自民党の派閥パーティー問題で検察の捜査が続くという異常事態の中、永田町は2024年を迎えた。捜査の進展に注目が集まる中、今年の最大の政治イベントは9月に岸田首相の任期が切れる自民党総裁選挙と、それと連動して行われる可能性のある衆院の解散総選挙だ。その行方の最大の鍵を握っているのは、どんなに求心力が落ちようとも現在の総理大臣たる岸田首相その人だ。

好物は納豆 天衣無縫に粘りに粘る政権運営に?

支持率が急落し、厳しい政権運営を強いられる中、岸田首相は、ほとんど落ち込んでいなく、至って元気だと指摘する声は多い。岸田首相の食べ物の好物は納豆だという。そして座右の銘は「自然のままに美しい様」を表す「天衣無縫」だ。岸田首相としては、どんなに政権に逆風が吹こうとも自然体で、粘りに粘って政権を運営していく心境かもしれない。

そんな岸田首相にとって、9月の総裁選までたどりつくためには、3つの関門が待ち受けている。これらを乗り越えて総裁選で再選を狙える政権の体力が残っているかどうかだが、途中で退陣に追い込まれるのではないかとの声も少なくない。

第1関門・予算案の審議とパーティー問題追及

まず立ちはだかるのが2024年度予算案の審議だ。近年、野党の弱体化もあり、予算案の審議はほぼ与党ペースで進んできた。国民生活に関わる予算案や予算関連法案を人質にとるような強硬な国会戦略は各方面から反発を招くことから、野党も控えてきている。

ただ、今年の予算委員会は。予算案の審議と並行して、自民党の派閥のパーティー問題をめぐる追及の場となることは間違いない。安倍派の閣僚が交代したことで野党の追及の対象となるのは、二階派を離脱したものの検察を指揮監督できる立場にある小泉法相と、自見万博相を除けば、自民党総裁である岸田首相自身ということになりそうだ。それに加え、安倍派でパーティー券収入のキックバック不記載が行われていた議員らについては、野党が参考人招致や、政治倫理審査会での弁明を求める可能性があり、捜査の展開次第では国会での証人喚問を要求する展開も考えられる。

証人喚問はあるか

国会議員の疑惑をめぐる証人喚問と言えば、20年以上昔に遡る。鈴木宗男議員が、政治とカネをめぐる複数の疑惑で証人喚問され、その後逮捕された。その前年には“参院の法皇”と呼ばれた村上正邦議員が、KSD事件で喚問され、やはりその後逮捕された。

ただ、今回の派閥パーティー問題のような多くの人物の関与が疑われる事件での証人喚問と言えば、やはりリクルート事件と東京佐川急便事件に遡る。リクルート事件では中曽根元首相が喚問を受け、東京佐川急便事件では竹下元首相・金丸信元副総裁、小沢一郎元幹事長の証人喚問が行われた。いずれも、決定的な証言が出てくることはなかったが、自民党政権のダメージにつながった。

通常国会では、野党がこうした疑惑追及をどこまで強硬に求め、与党がどこまで応じるかが1つの鍵だ。予算の年度内成立が難しくなれば大きな混乱につながるため、岸田首相が予算成立と引き換えに辞任する可能性も指摘される。ただ、不人気の岸田首相を退陣させても野党に得はないというのが実態で、野党がそこまでして予算を盾に岸田政権を退陣に追い込むかというと、考えづらい部分もある。

第2関門 4月の補欠選挙で勝てるのか

そして3月末に予算を無事成立させられたとして、その直後の4月に岸田首相を待ち受けるのが補欠選挙だ。現時点では、細田前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区だけだが、派閥の問題に関する東京地検の捜査の結果、議員辞職や公民権停止に追い込まれる議員が相次げば、補欠選挙の数が一気に増える可能性が指摘されている。

ここで惨敗すれば岸田首相の退陣の引き金になるとの見方や、あるいは惨敗を避けるために補選前に退陣するのではとの指摘が一部である。確かに惨敗すれば首相の責任論は高まるだろう。ただ、この補選については、それまでに岸田首相の大きな失策がない限り、他の誰がやっても自民党にとって厳しい補選になるだけに、岸田首相の心が折れなければ、政権を継続して政治改革関連法案の審議に邁進する可能性が十分考えられる。

第3関門 国会会期末と政治改革関連法案 首相は世論と自民党内の板挟みに?

補選で仮に自民党に厳しい結果が出ても岸田首相が政権を継続するとして、その場合、後半国会は政治改革国会の様相が一層強まるとみられる。ここで国民の理解を得られるような政治改革を成し遂げられるかどうかが、岸田首相の最後の勝負どころとなりそうだ。

岸田首相は2023年12月26日の講演で、国民の信頼回復のためには問題の実態や原因の把握が前提になるとした上で、「少なくとも政治資金パーティーの資金の透明化を図っていくことは必ずやらなければならないことだと思うし、政治資金規正法の改正が議論になることは、十分あり得ると想定をしている」との考えを表明した。

政治資金パーティーの資金透明化は、政治資金収支報告書の記載条件とからむだけに、政治資金規正法の改正が必要になる可能性は高いだろう。具体的には1つの企業・団体が購入できるパーティー券の上限額を現在の150万円から引き下げることや、購入者名の公開基準を現在の20万円超から引き下げ、透明化することなどが想定される。

一方、岸田首相が「問題の実態や原因の把握」と繰り返し指摘しているように、今回の問題に直接関係のあるパーティーに関する改革にとどめるのか、それとも派閥のあり方や企業団体献金の是非、政策活動費の問題という、政治とカネの根本的な改革まで踏み込むのかによって、議論は大きく変わってくる。

立憲・維新・共産などの野党は企業団体献金について、事実上政治家が仕切る政党支部を含む政党への献金やパーティー券の購入なども全面禁止するよう求めている。さらに安倍派がパーティー券収入のキックバック分不記載の理由に使っていた「政策活動費」にも国民から疑問の目が向けられているほか、野党は派閥解消などを突きつけてくる可能性がある。

こうした激しい議論を乗り越え、国民の一定の納得を得られるような法改正ができるのかと考えると、岸田首相は国民世論と自民党内の声の板挟みになる可能性がある。自民党内には企業団体献金や派閥自体は必要であり、政治はお金がかかるものだという考えは強く、野党との激しい論戦になるだろう。会期末には、法案の採決を含め大荒れの国会となり、岸田首相が会期末で退陣して総裁選を前倒しする、あるいは逆に起死回生をかけての解散総選挙を検討する可能性も展開次第ではないとは言えない。

仮に9月までたどりついた首相の姿は?

岸田文雄首相が、このような3つの関門をくぐり抜けて、9月の総裁選までたどりついたとしたら、そのときの姿はどうなっているだろうか。

十分な改革をできず国民の不信を高め、自民党内からも選挙の顔として見放され、辞任に追い込まれる状態になっているのか。一定の改革を成し遂げたものの再選する体力はなく勇退という状況になるのか、それとも関門をくぐり抜ける中で、国民の支持と自民党内での求心力をV字回復させ、総裁選で再選を狙えるような状態になっているのか。

いずれかによって総裁選の構図は大きく異なる。

解散総選挙は総裁選直後が有力視 首相はパリ五輪までは粘る?

いずれにしても、自民党内では、岸田首相が任期途中で退陣すればその時点で、任期を全うすれば9月に総裁選挙を行って国民に自民党の再生をアピールし、その直後に解散総選挙に踏み切って国民の信を問うシナリオが有力視されている。

総裁選の構図がどうなるか、そのボールを現時点で握っているのは岸田首相だ。

政治改革はもちろん、6月には岸田首相がこだわった定率減税が実施されるが、その時点で岸田政権の歩んできた道が国民に批判されるのか、一転して評価されるのかも関係してくるだろう。

岸田首相は、国民からの支持こそ急落しているが、自身の決定的な失政はないとの声も少なくない。政権の腰の定まらなさや説明不足が不信を招いているが、他派閥や過去の政権に起因する問題の処理に追われているためで、やっていることはそれほど間違っていないとの指摘があるためだ。首相自身も内心、そうした思いを抱いているように映る。

7月26日から8月11日まではパリ五輪が開催される。日本選手が活躍すれば、国内の政治不信ムードが和ぎ政権に追い風になる可能性もある。ちなみに夏季五輪開催を目前に退陣した首相は、1972年の佐藤栄作首相以来いない。納豆並みに粘りに粘ろうとしている岸田首相がどのように課題に取り組み、国民にどう評価されるかが、その先の総裁選の構図、そして政界の行方を左右することになりそうだ。
(フジテレビ政治部デスク 高田圭太)

髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー