2023年5月、4年ぶりに開催されたFIFA U-20ワールドカップ(W杯)。南米の地アルゼンチンで、日本代表の10番を背負ったのがセレッソ大阪のFW北野颯太だ。

南野拓実、山口蛍、柿谷曜一朗らと同じアカデミー出身の北野はクラブ最年少得点を記録し、セレッソ、そして日本代表の次世代を担う存在だ。

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後編では、19歳になった“桜の超新星”北野がプロ2年目で味わった試練、そして同世代の仲間が次々と海外で活躍を傍目で見る中で負ってしまった怪我、それでも北野の才能を評価する元日本代表の代表の中村憲剛と香川真司という2人のレジェンドの言葉を紡ぐ。

試練となったプロ2年目

2023年1月、宮崎県でキャンプを張るセレッソ大阪の練習場を訪れた。

デビューシーズンだった昨季は、リーグ戦19試合に出場するも先発出場はわずか2試合で得点なし。試合途中からの出場が多かった北野は、この日も新シーズン入りへ向け、またレギュラー奪取へ向けて精力的に練習を積んでいた。

2月に入り、迎えたプロ2年目のJ1開幕・アルビレックス新潟戦。チーム事情でフォワードを欠いていたセレッソ大阪は、北野をスタメンに起用することを選択した。18歳というクラブ史上2番目の若さでのスタメン抜擢となった。

しかしその後活躍する姿は見せられず、開幕戦から5月までの約3カ月、リーグ戦は全12試合中、出場はわずか3試合。去年輝きを放ったルヴァンカップで出場機会は得たものの、プロ1年目のニューヒーロー賞を受賞した時の輝きは影を潜めた。

レジェンドたちも認める逸材

それでも苦境に立ち向かう逸材に太鼓判を押すレジェンドたちがいる。

北野を評価する中村憲剛
北野を評価する中村憲剛

1人は川崎フロンターレ一筋、元日本代表の中村憲剛氏(43)だ。実は2021年に、U-17日本代表に選出されていた北野をロールモデルコーチとして指導していたのだ。

「2021年に北野選手はまだ高校2年生でしたけど、ロールモデルコーチとして数回、北野選手と一緒にコーチとして組んで。彼を選手としてその時初めて見て、『面白い選手だな』というのが第一印象。遠いところからロングシュート打ってみたり、テクニックがあってスピードがあって守備もできてっていうところで、こういう選手がセレッソ大阪の選手かって思いました。

香川選手や清武選手、彼らのような系譜の選手だと僕は思ったので、『セレッソ産』だなっていうのは感じたんですけど。昨シーズン途中から出てきて、僕も携わっているので思い入れあるわけじゃないですか。

すごく伸びるんだなと、育成年代ってすごいなって改めて感じましたね。初めて会った時からニューヒーロー賞を受賞するまで1年経ってないと思うんですけど、すごい変わるなって。だから非常に楽しみにしています」

そしてもう1人、北野の才能を認めている先輩がいる。

北野を評する香川真司
北野を評する香川真司

それが今シーズンセレッソ大阪へ12シーズン半ぶりに復帰し、2014、18年と2度のW杯に日本代表の10番として出場し、ヨーロッパで多くの功績を残してきた、香川真司(34)だ。

「彼の中では苦労している1年。言ってみたらプロ2年目のような感覚だと思うので、結果、数字がなかなか出なかったり、思い悩むところはあったと思うんですけど、ボールを持ってターンして前に仕掛ける時、迷いがない時の颯太は脅威ですし、自分よりも可能性は断然上ですし、どんな可能性も秘めていると思うし、世界に羽ばたける選手だと思っています」

レジェンド2人から太鼓判を押される北野だが、プロデビューからリーグ戦は22試合得点を挙げることが出来ずにいた。

結果を残せない中で見せたゴールという輝き

この悔しい状況に対し本人も複雑だった。

「たくさんの方が応援してくれて、高校生の時から小菊(昭雄)監督にずっと使い続けてもらって、なかなか結果を出せずに悔しい気持ちを残したまま本当に色んな感情がありましたね」

プロ2年目の試練。代表で痛感した世界との壁。人生最大の悔しさを糧に迎えた、6月のリーグ前半戦、最後の試合の相手は、同じ関西を拠点に首位を走っていたヴィッセル神戸。

U-20W杯を終えて迎えた最初の試合、1ー1で迎えた後半33分に出場のチャンスが巡ってきた。すると試合終了間際の後半アディショナルタイムにキーパーのミスを見逃さず、冷静にゴールに流し込んだ。ゴールの裏のセレッソ大阪サポーターは歓喜の声を挙げた。

「あの歓声は忘れられないですし、やっぱりゴールをもっと決めて、これだけのお客さんをまた湧かせたいなとか思うようになったんで。あのゴールは本当にそういう意味でも次へのモチベーションになりました」

この日のスタジアムには、本拠地のヨドコウ桜スタジアムで最多動員数となる2万2542人のサポーターが試合を観戦。サポーターたちの歓声は北野を動かす大きな原動力になっていた。

悔しさ、苦しさを乗り越えてようやく掴んだJ1初ゴール。レジェンドたちが認めた逸材は、もがき悩みながらも着実に成長を続けていた。

誕生日直前の北野
誕生日直前の北野

8月13日に19歳の誕生日を迎えた北野。間近に迫った誕生日を前にバースデイサプライズメッセージを用意した。

メッセージの送り主は、北野が普段からよく音楽を聞いているアーティストで、多くのMCバトルに出場し功績を上げ、注目を集めている宮崎県出身のラッパー・GADOROだった。

GADOROのメッセージに喜ぶ北野
GADOROのメッセージに喜ぶ北野

「日頃より僕の音楽を聴いてくれて本当にありがとうございます。もうすぐ19歳の誕生日を迎えられるということで本当におめでとうございます。これからも北野選手にとっての原動力になれるような音楽を作っていければと思っております。

北野選手のセレッソ大阪での活躍も楽しみにしております。お互いサッカーボールのように白黒けりつけてこれからの人生戦っていきましょう。GADOROでした。ありがとうございます」

GADOROからのサプライズに驚きすぎて思わず言葉を失う北野。満面の笑みを浮かべる様子を見るに、とても大きなメッセージとなったようだ。

19歳の苦悩と、キャリア初の“怪我”という試練

ようやく初ゴールを挙げ、少しずつ道を切り開き始めた北野。

しかし共に闘ったライバルたちは着実にさらなる歩みを進めていた。

バイエルン・ミュンヘンに所属する福井太智
バイエルン・ミュンヘンに所属する福井太智

W杯後、日本代表で共に闘ったDF松田隼風がドイツ2部のハノーファーへと移籍。また同じく日本代表で闘ったMF佐野航大がオランダ1部NECへと移籍。新天地を海外に求めた。

さらにパリオリンピックを目指すU-22日本代表には、松木玖生(FC東京)や、ドイツで成長を続ける福井太智(バイエルンミュンヘン)、 福田師王(メンヘングラッドバッハ)といった共に闘ったメンバーたちが名を連ねていた。

まっすぐ前を見据えながら胸中を明かした
まっすぐ前を見据えながら胸中を明かした

北野の胸中を車中で聞いた。

「同世代の選手たちが海外に行っているので、俺ももちろん行きたいところではあったし、W杯を経験してより行きたい、早く行きたいと思いました。みんなどんどん海外へ行っているので、いい刺激は受けます。
(まずセレッソ大阪で)スタメンで起用される選手になりたいと思っているので、ベンチスタートになってもそんなに大きな気持ちの変化やダメージはないと思いますけど、悔しさはもちろんありますし、スタメン出場して自分がチームを勝たせるというのはまず大前提にあるので、メンタル的に変わることはないと思いますね」(※取材時成績/第22節終了時点7試合出場1ゴール)

――試合に出場していない時でもメンタルは保てている?
腐るとかそっちに走るとかそういうことはないんですけど、より悔しさは増すと思うし、スタメンを狙っていて、ベンチにも入れないってなったら2つレベルは下がるので、メンタル的にもそっちの方が辛いですね。
現状では満足できないですし、途中出場が多い状況ですけど、ゴールをとってスタメンを勝ち取っていかないと世界にはいけないと思うし、危機感はあります。


W杯を経験し、世界の壁を痛感したからこそ芽生えた意識。再び世界に挑むために、腐らずに再び歩きだした19歳。

リハビリに励む北野
リハビリに励む北野

しかしその矢先で思わぬ出来事が北野を襲った。

10月、北野はトレーニング中に、右膝半月板損傷の大怪我を負う。

北野にとってはキャリアで初めてとなる大怪我となってしまった。

長期離脱により再びのしかかる試練の時。

リハビリ中にその想いを語った
リハビリ中にその想いを語った

「びっくりしましたし、最初はショックでしたね。本当にこの時期を大切にするしかないと思っているんですけど…。みんなの活躍は真摯に受け止めて、先輩方からや同世代で活躍している選手にも元気もらって、この時期はポジティブに考えられるようになりました。この期間があったからこそ、これからの活躍があるって言える時間にしたいです」

世界に羽ばたくために、再び日の丸の10番を背負い世界と戦うために、北野颯太の闘いは続く。