トランプ大統領のめいで臨床心理士のメアリー・トランプ氏による「暴露本」が7月14日、全米で出版された。「身内によって初めて明かされるトランプ家の闇」と銘打った書は、発売初日に95万部を売り上げるほど注目を集めた。メアリー氏はトランプ大統領が、大学進学の際、成績の良い友人に金銭を支払い、「替え玉」受験をさせたことなどを暴露。

さらに、「叔父は父フレッドに破壊された」として、父親から精神的虐待を受けたことが、トランプ大統領の人格形成に大きな影響を与えたと分析した。その結果、常に「自分は強く賢い人間だと偽り続ける必要があった」と、予測不能なトランプ大統領の行動の背景にある心理を説明している。出版されたばかりの著書から一部を紹介する。

トランプ大統領の人格形成に大きな影響を与えた父フレッド・トランプの存在

フレッドは、子供たちに男はいかなる時もタフであり、嘘をつくことは構わない、誤りを認め謝罪することは弱さだと教えた。フレッドの人生の信条は、勝者は1人だけで残りは全員「負け犬」というものだった。父の教えに見合わなければ厳しく、しばしば公衆の面前で屈辱によって罰せられた。ドナルドは父に認められるために嘘で自分を大きく見せるすべを学んでいった

トランプ大統領と父親のフレッド氏(画像:アメリカABCより)
トランプ大統領と父親のフレッド氏(画像:アメリカABCより)
この記事の画像(4枚)

病弱で入退院を繰り返す母親には甘えることもできず、さみしい幼少期を過ごしたトランプ大統領は父親の理想に近づこうとし、攻撃的な性格になっていったと著者は分析している。

マッシュポテト事件「弱い自分が受け入れられない」

ドナルドが7歳の時、ある事件が起きた。
夕食の席でドナルドはいつもの様に弟をからかっていた。母親が止めても全く聞く耳を持たない。だれにも止めることができず、弟はついに泣き出してしまった。しかし、なおも執拗ないじめは止まらない。その次の瞬間トランプ家の伝説となる出来事が起きた。たまりかねた7歳年上の兄フレディーは目の前にあったマッシュポテトが入ったボウルをドナルドの頭にぶちまけた。

すると、食卓にいた全員が一斉に笑い出し、笑いを止めることができなかった。この経験はドナルドの誇りを深く傷つけた。内心下に見ていた兄に恥をかかされると思っていなかったのだ。

それ以来、ドナルドは二度とそのような気持ちを味わうことを許さなかった。相手を攻撃してでもそれを回避した。(中略)60年以上たった2017年、大統領となったドナルドの招待で親族の誕生会がホワイトハウスで行われた。トランプ一族が久しぶりに集まった席で親族の一人がこの伝説の「マッシュポテト事件」の話を披露し、宴席は楽しげな笑いに包まれた。だが、一人、ドナルドだけは腕を組んでしかめ面だった。この件は今でもドナルドを苦しめ受け入れられないのだ。

幼少期から傍若無人な振る舞いで家族を困らせる一方で、人前で恥をかかされることには強い屈辱感を覚えたことが伺えるエピソードだ。そんなトランプ大統領を父フレッド氏は「頼もしい息子」として認めるようになり、3人の息子の中でも最も寵愛するようになっていったという。

中央:長男フレディー氏(著者メアリー氏の父)アルコール依存症で42歳の若さで亡くなる。向かって右が若きトランプ大統領(画像:アメリカABCより)
中央:長男フレディー氏(著者メアリー氏の父)アルコール依存症で42歳の若さで亡くなる。向かって右が若きトランプ大統領(画像:アメリカABCより)

脱税疑惑:父から息子に受け継がれた錬金術 

ドナルドはニューヨークの不動産ディベロッパーとしての地位を固めていったが、フレッドはドナルドがどのような不正をしているかすべてわかっていた。なぜならそれは全て、父親であるフレッドが教えたことだったからだ。

買収、虚偽、不正行為など、ただ、これらはフレッドにとっては正当なビジネス戦術だった。父と息子にとって最も効果的な戦術は、嘘で固めた仮面戦術だった。フレッドは収入の一部を過少申告し、4人の子供たちが何十年も恩恵を受け続けるほど巨額の脱税を犯して納税者のお金で財布を肥やしていた。

大衆がドナルドのタブロイド紙をにぎわせ続けたゴシップに気をとられている隙に、不良債権、投資の失敗などにも関わらずドナルドは成功者の評判を築いていった。
しかし、ドナルドと父フレッドの違いは、フレッドは不誠実ではあったが、実際に堅実な収入を生み出すビジネスを経営していたのに対し、ドナルドは話を差し替える能力と、幻想を演出する父親のお金を持っていただけだ。

著者は、トランプ大統領が自らを大きく見せる能力にたけているが、実態を伴わないため常に称賛を渇望し、攻撃的な言動で自らの失敗を覆い隠してきたと主張する。

再選すればアメリカの民主主義が終わる

ドナルドは父フレッドが作り出した幻想の中に生き続けなければならなかった。それは自分が強く、聡明で、非凡であるという幻想で、そんなモノは無いという現実を直視することは耐えられないことだからだ。(中略)この本を出版するにあたって私は親族からの批判にさらされた。しかし、叔父の大統領としての失政を3年間見て来て、これ以上沈黙を守ることができなかった。叔父が再選すればアメリカの民主主義は終わるだろう。

著者のメアリー・トランプ氏
著者のメアリー・トランプ氏

トランプ大統領の再選を「民主主義の終わり」と痛烈に批判したメアリー氏。著書はアメリカメディアで大きく取り上げられたが、一方で、大統領選の直前の出版は話題性を狙った「金儲け」ではとの厳しい見方もある。 

メアリー氏は自身の祖父にあたるフレッド氏の遺産分割をめぐり、かつてトランプ大統領や他の親族と裁判沙汰になり、2017年にトランプ大統領と再会するまで20年近く疎遠になっていたと著書の中でも述べている。ちなみに、ホワイトハウスの報道官は「完全な虚偽」と本の内容を否定している。

トランプ大統領をめぐっては、元側近のボルトン前大統領補佐官が6月に政権の内幕を暴露した回顧録を出版したばかり。大統領選まで100日余りだが、トランプ大統領は一度は近しい存在だった人からの相次ぐ攻撃に晒されている。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】
【日本語翻訳:ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。