牲者が出たことで注目され医療技術が開発されました。
(※)長時間瓦礫などに挟まれていた傷病者が何も処置をせずに救助されると、突然容態が悪化し体への急激なショックが生じて死亡する病状
――こうした技術が今回女性の命を救ったということですね?
稲葉基高医師:
救出する前に2か所から点滴を施し、不整脈を防ぐように薬剤を投入しました。 CSMは危険な場所に医療者を送り込み、現場で医療と救助が非常に密に連携しないといけない。病院で働いているお医者さんを誰でもよいから連れてきて、『先生、よろしくお願いします』というわけにはいかないのです。私は外務省の国際緊急援助隊で定期的に訓練を受けていたからこそ今回できたのです。
医療活動は時と共にフェーズが変わる
――いま気温が益々下がり雨や雪が降る中で、いまだ瓦礫や家屋の下敷きになっている方にはかなり厳しい状況だと思います。
稲葉基高医師:
普通に考えると非常に厳しいと思います。 ただ今回90代の女性が被災してから約120時間で助かったり、トルコやシリアの大地震でも1週間ぐらい経って子どもが見つかったというニュースもありました。しかしやはり72時間を超えて生存して見つかるのは非常に稀だと思います。厳しい話ですがどこかで線を引いて、手作業の捜索ではなく重機を使った捜索に切り替えないといけません。
――医療活動についても、時間が経つにつれ徐々にフェーズが変わっていくと思います。
稲葉基高医師:
病院に患者が集中するのを防ぐため、我々はいまDMATや赤十字と連携して避難所に医療チームを派遣して診療をやっています。また被災地内では治療に限界があるので、毎日ヘリを使って金沢市に重病な患者から送り届けています。今は病人が優先ですが、間もなく介護やケアの負担が大きい方も被災地から外に送り出していきます。コロナやインフルエンザなど感染症が流行る中、治療リソースの無い環境にずっと置いておくわけにはいきません。
被災地を忘れず関心を持ち続けることが重要
――現地でいま不足している支援物資は何でしょうか?
稲葉基高医師:
一日一日と支援物資のニーズが変わります。3日前は水でしたし、今日は薬でしたが、それもまた変わる可能性があります。物を送るのに何がいいのかというのは非常に難しく、使い古しの毛布や衣類を送ってくださる方々もたくさんいるのですが、そういうものはほとんど使いません。現地でゴミになってしまいます。
――最後に支援活動をしたいものの現地入りを迷っている人たちに対して、アドバイスをお願いします。
稲葉基高医師:
いま現地は緊急支援車両も動けないほどひどい渋滞なので、興味本位で来るのはよくないと思います。ただ関心を持ち続けることは重要で、自分たちは新年会をやって楽しく飲んでいても、そうではない人たちがいることを忘れないで頂きたいし、もし何か被災地のためにしたいということであれば、現地で活動している組織や被災者に直接届く形でお金などを支援するのがいいと思います。
――ありがとうございました。どうぞお気を付けて活動してください。
写真提供:ピースウィンズ・ジャパン
【聞き手・執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】
稲葉医師のウクライナ避難民医療支援の記事はこちら
https://www.fnn.jp/articles/-/345608