バイデン政権誕生で対中政策が変化する懸念

「日本の政治エリートたちのトランプ大統領に対する見解は複雑だ。外交問題の専門家に現在のホワイトハウスの住人(トランプ大統領)について訊ねれば、ほとんどが批判的に論ずるだろう。しかし同じ面々にオバマ大統領時代が懐かしいかと問えば、ほとんどが否定的だろうし、より強く否定するだろう」

こんな書き出しの一文が米国の外交、安保問題の隔月誌「アメリカン・インタレスト」電子版に掲載された。著者はY.A. と匿名で、論文の標題は「中国に対する対決的戦略の利点」。

このエッセイは2020年4月に発表されたが、ここへきて日本の外交関係者の間で論議を呼んでいる。というのも民主党のバイデン前副大統領が来たる11月の大統領戦でトランプ大統領に対して優位に立っていると伝えられているので、米国の外交方針特に対中政策の変化に日本で懸念が生じてきたことを表しているようだ。

トランプ大統領(左)と“優位に立っている”と伝えられているバイデン前副大統領(右)
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エッセイの筆者のY.A.氏について雑誌は「日本政府の当局者」としており、外務省関係者かと想像できるが、オバマ政権下のアジア政策には手厳しく「中国は変えられる」と曖昧に対応した結果、尖閣諸島や南シナ海での中国の蹂躙を許すことになったと批判する。

一方トランプ政権は、北朝鮮への圧力外交や自由で開かれたアジア太平洋構想を打ち出し「アジアの指導者たちもトランプ大統領の方がオバマ大統領よりもまだ良いと受け止めている」と評価している。

オバマ大統領よりトランプ大統領の方がマシだった?

日本が「貧乏くじをひく」時

つまるところ、筆者はバイデン政権に代われば米国は再び中国に「甘い」政策をとり、日本が「貧乏くじをひく」のではないかと懸念しているのだが、それは決して杞憂ではないようだ。

まずバイデン氏自身の問題だが、 大統領選への出馬を表明した直後の昨年5月2日、同氏は集会で次のように発言した。
「中国に俺たちの昼飯を食べられてしまう(やっつけられてしまう)って? 冗談じゃない!」

トランプ大統領の対中強硬姿勢に対抗する意味で発言したものだったが、逆にバイデン氏が中国に対して「弱腰」と批判された。

その対中姿勢に関連して、副大統領時代の2013年に中国を公式訪問した際、二男のハンター氏を同道させ中国側の要人に紹介したが、帰国後ハンター氏が経営する投資会社に中国銀行から15億ドル(約1500億円)が振り込まれたという話があり、トランプ陣営は選挙戦が本格化するとこの話でバイデン氏を攻撃することが目に見えている。

あのスーザン・ライスさんが要職へ?

さらに、オバマ政権で対中政策の采配をふるっていたスーザン・ライスさんが要職に付くと見られていることだ。

「副大統領候補の内、スーザン・ライスがバイデンと最も良い関係を築けるかもしれない」(ザ・ウィーク電子版5日)

バイデン氏の副大統領には「アフリカ系女性」が有望とされる中で、ライスさんの下馬評が高くなってきている。オバマ政権での安全保障問題担当補佐官としてバイデン副大統領とも通ずるところが多かったライスさんは、副大統領でなくとも国務長官として外交を仕切るのではないかと噂されているが、それはY.A.氏にとっては悪夢だろう。

オバマ政権で安全保障問題担当補佐官として采配をふるったスーザン・ライス氏の下馬評が高まっている

ライスさんは2013年に補佐官就任直後の講演で「中国とは新たな大国関係を機能させようとしている」と言って注目された。習近平主席の太平洋を米中で2分割しようというG2論を容認したと受け取られたからだ。

「ライスにとって中国問題は最も重要な個人的課題」か・・・?

また同じ講演会で記者から尖閣列島問題を訊かれると「米国は主権の問題には立ち入らない」と従来の米国政府の立場から後退した考えを示した。

さらにライスさんは補佐官当時三回中国を単独訪問して習近平主席と会談しており「ライスにとって中国問題は最も重要な個人的課題になった」(ワシントン・ポスト紙)と言われた。

大統領選は4ヶ月先のことだが、そろそろ政権が交代した場合の日本への影響と対策を考え始めた方が良いのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】