10月29日に行われた「全日本大学女子駅伝」で、3区を走っていた大阪芸術大学の菅﨑南花選手(2年)が、中継所手前250メートル付近で足が止まり何度も転倒。よつんばいになって懸命に進むアクシデントに見舞われた。

タスキは何とか4区につないだが、その後は補助員に抱えられてコースの外へ運ばれた。

箱根駅伝で青山学院大学を6度の総合優勝に導いた原晋監督に、今回の審判員の対応について聞いた。

対応に一律のマニュアルはない

ーー今回の菅﨑選手の状況をどう見る?

事前の調整段階で体調が万全ではない中でスタートラインに立った可能性もあるし、3区だと午後1時過ぎで気温が一番高くなるタイミングなので、熱中症的なものにかかった可能性も考えられます。

また、脱水症状の可能性もありますが、日々鍛えて全国大会に出るレベルのアスリートですから、強化トレーニングもしているし、スタート段階で何らかの不安を抱えていた可能性の方が強いような気がします。

青山学院大学 原晋監督
青山学院大学 原晋監督
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42.195キロといった長い距離でもなく、真夏の大会でもないので、一般的には命に危険を及ぼすほどの状況になることはほとんど無いです。

まずは、スタートラインに立つ段階で選手がどういった状況だったのかを検証する作業が求められると思います。

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ーー原監督だったらどう対応した?

ケースバイケースで、選手の日ごろのトレーニングを見て、体力、精神力、あるいは、直前の状態で総合的に判断します。

アスリートの生の競技なので、一律にマニュアルで決められるものではありません。

一般の市民ランナーとトップアスリートの大会の取り決めは同じではないことも、考えていく必要があります。

ただ、監督の指示がしっかりと現場に伝わって、監督が「危ない」という判断をしたならば、即座に対応できる状況を整備することは必要だと思います。

審判に判断を押し付けるのは問題

選手の諦めない姿や審判の対応に賛否の声が上がる中、原監督は、レース続投か否かの判断を審判に押し付けるのは問題で、監督と密に連絡を取り合って決める仕組み作りが重要だと指摘する。

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ーー審判が判断する基準は何?

箱根駅伝では、選手が蛇行したり走行不可能な状況に陥った時は、審判の判断で停止するという基準を設けていますが、選手個人の資質によっても状況は違うので、そこはグレーゾーンの部分が非常に大きいです。

それは日頃選手を管理している監督が、選手の安全を確保しつつ、競技に向き合う姿勢を取るというバランス感覚が必要で、監督の見立てによって判断をしていかざるを得ないという考え方があります。

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アマチュアスポーツではなく、日頃から鍛えている選手なので、素人の見立てとは若干異なることも出てきます。

「この選手なら何とかタスキを渡せる」と監督が思っても、一般の人から見たら「可哀想、危ない、止めろ」というふうに意見は分かれます。

生身の人間なので判断はとても難しいです。

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ーー競技中に選手の体調不良が認められた場合、どう対応すべきか?

何かトラブルがあった時は監督と審判が密に連携がとれる仕組みづくりが必要で、監督が「止めてほしい」と判断した場合は、その指示が即座に審判に伝わり対応できる制度が不可欠だと僕は思います。

見た目では危なそうでも、この選手はこういう状況でも頑張れるというケースもあり、見た目と実際に起こっている現象が異なることも多々あります。

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それがスポーツの世界で、マニュアルでは語れない部分です。
選手の健康、安全を守るというのは当然ベースにありますが、一般の方々の見方と、日頃学生と接している監督の見る目では若干異なってきます。

駅伝では“審判長”の車を走らせているはずなので、選手が蛇行していたら審判長が車で駆けつけて状況を把握することは容易にできるはずです。

それで監督と連絡を取って判断するべきで、審判員1人に責任を押し付けるのは酷だと思います。

箱根駅伝の場合は、運営管理者が選手の後ろについていますから、監督が「止めてくれ」と言ったら即座に対応してもらえます。

能力、距離、外的要因で総合的に判断

倒れては立ち上がるを繰り返して3区を走り切った菅﨑選手。

原監督は駅伝が持つ「団体スポーツ」という一面が、判断をより難しくしていると話す。

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ーー残り約250メートルだと判断が難しい?

一度だけの蛇行なら回復することもありますが、2、3度転んでいる状態はもう体が悲鳴を上げて危険なサインなので、一般的には止めるべきだと思います。

ただ、駅伝競技は個人競技と団体競技の両側面があるので、複雑な絡みが出て来ます。
チームとして戦う競技ですから、そこには団体スポーツとしての“やりきる力”というメカニズムが働きます。

非常に難しい問題で、審判や監督を責めるという議論にはしたくないです。

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ーー原監督の判断基準は?

選手の日頃のトレーニングを見て判断します。

脱水症状が出る選手は体質的に決まっていて、確率的に出ない選手は出ません。

よって、選手の能力や大会当日に至るまでの体調管理を見てスタートラインに立たせた上で、もし1週間前に熱を出した選手がレース中にふらふらになったのなら即座に止めるし、体調が万全な選手がふらふらになったのなら「最後まで大丈夫だろう」と判断するかもしれません。

それは選手個人の能力とスタート時の状況、残りの距離、気温や湿度などの外的要因をトータルで見て判断します。