道路交通法と各都道府県の道路交通規則で禁止されている「抱っこしたままでの自転車走行」。

転倒や転落事故が報告される中、警察庁は自転車での悪質な交通違反に対し、反則金を課す「青切符」の導入を決めた。

反則金は5000円から1万2000円ほどとなる見込みで、信号無視や一時不停止なども含まれるが、抱っこ紐を着けての走行の危険性と子どもの体に与える影響について、交通事故鑑定Raptorの中島博史所長にきいた。

走行中の重心移動に影響

ーー抱っこ紐での走行は何が問題?

抱っこ紐での走行は罰則規定があり、禁止されています。

その理由は、バランスが取りにくくなり、運転操作の妨げになる可能性があるからです。

交通事故鑑定 Raptor・中島博史所長
交通事故鑑定 Raptor・中島博史所長
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抱っこ紐の場合、子どもを親の体に密着させられないことが危険因子になります。

抱っこ状態だと、体の軸になる背骨から離れているので、振り回されやすくなりバランスを崩す大きな原因となります。

また、赤ちゃんが手足を動かした時、ハンドルを操作している親の腕に当たりブレーキ操作が遅れたり、ペダルを漕いでいる足に当たって思いがけないミスを誘発する要因にもなります。

罰則の対象となる“抱っこ自転車”
罰則の対象となる“抱っこ自転車”

ーー走行中のバランスは“背骨”が軸?

自転車で曲がる時は、左右への重心移動で曲がります。

体を傾けた内側の方に曲がりますが、その時に抱っこ紐で赤ちゃんを抱えていると、どうしても軸となる背骨から離れているので、赤ちゃんの体重が“重り”となり振り回されてしまい、バランスを崩す危険性があります。

(イメージ)
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一方、背中側におんぶしている場合は、背骨に密着しているので、抱っこに比べたら安定して赤ちゃんを固定できるため、おんぶは許可されています。
 

ーー“おんぶ”の方が安全?

転んでしまった場合は、おんぶでも抱っこでも、危険性はそんなに変わりません。
落下距離が大きいので、赤ちゃんは首や頭に非常に大きなダメージを負いかねないです。

ただ、おんぶの方が背中に密着し「倒れにくい」ということで許容されているのだと思います。

子どもの頭や首に大きな負担

一方、子どもの体への負担も極めて問題だと中島所長は話す。

ーー子どもへの影響は?

1歳以下の子どもは首がまだ座っていないので、自転車の振動は頭蓋や頸椎に負担となり、望ましくありません。

頚椎に負担がかかった時、それを筋肉で支えられないので、自転車に乗って振り回される行為そのものが赤ちゃんにとっては負担になります。

転倒しないまでも、よろけた時にとっさの反応でかかる遠心力や、「慣性の法則」でかかる力でも、赤ちゃんはダメージを負いかねません。

 
 

ーー首が座っていないからおんぶが出来ず「抱っこ」にしている親が多いが?

「首が座っていないから抱っこ」という話ではなく、その状態の赤ちゃんを自転車で移動すること自体が危険です。

走行中の振動が望ましくない上、頭を保護するためのヘルメットやシートもないので、万が一、転倒した時に子どもを守る仕組みがありません。

(イメージ)
(イメージ)

親の利便性のために自転車に乗せるということは非常に危険です。生活上、不便はあると思いますが、ベビーカーで出かけることをお勧めします。

ヘルメット開発は困難

“抱っこ自転車”については、2017年以降の約6年間で、転倒や転落事故が32件発生し、国民生活センターは注意を呼び掛けている。

こうした中、いわゆる“ママチャリ”で使用できる1歳未満の子ども用のヘルメットやシートはなぜ製品化されないのか。

“抱っこ自転車”での事故(提供:国民生活センター)
“抱っこ自転車”での事故(提供:国民生活センター)

ーーなぜ1歳以下の子どもに対応したヘルメットやシートはない?

問題は2つあります。

まずヘルメットは、頭を守れる強度あるヘルメットだと、1歳以下の赤ちゃんにとって重すぎて負担になってしまいます。

そして、シートは、赤ちゃんの首が座っていないという点が大きく、もし作るとなれば自動車のベビーシートのような形になりますが、それは重すぎて自転車に取り付けるのは難しいという問題があります。

開発されていないわけではありませんが、三輪自転車ならば後ろに固定できますが、三輪自転車そのものが普及していないため、製品化は難しいと考えられます。

これらの点から、1歳未満の赤ちゃんを自転車に乗せるのは避けていただきたいと思います。