終息見えない中東ガザ情勢
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘がエスカレートして2カ月が経過する。
今回の発端はハマスによる攻撃だったが、既にイスラエル軍の対応は倍返しをはるかに超えたもので、ガザ地区への攻撃は人道危機を深刻化させ、パレスチナ側の犠牲者数は2万人に迫ろうとしている。

ネタニヤフ政権はハマスの根絶を目指しており、いつ攻撃が終息するかは分からない状況だ。仮に今後攻撃が停止されたとしても、イスラエルへの憎悪や復讐心というものは色濃く残ることは避けられない。
欧米諸国や欧米権益を狙ったテロ
一方、国際テロ情勢の中では、今日クリスマスシーズンに欧米諸国や欧米権益を狙ったテロが強く懸念されている。
中東情勢が激化して以降、アルカイダやイスラム国などイスラム教スンニ派の過激派、親イランのシーア派武装勢力などは、ネット上でイスラエルや米国を攻撃する、または攻撃せよとイスラム教徒に呼び掛ける声明を発信し、欧米ではそういった呼び掛けに触発されたかのようなテロ事件が発生している。
フランス北部アラスでは10月13日、ナイフを持った男が地元の高校を襲撃し、教師1人が死亡する事件があったが、地元警察は実行犯の男がロシア国籍のチェチェン系で、男は犯行当時アラビア語で神は偉大なりを意味する「アラーアクバル」と叫んでいた。その後、フランス内相は実行犯の男はイスラエル情勢に触発されたとの見解を示し、フランス国内では対テロ警戒水準が最高レベルに引き上げられた。

また、ベルギーのブリュッセルでも10月16日、オレンジ色の上着に白いヘルメットを身につけた男が発砲し、タクシーに乗っていたスウェーデン人2人が死亡する事件が発生した。男はチュニジア出身の不法滞在者で、事件前にイスラム国のメンバーだとする動画をネット上に投稿していた。その後、イスラム国の系列メディアアマーク通信は、この男はイスラム国の戦闘員だとする後付け的な声明を発信したが、ベルギー国内でもテロ警戒水準が最高レベルに引き上げられた。

また、12月に入っては2日、パリのエッフェル塔近くで刃物とハンマーを持った男が通行人を襲撃し、ドイツ人観光客が1人死亡、2人が負傷する事件が発生した。

逮捕された男はその後の供述で、フランスはガザを攻撃するイスラエルの共犯であり、パレスチナやアフガニスタンでイスラム教徒が亡くなるのを見るのが絶えられないなどと語った。
クリスマスシーズンを狙うテロ
21世紀に入り、アルカイダやイスラム国などイスラム過激派によるテロが猛威を振るうようになり、欧米諸国ではクリスマスシーズンが近づくたびに、毎年のように警察当局からテロに注意するよう呼び掛けるアラートが発信されている。
そして、シリアとイラクで広大な領域を支配したイスラム国が弱体化して以降、欧米諸国ではイスラム過激派関連の大規模なテロ事件が発生していないが、警察当局はクリスマスシーズン中にテロ注意情報を引き続き発信している。
欧米諸国以外でも、たとえば昨年のクリスマスシーズンの際、インドネシアのジャカルタ首都圏警察は12月23日から1月2日までの日程で、ジャカルタ首都特別州とその近郊に位置する西ジャワ州・バンテン州の諸都市を対象にテロ警戒体制を強化した。

特に、欧米権益が標的となるリスクが高いことから、ジャカルタ首都圏のキリスト教会1400カ所あまりに重点的な警備態勢が敷かれ、爆発物処理班が教会構内・周辺での不審物の捜索などを徹底した。また、インドネシア国家警察も治安要員10万人を全国4万カ所あまりのキリスト教会に配置し、テロ警備を強化した。
インドネシアでは2000年のクリスマスイブにジャカルタを含む全国9都市にあるキリスト教会で同時多発的な爆弾テロが発生し、18人が死亡、120人あまりが負傷した。実行組織は、国際テロ組織アルカイダと連携した地元のイスラム過激派ジェマー・イスラミアだった。
近年は幸いにも、欧米で差し迫ったイスラム過激派関連のテロの脅威があるわけではない。しかし、現在のイスラエル情勢の影響により、今年のクリスマスシーズンにおけるテロの脅威は近年のそれとは別物と捉えざるを得ない。

2016年12月19日、ドイツ・ベルリンでは当時開催されていたクリスマス市場に車両で突っ込むテロ事件があり、12人が死亡した。実行犯はイスラム国を支持するチュニジア人の男だったが、欧米各国の情報機関や警察当局はもうすぐ到来するクリスマスシーズンを強く警戒し、テロ警備を徹底することだろう。

在外邦人においては、欧米各国のクリスマスイベントに参加する際は人々が集中する場所には近づかない(そもそも参加しないという選択肢も)、キリスト教会やイスラエル権益、ユダヤ教権益などには近づかない、また、非欧米諸国にある欧米権益には近づかないといった意識を強く持って現地で生活を過ごす必要があろう。
【執筆:和田大樹】