2023年5月、4年ぶりに開催されたFIFA U-20ワールドカップ(W杯)。

南米の地アルゼンチンで、日本代表の10番を背負い、初めての世界大会に挑んだセレッソ大阪のFW北野颯太、19歳。

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南野拓実、山口蛍、柿谷曜一朗らと同じセレッソのアカデミー出身の北野は、トップチームに上がるとクラブ最年少得点を記録。セレッソ、そして日本代表の次世代を担う存在だ。

前編の本稿では、“桜の超新星”北野のこれまでとその素顔、そして代表で直面した大きな壁について迫った。

北野颯太が1年目で残したインパクト

2022年2月19日、J1リーグ開幕節の横浜F・マリノス戦、後半35分から出場し、J1デビューを飾った北野颯太。クラブ史上3番目 (当時)の若さとなる、17歳6カ月6日でピッチに立った。

中学・高校時代からセレッソ大阪の下部組織で育った和歌山県出身の北野は、デビューから6日後の2月25日に念願のプロ契約を結ぶ。

そして3月、プロ初戦となったルヴァンカップ・鹿島アントラーズ戦で、現日本代表でクラブの先輩でもある南野拓実選手が持っていたルヴァンカップでのクラブ最年少得点記録(18歳2カ月7日)を更新する、17歳6カ月17日でのゴールを記録。

その後も17歳ながら出場機会を増やした北野は、ルヴァンカップで10試合に出場し、3ゴールをマーク。その活躍が認められ史上初となる高校生でのルヴァンカップニューヒーロー賞を受賞した。

この受賞に対し北野は次のように語った。

「監督が期待を込めてしっかり試合で使ってくれたおかげでもあるし、これまで色々な方々に支えてもらってここまで来れたと思うので、この賞で満足することなく、この賞を励みにもっともっと成長したいと思います」

ニューヒーロー賞とは、該当シーズンの満21歳以下の選手で、ルヴァンカップのグループステージから準決勝までの試合で最も活躍した選手へと贈られる賞だ。

日本代表への登竜門とも言われているこの賞は、過去に、フランクフルトに在籍している、元日本代表のキャプテン長谷部誠、元日本代表で浦和レッズやジェフ千葉で活躍し、北野も選出されたU-17日本代表にもロールモデルコーチとして帯同していた阿部勇樹氏も受賞。

さらに18年のロシアW杯日本代表に選出された原口元気・宇佐美貴史、そして2023年3月にフル代表デビューを飾り6月のエルサルバドル戦で代表初ゴールを決めた中村敬斗など、錚々たるメンバーが受けている。

北野を起用し続けてきた、セレッソの指揮官・小菊昭雄(48)監督の評価も高い。

「我々のクラブから出た日本代表、海外に旅立った選手はたくさんいるんですけど、颯太は歴代の選手たちに負けないポテンシャルを兼ね備えていますので、これからもっともっと高い目標を持って、将来セレッソ大阪を代表するだけでなく、日本を代表する選手になってほしいと思いますし、それだけの能力は持っている選手だと思っています」

これまで香川真司や清武弘嗣、南野拓実や乾貴士など多くの日本代表選手を輩出してきたセレッソ大阪。長きに渡ってクラブに携わってきた指揮官も、桜の超新星に太鼓判を押していた。

日本代表の10番として味わった厳しい結果

2023年5月8日、U-20 W杯のメンバーが発表された。

アルゼンチンで笑顔でインタビューに答える北野
アルゼンチンで笑顔でインタビューに答える北野

U-20アジアカップに続き日本代表へと選出された北野に与えられた背番号は10。エースナンバーを付けて世界大会に挑むこととなった。

1999年大会に日本が収めた過去最高成績である準優勝を超え、大会初の優勝を目指すために選出された21名。

冨樫剛一監督(52)はメンバー構成について「予選で当たる3チームを想定した中で自分たちのウィーク(ポイント)を、よりストロング(ポイント)に変えていけるようなメンバー構成をして、選出しました」と語った。

北野に10番を託した冨樫監督は、どこに期待しているのか?

「私たちチームの評価としては、チャンスメイク、また攻守に渡る貢献というのは非常に高かったと思いますし、彼はもっとできる。また、もしかしたらW杯の方が、プレーしやすいのかもしれない。

相手はもちろんレベルが高いので、私たち日本をリスペクトしてくることもないだろうし、そうなった中、攻守において自分たちがプレーできる機会が増えてくるのかなと思っているので、彼自身のプレーが生きてくるのではないかなと思います」

試合はアルゼンチンで行われた
試合はアルゼンチンで行われた

U-20W杯の舞台は、去年開催されたカタールW杯で優勝を収めたアルゼンチンだ。

大会前、北野はこう語っていた。

「やっぱり結果しか見ていないというか。もちろんチームの勝利のためにハードワークする事は当たり前のことなんですけど、その中で自分の価値を示すには結果しかないと思うので。自分のゴールでチームを勝たせられるように頑張ります」

日本はセネガル・コロンビア・イスラエルの3カ国とグループステージを争った。

初戦のセネガル戦、日本は前半に生まれたキャプテン・松木玖生の決勝点を守りぬき白星発進。しかし続く第2戦のコロンビア戦は先制するも逆転負けを喫すると、第3戦のイスラエル戦も連続で逆転負けを喫してしまい、グループステージ敗退で大会を終えることとなった。

北野は活躍する姿を見せることができなかった…
北野は活躍する姿を見せることができなかった…

北野自身も第1戦から先発出場し、全3試合に出場したが、世界の壁は高く、ストロングポイントであるファーストタッチで相手をかわすプレーは影を潜めた。結果としてゴール、アシストをともにあげることができず、目に見える結果を残すことができないまま、大会を終えた。

「今までに味わったことない悔しさというか、W杯で感じたものっていうのは本当に今までで一番大きいものを得られました」

第3戦の翌日、北野は更にカメラの前で心境を吐露した。

「自分の力の無さであったり、力不足だなということばかりで、充実した大会ではなかったと思うし、課題の方が多く残った大会でした」

日本代表にとっても北野にとっても悔しい大会となった。

19歳の逸材が見せる素顔

W杯から約2カ月が経った8月、大阪市内にあるセレッソ大阪寮を訪ねた。

去年から親元を離れ、寮で生活をしている北野に、自身が生活をする部屋を見せてもらった。

部屋一面にユニフォームが
部屋一面にユニフォームが

部屋には北野が対戦してきたライバルたちのユニホームが多く飾られていた。
その中でもお気に入りユニホームは、ドイツ王者でリーグ11連覇中の名門・バイエルンミュンヘンに所属する、福井太智のものだという。

福井太智のユニフォームを持つ北野
福井太智のユニフォームを持つ北野

今年1月にJ1のサガン鳥栖からドイツに渡った逸材は、北野とは同じ2004年生まれの同級生で、U-20 W杯でも共に闘った選手。大会後にはバイエルンミュンヘンでトップチームデビューも飾った注目の選手だ。

福井太智のユニホームは鳥栖時代のものもあり、2人の仲の良さを窺うことができた。

部屋を紹介してもらったあと、仲の良い同期たちと過ごすランチタイム。食堂にいたのは同い年のMF阪田澪哉と大迫塁の2選手。この2選手や、アカデミーの選手たちは、親元を離れて北野同様に寮での生活を送っている。

談笑する北野と阪田澪哉、大迫塁
談笑する北野と阪田澪哉、大迫塁

普段から共に過ごす同世代の選手たちは北野のことをどのように思っているのか?

――阪田選手や大迫選手から見て、北野選手はどういう人?
阪田:
ピッチとピッチ外のオンオフはある人で、ピッチ内ではしっかりやっていますが ピッチ外では子供みたいな感じで可愛いです。

大迫:
赤ちゃんです。名前呼ばないだけで「名前呼んでや~」ってくるし、アホです(笑)。偶数とかわからないですよ(笑)。


場が和み、笑いが生まれたところでキッチンでは昼食ができたようで、北野の名前が呼ばれた。栄養とスタミナは満点だ。

そのタイミングで食堂スタッフにも話を聞いた。

――普段の北野選手はどのように映っている?
ムードメーカーみたいな感じで和気あいあいとしていますね。でも試合の時はピリッとした雰囲気を見せたりして大人だなと思うこともあります。

同世代であり仲の良いメンバーは、サッカー以外の時間にどのようなことをしているのか?

北野:
彼(大迫)の部屋でみんな仲良くゲームしたり、Youtube見たりしています。みんな楽しそうにしています。

大迫:
勝手に入ってきます、こいつら(笑)。何回かめちゃくちゃ怒っています。

――急に突撃されたりするんですか?
大迫:
(北野は)逆ギレしたりするんですよ、 「じゃあもう出ていって!」って俺の部屋なのに。(阪田)澪哉はそういうの察して、「もうやめろよ、やめろよ」って止めるんですけど、こいつはアホなんで気づかないんですよ(笑)。


終始仲の良さが見れたところで現れたのは寮長だ。

――寮長から見た北野の素顔は?
他のトップチーム選手と過ごす中で、自覚というか、トップ選手とやっていく中で自分自身に足りないものや、通用するものがわかっていって、成長していこうとする過程は感じますね。責任感とかも出てきているかと思います。


ピッチ内外でのオンオフはありながらも、プロの舞台を通して周りに成長した姿を見せているようだ。


これまで北野の鮮烈なデビューと、日本代表で直面した苦悩、そして19歳の少年らしい素顔と成長を伝えた。後編では、プロ2年目で味わった試練、そして負ってしまった怪我、それでも北野の才能を評価する元日本代表の代表の中村憲剛と香川真司という2人のレジェンドの言葉を紡ぐ。