機密解除された電子メールで再燃した「ロシア疑惑」

自分宛になぜ電子メールを送ったのか?

オバマ政権で安全保障問題担当補佐官だったスーザン・ライスさんが、三年前に自分宛に「極秘」指定で送った電子メールが5日機密解除され、その内容をめぐってワシントンで再び「ロシア疑惑」論争が巻き起こっている。

機密解除された「極秘」指定メール(politico.comより)
機密解除された「極秘」指定メール(politico.comより)
この記事の画像(5枚)

ライスさんがその電子メールを発信したのは2017年1月20日でトランプ大統領の就任式当日、つまりライスさんにとって補佐官最後の日だった。

メールはその月の5日、ホワイトハウスで情報担当部局の首脳による2016年大統領選挙に対するロシアのハッキングについて説明が行われた後、大統領執務室で連邦捜査局(FBI)のジム・コーミー長官と司法省のサリー・イェーツ副長官がバイデン副大統領とライスさんも同席する中でオバマ大統領の間で交わした会話について記録している。

「オバマ大統領は、この問題に関わる情報当局や(警察などの)法執行機関は『適切な方法
(by the book)』で対応することを強調することで会話を始めた。大統領は、これで法的責任を
問うことの開始を指示もしくは求めているわけではないことを強調した。そして大統領は改
めて、法執行機関は通常通り『by the book』でこの問題に対応するよう求めた」

オバマ前大統領は「ロシア疑惑」の捜査を合法的に行うように指示したように見えたが・・・
オバマ前大統領は「ロシア疑惑」の捜査を合法的に行うように指示したように見えたが・・・

「すべて公開するのが適当ではない」

これだけを読むと、オバマ大統領はいわゆる「ロシア疑惑」の捜査は合法的に行うよう指示したと思えるが、メールの次の段落にはこうあった。

「しかし国家安全保障の観点からは、今新執行部との引き継ぎに当たってロシアに関する情報を全て公開するのが適当ではないかもしれないことに注意しなければならないとも大統領は言った」

これに対してコーミーFBI長官は、トランプ政権の安全保障問題担当補佐官になるマイケル・フリン氏がロシアのキスリヤク駐米大使と頻繁に会話をしていることに懸念を表明し、大統領が「フリン氏には秘密情報を伝えるべきではないということか」と聞くと、コーミー長官は「基本的にそういうことです」と答えたとメールは伝え、次のように締めくくっている。

「大統領はコーミー長官に、今後数週間の間に事態が変わって次期政権と秘密情報を共有することに影響が出るようだったら報告するように指示し、コーミー長官も了承した」

トランプ政権の安全保障問題担当補佐官マイケル・フリン氏
トランプ政権の安全保障問題担当補佐官マイケル・フリン氏

「by the book」は、その免罪符だったか

これについてトランプ支持のニューヨーク・ポスト紙電子版は、次のような見出しで伝えた。

「スーザン・ライスの電子メールは、オバマのチームの背信行為を暴露した」

オバマ大統領がコーミー長官らにトランプ政権の監視を命じ、いわゆる「ロシア疑惑」捜査が始まったというのだが、反トランプのメディアは当然違う見方をする。

「スーザン・ライスを標的にした共和党の先制攻撃は完全に裏目に」( MSNBCニュース)

ライスさんのメールは「ロシア疑惑」の捜査を「by the book」で行うよう大統領が指示し
たことを裏付けた以外の何ものでもないというのだ。

ここで注目すべきは、ライスさんがなぜこの文書を自分宛の電子メールで発信したのかということだ。ホワイトハウスの高官のメールは全て記録に残り、国立公文書館にも保存される。ライスさんは、後にオバマ政権のロシア疑惑が詮索された時に「by the book」を指示していたことを証明するために「トップ・シークレット(極秘)」扱いの電子メールを発信したのではなかったか。

事実、「by the book」という言葉はライスさんのメールの短い文中に三回登場する。しかしそれを強調することと、問題のメールがオバマ政権の最終日に駆け込みのような形で発信されていることに「わざとらしさ」も感じさせるのだ。

互いに批判を繰り返している二人
互いに批判を繰り返している二人

いずれにせよ、オバマ大統領はトランプ大統領を信用せず、機密情報の引き継ぎを渋っただけでなく関係者の捜査も見て見ぬふりをしたことをライスさんのメールは示唆している。

「by the book」という言葉は、その免罪符だったと思えるのだが・・・。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
【機密解除されたスーザン・コリン氏の手紙はPolitico.comより】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。