ウクライナからの避難民約10万人が流入している隣国モルドバ。首都キシナウの仮設診療所などで支援活動を行っている認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン。医療支援を行っている稲葉基高医師と物資支援を担当するチャンウ・リーさんに現地の状況を聞いた。(聞き手:フジテレビ解説委員 鈴木款)
診察に来る患者の3~4割が男性
――まず現地のピースウィンズの支援体制と避難民の状況について教えてください
チャンウ・リーさん:
ピースウィンズ・ジャパンでは物資と医療支援を行うチームが7名活動しています。避難民の方々はホストファミリーの家やシェルターに滞在しているほか、自分で家を借りている方もいます。オデーサなどウクライナ南部から避難してきた方がいますが、出身地域は多様だと思います。

稲葉基高医師:
私がモルドバに入ったのが3月31日ですが、これまで避難民の数に大きな変化はありません。モルドバは避難民の長期間の受け入れはしていないからです。そもそもモルドバはヨーロッパで最貧国と言われていて、モルドバに一度避難してからさらに別の国に移動する避難民も多い状況です。

ストレスや不眠、子どもは皮膚疾患も
――稲葉さんからみた医療の状況はいかがでしょうか?
稲葉基高医師:
診察には様々な患者さんが来ますが、仮設の診療所的なものなので手術をすることはできません。医薬品についてはウクライナ国内と違って、モルドバで全く手に入らないということはないのですが、避難民の方々が無料で医薬品を手に入れられるかというと必ずしもそういう状況ではありません。

稲葉基高医師:
基本的に避難民に対する医療は無料になっていて、病院の中にある薬は無料で貰えるようですが、処方箋をもらって薬局に行く場合は無料でないことがあるようです。ですから「お金がないから薬がもらえない」と言って、我々に来る方もいらっしゃいます。避難民は女性と子どもが多いのですが、診療に来られる方は3~4割が男性です。男性は高齢者や健康に問題がある方が避難されているので、そうした方々が診療に来ているということです。

――避難民の方々の精神的な状況はいかがでしょうか?
稲葉基高医師:
皆さん、精神的なストレスは非常に抱えられています。頭が痛いと言ってこられて、血圧を測ると200を超えているなど、やはりストレスや不眠が関連しているわけですよね。子どもも何人か診察しましたが、体調を壊していたり、皮膚疾患も結構多いです。慣れない環境でアレルギーが出たり、シャワーを浴びることができても必ずしも良い環境ではないので、湿疹が出ていたり。

稲葉基高医師:
ある子どもは元々難病の指定を受けていて、ウクライナで定期的にケアと診療が必要だったのですが、モルドバでは受けられないと困っていらっしゃいました。
モルドバの現地校に通う子どもも
――モルドバではどのような物資が必要でしょうか?
チャンウ・リーさん:
避難生活が長引いているので、生活に必要な物資全般が必要です。これまでのウクライナでの生活レベルがあって、事態が長期化してもその生活レベルに近いものを提供しなければいけない。

チャンウ・リーさん:
ですから今後日常生活に必要な物資がさらに必要になるし、それを提供することが皆さんの精神状況を悪化させないことにも繋がるかと思います。

――避難されている子どもたちの教育はいかがですか?
チャンウ・リーさん:
いま100人以上の生徒さんがモルドバの学校に通っていますが、それができるのはモルドバにはロシア語で教えている学校がたくさんあるからです。ウクライナ政府が提供しているオンライン教育を受けながら、現地校に通えている生徒もいます。もちろん残念ながら現地校には通えない生徒もいます。

チャンウ・リーさん:
モルドバ政府はさらに避難してくる子どもの給食費を予算化できていないので、各学校が増えた生徒分の給食費を予算内でやりくりしている状態です。
避難民に一番必要なのはお金だと思う
――日本からはどのような医療支援が必要でしょうか?
稲葉基高医師:
モルドバの病院に何が足りないか私もわからないところがありますが、やはり一番必要なのはお金だと思います。避難民の中でもお金がある人とない人が分かれています。

稲葉基高医師:
モルドバではすべての避難民が医療を受けられる体制までは整っていません。避難民の中でも社会的に弱い方がちゃんと医療を受けられる体制を作るのが非常に重要です。

稲葉基高医師:
ですから、例えば日本政府が大量の医薬品や高価な医療機器を送ったとしても、それが本当に避難民のお金がない人のところまで届くかどうかというのは全く別の問題だと思います。
――ありがとうございました

(写真提供:ピースウィンズ・ジャパン)
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】